〜第2夜 彼岸〜
家に着いた時、家には誰も居なかった。
もちろん人が誰も居ないなという意味もあるが、彼女の心の内を聞いてくれる人が誰もいないという意味もある。
両親に自分の気持ちを素直に話してみても
「あなただけが、そんな悩みを持っているんじゃないの。みんな一緒なの。」
の一言で片付けられてしまうのが落ちなのだ。歌夜はこの言葉を聞くのが一番嫌いだった。
―同じ悩みであっても一人一人感じ方は違う!!―
心の中では、そう叫んでいたが、口に出せるはずもなく、出かかった言葉を心の奥底に沈める。
するとそれが、やり場の無い不快な気持ちとなり、心に募る。
歌夜にとって親に助言を求めるなど、悪循環のきっかけでしかなかった。
歌夜は自分の部屋に入り鍵を閉めた。机の傍に鞄を掛ける。
その時、机の上のペン立てにあるカッターナイフが目に付いた。
小刻みに震える手で、それを掴む。
カチカチカチカチ・・・・・・
刃を出す音だけが部屋に響いた。
そっと自分の手首にあててみる。今まで堪えていた涙が溢れ出す。
―私が死んだら・・・どうなるんだろう・・・―
そんな考えが頭を過る。しかし、答えは見えていた。
―どうにもならない。変わらない・・・何も・・・そう何も・・・―
一つ、また一つと涙が零れる。
―私は・・・最初から・・・存在していないようなものだもの・・・―
歌夜は出来るだけ冷静に考えた。刃が血で染まる前に。今の状況をつくった原因を。
第一に自分のクラス。興味なき人々のために自分が死ぬことなど馬鹿馬鹿しく思えた。
歌夜はカッターの刃をしまった。
第二に解決方法。もちろん自分の感情のだ。そして、おかれた状況も。
しかし、自分一人では答えが見つからず、かといって相談にのってくれる相手もいない。
それが第二の原因だった。
歌夜は思い出す。今朝の夢を・・・。
暗き闇が、何処までも続き、道が無く、一歩踏み出したところで目が覚める・・・。今朝見た夢は歌夜がおかれた状況、そして、これからを如実に表していた。
歌夜は机の上に置いてある小ビンを手にとった。中身は睡眠薬。歌夜は、それを大量に口にふくみ、無理矢理飲み込んだ。
視界がぼやけていく。歌夜は倒れるようにベットに横になり、深い眠りについた。
―このまま目が覚めなければいいのに・・・―
そんなことを思いながら・・・。




