〜第1夜 空蝉〜
少女・・・歌夜は、そんなに明るい子ではなかった。かといって暗いわけではない。周りから特別、無視されているとか、いじめられているとか、そういったことは一切無かった。しかし歌夜は誰とも口を聞かず、一人、席に座ったままだった。
―せめて、このクラスで仲の良い子が来るまでは・・・―
と、思いながら退屈な時を一秒刻みで過ごしていた。
歌夜は高校一年生である。入学して間もない頃は、今より明るく振舞った。中学校時代の自分を変え新しい高校生活を始めたいと思ったのだ。そのため級長も引き受けたりした・・・が、それは無駄な努力でしかなかった。歌夜は人と接することに慣れておらず、周りの話題にもついていけなかったのだ。流行には、さして興味が無く、服装や立ち振る舞いもしっかりしており校則は絶対に破らない、広い意味での‘今時の子’から少し離れた存在・・・そんな子だった。歌夜は初めのうち、周りの人と仲良くなりたいと思って行動していたが、今は違う。周りの人間など興味が無く疎ましいとさえ思っていた。しかし、その反面では本当の友達を求めている。自分の中で多くの感情が交錯する・・・歌夜にはどれが自分の本心なのか分からなくなっていた・・・。
昼休み。歌夜にとって一番退屈な時間である。仲の良い子がいるグループでいつも食事をとるのだが、その時も誰とも話さず、一人黙々と食べている状態・・・つまり一人で居ても変わらない状態なのだ。歌夜はそんな状態が嫌だったが、‘一人よりまし’と自分に言い聞かせ、この状況に半年近く耐えてきた。これからもずっとこれが続く・・・はずだった。
「詩乃、一緒にお昼食べよう。」
いつもどおりの科白。友達・・・詩乃の答えは決まっているはずだった。しかし・・・
「ごめんね。今日は、食堂で皆で食べるの。」
詩乃は財布を手に取り、急いで教室から出て行った。歌夜は一人、教室に取り残された。歌夜は詩乃のいった何気ない一言が、自分の中で、怒り、悲しみ、といった感情に変化していくのを感じていた。
―‘皆’の中に私は含まれていないの・・・?一緒にいたのに・・・?―
涙が頬を伝う。
―皆にとっての私の存在って・・・一体・・・?居ても居なくても・・・―
それ以上は考えたくなかった。色々な不満から叫び声をあげそうになった。
―そうなる前に・・・―
歌夜は涙を拭い、鞄を持って教室を飛び出した。




