〜第19夜 忘却〜
「お姉ちゃん!!」
目が覚めた時、尚樹は祖母の家にいた。
悲しい夢を見ていた。姉が自分を助けてくれて、彼女はそれと引き換えに命を落とす・・・考えたくないような夢だった。
―あれ?―
姉の顔が思い出せない。姉の声も。はたして自分に姉などいたのだろうか・・・そんな気持ちになる。
「目が覚めましたか・・・尚樹。」
祖母が部屋に入ってきた。
「ねぇ、俺は何でここにいるの?」
「友達と遊んでいて貧血で倒れて、ここに運ばれたんです。」
何かが違う気がした。しかし、何が違うのか自分でも分からない。
「お姉ちゃんは?」
それを聞いて祖母はクスッと笑った。
「何を寝ぼけているんです。尚樹は一人っ子でしょ。」
―ただの夢か・・・―
祖母に言われたら認めざる負えない。そう、全てはただの夢だったのだ。
「昼食が出来ていますから起きて食べなさい。」
「うん!」
今までの事など忘れ、尚樹は廊下を走っていった。その姿を祖母は悲しそうに見つめ涙を流した。
「姉の事など忘れて幸せに暮らしなさい・・・。貴方の姉は・・・もうすぐ・・・」
==研究所==
「それで・・・歌夜の中には姉が?」
「はい。」
「そう・・・姉がいたなんて初耳ね。」
ゾフィはそう言うとため息をついた。自分の調査不足に対して、だ。窓の外を見るゾフィの目は何故か悲しそうで・・・まるで何かに怯えているようだった。
「今日はもう部屋に戻りなさい。貴女も疲れてるだろうし・・・私も・・・ね。」
部屋から出て行く弥娜を見送り、ゾフィは一人部屋に残って窓の外を見た。
「貴女を見ていると不安でならないのよ・・・」




