〜第17夜 修羅〜
弥娜が目をあけた時、足元には無数の死体が散らばっていた。
そして、その中心に一人の女性が佇んでいた。着物は返り血を浴び紅く染まり、手には二本の日本刀を持っている。
「来たわね・・・。」
その女性は弥娜を見詰め微笑んだ。
「華世ね・・・弟は何処?」
「貴女の足元よ。」
弥娜の足元には尚樹の死体が転がっていた。
「尚樹!!」
「死んでないわ・・・現実ではね。でも精神崩壊くらいは起こしてるかも。」
華世は嬉しそうに、また微笑んだ。
「まさか・・・岩乃さんも、貴女が・・・」
「嫌ねぇ。人聞きの悪い。大きな負の感情を持つ人間は、時として霊的力を発揮する事があるの。私はただ、その人の後押ししただけよ?」
「負の感情を持つ人間・・・?」
弥娜の様子をみて笑う華世を弥娜も負けじと睨んだ。
「うふふ・・・私が憎いの?」
華世は持っていた日本刀の片方を弥娜に投げ渡した。
「だったら私を殺しなさい。どうせ私は死ななければならないのだし。いつもは自分で自分を殺してきたけど・・・他人に殺させるのも面白いわよねぇ。」
そう言うと華世は刀を突き立てて弥娜に向かって襲いかかってきた。
弥娜はとっさに刀をかざし受け止めた。
「貴女は・・・何が目的なの?」
「目的?私が死ぬこと。または貴女を殺すこと・・・私はどちらに転んでも構わない!!」
華世は様々な方向か角度を変えて襲いかかってきた。
華世が持つ鉄の刃が幾度となく弥娜の肌を紅く染めた。それでも弥娜は必死に避けた。
死にたくはない。もちろん殺したくもない。
「アハハハハ!楽しいわね!そんなに死にたい?殺らなきゃ殺られるのよ?私はまだ掠り傷一つ無いわよ!!」
それでも弥娜は刀を華世に向けようとはしなかった。
否、向けられなかったのだ。今の弥娜は避けるのが精一杯であり、攻撃する余裕など、どこにも無かった。
殺らなければ殺られる、結局それが現実であった。
―イチかバチか・・・―
弥娜は向かって来る華世にむけて刀を翳し目を閉じた。鈍い音と共に弥娜の手が紅く染まった。華世の血だ。弥娜はそっと目あけた。
華世の姿は何処にも無く、周りの景色も無くなり闇が広がっていた。そこに残されたのは、弥娜と、尚樹と、もう一人・・・




