〜第10夜 浮世〜
歌夜の異変に最初に気づいたのは母だった。
夕食時、部屋のドアをノックし、声をかけたが、返事が無い。嫌な予感がする。
母はスペアキーを使って恐る恐る部屋に入った。
電気もついておらず部屋の中は暗い。母は電気をつけ、そして驚愕した。目の前には、散乱した睡眠薬、横たわり深い眠りについた自分の娘・・・。
母は慌てて駆け寄り歌夜を抱え起こし、何回も名前を呼んだ。だが返事は無い。・・・が、脈はあるし、呼吸もしている。歌夜はすぐに病院に運ばれた。
歌夜はそれから、その病院で1年間眠り続けた。
その間、歌夜の色々な検査が行われた。しかし、どこにも異常は無い。ただ眠り続けているだけ。いつ目覚めるかは、分からない。それが結果だった。
母は精神を病んでしまい、夫を殺して自殺してしまった。
引き取り手の無い歌夜は、山奥の研究所に移され、そこで更に2年間眠り続けた。
歌夜が眠り始めてから、今日でちょうど3年目。この日、研究所に一人の少女がやってきた。
髪は短く、背は低いが、15〜16歳くらいの年格好である。
研究所の廊下を歩く少女に一人の研究員が声をかけた。
「お待ちしていました。夢見沢弥娜さんですよね?」
「ええ・・・貴方が連絡をくれた山下聡さんですか?」
「はい。例の少女はこっちです。」
二人は廊下を曲がり、少女のいる部屋に向かった。扉の前に立った、その時・・・
―来ナイデ・・・邪魔シナイデ・・・―
弥娜の頭の中に強烈な念波が伝わってきた。弥娜はその場に手をついた。
「大丈夫ですか?!」
山下は突然のことに驚いた様子だった。
「大丈夫です。少し立ちくらみがしただけですから。」
弥娜は心配する山下をよそに自らの手で扉を開けた。
部屋の中にあったのは、弥娜が今まで見たことも無い機械や大量の書類だった。
そして部屋の中心の天蓋付きのベットに例の少女は眠っていた。
「この人が・・・四条歌夜?」
「ええ、そうです。」
答えたのは女性だった。気がつくと、その女性は弥娜の後ろに立っていた。
「申し遅れました・・・私がここの研究長のゾフィ・ウィリアムです。」
「夢見沢弥娜です。宜しくお願いします。」
弥娜は軽く頭を下げた。そのまま横目で歌夜を見る。歌夜はちょうど寝返りをうったところだった。




