王様のちから
「おぉ、勇者よ。死んでしまうとは情けない」
その言葉と共に勇者は目覚める。
この世界の常識ではあるが、あえて説明しよう。
魔王を討伐する使命を持つ勇者には幾つもの特別な力が備わっている。
単純に能力が強いというのは勿論ある。
才能が振り切れているというのだって勿論ある。
しかし、何よりも凄まじいのは『死んでも甦れる』という点だ。
どれだけ凄惨な死に方をしても。
塵一つ残っていなくとも。
『おぉ、勇者よ。死んでしまうとは情けない』
王様がそのように言えば復活が出来るのだ。
「さぁ、今一度立ち上がり、魔王討伐に向かうのだ」
その言葉と共に勇者は送り出される。
再び死地へ。
「勇者様。ご無事でしたか」
王城を出ると共に勇者の最大の仲間である女賢者が泣きそうな顔で抱き着いてくる。
『今回の』死の際、勇者は彼女を守るために殿を務めて時間を稼いだのだ。
勇者は蘇ることは出来るが、それ以外の存在は蘇ることが出来ないから。
「本当にごめんなさい。私が弱いばっかりに――」
泣き続ける賢者を抱きしめながら勇者は静かに囁く。
「確認が取れた」
途端。
賢者の体が僅かに震えた。
泣き声をあげながら、勇者にしがみ付き泣いている彼女の姿は傍から見れば一種の感動的な再会にしか見えないだろう。
だが、真実は違う。
「真ですか」
勇者にだけ聞こえる声は力強い。
泣き声をあげているのに、実に器用に声を出すものだ。
「あぁ。先代勇者……いや、君の姉は確かにいた」
そう。
実は彼は突如、姿を消した先代勇者こと賢者の姉を継いだ二代目の勇者なのだ。
「では、やはり――」
勇者の体を掴む賢者の指の力が強くなる。
掴まれる側も、掴む側も痛みを感じるほどに。
「君の予想は最悪の形で当たっていた」
「勇者様」
「あぁ。しかし、まずは魔王退治だ」
「はい。かしこまりました」
実のところ、今回の勇者の死亡の本当の原因は魔王軍との戦いではない。
とある目的で『とあるダンジョン』に挑んでいた際、怪しまれぬよう最後の最後にあえて魔王城のど真ん中に転移魔法を使うことで文字通り命がけの擬態をしたのだ。
全ては真実を知るために。
「魔王は強い。しかし、勝てない相手ではない」
「はい」
「だから、目的を果たすのは魔王を退治してからだ」
賢者は頷き勇者から離れた。
「行きましょう。勇者様。今度こそ魔王を倒すのです」
「あぁ。よろしく頼む」
人々の目を意識しながら二人は完璧な勇者と賢者を演じながら魔王城へ向かった。
*
魔王を倒して数ヵ月。
勇者と賢者は『とあるダンジョン』……否、王城の最奥で目的の物の前に辿り着いた。
巨大な水槽とその中に浮かぶ幾重にも結ばれた鎖――そして、浮かぶ水死体。
賢者は一瞬、息を飲んだがすぐに気を取り直して水槽を破壊した。
流れ、床にあふれる水。
水が失われた故に倒れ伏す遺体――賢者は泣きながら抱きしめる。
その光景を沈痛な面持ちで見つめながら、それでも勇者は自分のなすべきことをした。
「おい。今すぐあの呪文を唱えろ」
魔王以上の悪党に剣を突き立てながら勇者は言うと、魔王以上の悪党は辛うじて首を振る。
……が、その耳を賢者が火の魔法で焼いた。
「王様。従わなければもっと酷いことをいたします。それでも劣情を催したあなたがお姉さまになされた事より随分と優しいですけれど」
悪党……もとい王は観念してあの呪文を唱える。
自分だけの細やかな秘密の楽しみが自らを破滅させたのだと理解しながら。
手元に保管しておきたかったという些末な独占欲がこの光景をもたらしたのだと後悔しながら――。
「おぉ、勇者よ。死んでしまうとは情けない」
言葉と共に遺体が甦る。
劣情を抱いた悪党に『保管』されていた命がようやく解放された瞬間だった。
*
先代勇者の帰還と共に王が姿を消したという事実。
様々な憶測や噂が流れたが、少なくとも現代では王が自らの命を捧げて先代勇者の命を救ったという物語として伝わっている。




