卒業パーティーで婚約破棄されましたが、そちらの『正社員デバイス』はもうすぐ爆発しますわよ?
「ユリカ・アストレイド! 貴様との婚約を、本日この場をもって破棄する!」
王国魔法訓練校、卒業記念パーティーの華やかな喧騒が、その一喝で水を打ったように静まり返った。
声の主は、私の婚約者であるレナード・エル・フォークス侯爵令息。
金髪をかき上げ、いかにも「選ばれしエリート」といった傲慢な笑みを浮かべている。
彼の隣には、大公家正社員(仮)の証である「深紅の魔導衣」をこれ見よがしに羽織ったステイシアが、勝ち誇った顔で寄り添っていた。
「……左様でございますか。理由、お伺いしても?」
私は、手に持ったグラスを揺らしながら、極めて冷静に問い返した。
内心では、07:10の爆撃(予約投稿)まで残り時間が少ないことを計算し、早くこの茶番を終わらせたいと願っている。
「理由だと? 貴様のような『万年E評価』の無能、我が侯爵家に相応しくないからだ! 向上心もなく、卒業後は『派遣』などという、誰にでも代わりの務まる底辺の職に就こうとする卑しき女め!」
レナードは、汚物を見る目で私を指差した。
「対して、ステイシアは違う。彼女は大公家の魔力炉を管理する『正社員』という、若手エリートの最前線に内定しているのだ。我が侯爵家の未来を支えるのは、貴様のような寄生虫ではなく、彼女の輝ける才能だ!」
「そうですわ、ユリカ。あなたは一生、誰の記憶にも残らない『作業員』として、輝ける私を、指でもくわえて眺めていなさいな。おーっほっほっほ!」
ステイシアの高笑いが会場に響き渡る。
周囲の貴族たちも、クスクスと私を嘲笑っていた。
(……やれやれ。脳内の回路までコピペで構成されているのかしら、この方たちは。何も分かっていませんわね)
私は、ステイシアの胸元で輝く「正社員用・魔力供給デバイス」に視線を走らせた。
彼女がドヤ顔で見せびらかしているその最高級の魔導具……。
(あら。そのデバイス、魔力の流れが無限ループしていますわ……。あと五分もすれば、自慢のローブごと、黒焦げの炭になりますわよ?)
一言、指摘してもよかった。
けれど、私はプロの聖女だ。依頼されていない案件に首を突っ込むほど、お人好しではない。
「承知いたしました、レナード様。どうぞ、そちらの『素晴らしい正社員』の方と、末永く爆発……失礼、お幸せに」
私は優雅にカーテシーを決め、騒然とする会場を後にした。
「ふん、負け惜しみか! 追い出された無能に、居場所など、どこにもないと思え!」
背後でレナードの怒声が聞こえるが、もはや私の耳には届かない。
テラスへ出ると、夜風が火照った頬に心地よかった。
「ユリカ様。……ご希望の『時給2,000魔石・残業ゼロ』の契約、締結いたしました」
闇の中から、黒服の男が音もなく現れ、跪く。
彼は、私が密かにコンタクトを取っていた、知る人ぞ知る特級技術者派遣ギルド『レッドライン』の担当者だ。
「……早いですわね。条件通り、執筆用の個室も確保されていますか?」
「もちろんです。大公家の現場がバグで崩壊するのを特等席で眺めながら、存分に筆を振るっていただけるかと」
「素晴らしいわ。行きましょう。……07:10の爆撃まで、あと三時間しかありませんもの」
私は、遠くの会場から聞こえ始めた「パチパチ」という不穏な魔力の放電音を背に、夜の街へと踏み出した。
第3話もお読みいただき、ありがとうございます!
ユリカにとっては、婚約破棄のショックよりも「07:10の予約投稿」の方が一大事。
世間的には『正社員=勝ち組』とされていますが、責任という名の鎖に縛られたり、薄給でサービス残業をするより、技術一つで現場を渡り歩く自由な『派遣』の方が、実は最強なんじゃないか……。そんな思いを込めて書いています(笑)
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