「正社員」という名の呪縛。地獄の現場(サービス残業)は、御免ですわ。
王国魔法訓練校の昼休み。
私は、学食の騒がしい喧騒から離れた裏庭のベンチで、一人静かに魔導端末を操作していた。
もちろん、07:10の爆撃(予約投稿)に対する読者からの反応(魔力)をチェックするためだ。
「聞いた!? ステイシア様、大公家の魔力炉の『正社員候補』として内定が出たらしいわよ!」
「すごーい! あそこって給料(魔石)も高いし、一生安泰よね!」
遠くから聞こえてくる、クラスメイトたちの浮ついた声。
彼女たちが憧れる「大公家の正社員」。
それは、この国では最高のエリートコースとされている。
だが、私は知っている。
先日、実習で行かされた「現場」の真実を。
魔力炉の熱気で室内は四十度を超え、蒸せ返るような汗の臭いが立ち込める。
「おい、早くこの魔力漏れを止めろ!」と、血走った目で怒鳴り散らす主任魔導師。
足元には数日帰っていないことを示す寝袋と、安物の魔力回復薬の空瓶が転がっている。
(……救いようがありませんわね。一箇所のバグを直そうとして、無理やり別の安全装置を十カ所も殺している)
設計ミスを、現場の「根性」と「不眠不休」でカバーしようとする、地獄の自転車操業。
「憧れの正社員」たちは、顔を土色に変え、誰が「爆発の責任」を取るかだけを、互いの端末で牽制しあっているのだ。
「……悪いことは言いませんわ。一度、メイン回路を停止して、最初からやり直すべきです」
実習中、つい口を滑らせた私に、彼らが向けたのは、逃げ場を失った獣のような「敵意」。
「黙れ、学生! 余計なことはしなくていい、言われた通りに魔力を流し続けろ! 止めたら損害賠償だぞ!」
……そう。
責任ある立場というのは、時に「正しい判断」よりも「体面」を優先し、沈みゆく泥舟と一緒に底へ向かうことを強要される。
「ステイシア様が、あんなに嬉しそうに地獄へ飛び込むなんて……脳を動かす魔力が暴走していますわ」
私は優雅に端末を閉じ、立ち上がる。
「ユリカ! ちょっと、あんたもステイシア様のお祝いに来なさいよ! 派遣なんていう『逃げ道』を選んだあんたには、一生縁のない華やかな世界なんだから!」
クラスメイトの一人が、勝ち誇った顔で私を呼びに来る。
「ええ、本当におめでたいですわ。私のような無能には、とてもあんな『過酷な……あ、いえ、華やかな』場所は務まりませんもの(棒)」
私は微笑みを浮かべ、彼女たちの輪へと向かう。
「地獄行きの特急券」を握りしめて笑う彼女たちの姿は、今夜の『禁書』の絶好のネタになりそうですわ。
第2話もお読みいただき、ありがとうございます!
正社員という響きは素敵ですが、泥舟と一緒に沈むのは御免被りたいものです。
ユリカが選んだ「派遣聖女」という生き方の強みが、これからどんどん発揮されていきます!




