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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

育つ

子供の頃見た家での光景が、今でも鮮明に目の前にある。

親の怒鳴り合い、人格否定、大声、壁の穴、握り拳、お金、金切声。首元を引く腕。引きづられる体。



楽しい内容ではありません。

重く暗い物語です。

※この物語はフィクションとなっております。

表現として差別、偏見に感じられるような言葉を用いている箇所ありますが、それらを助長、主張する意図は一切ありません。

ご了承のうえ、お読みください。







子供の頃見た家での光景が、今でも鮮明に目の前にある。

親の怒鳴り合い、人格否定、大声、壁の穴、握り拳、お金、金切声。首元を引く腕。引きづられる体。


目の前が涙でよく見えない。

起こっていることに、ただ泣くしかできない自分の体。



ただただ、かなしかった。

のだと思う。

正しい感情を、私は持たない。

どう感じていいのか、何を考えているのか、ずっと空っぽだから、分からない。知らない。



いつもただ空っぽで、空虚で、消えたかった。

消して欲しかった。


幸運だったのは、弟がいた事。

それだけが、私の生きる理由だったのだと思う。

なんで弟がいるということで生きようという考えに繋がったかは知らない。

仲間意識かもしれない。


あそこにいることは、私にとって苦しかった。


いつだったか、フリーダイヤルの相談電話にかけたことがあった。

一ヶ月以上、悩み続けた。

相談したら変わるのか。

知らない大人が介入して、もっとひどいことになる。

そしてきっと無責任に「仕方ないでしょう」「みんな大変」「あなただけでない」そう言ってぐちゃぐちゃに壊していくんだ。

だってそもそも、社会がまともなら親はこうなってない。


結果、つながらなかった。

静かに、ほっとした。繋がらなくて良かった。

繋がらなかった。結局こうなる。

社会はこんなもん。

きっと今が一番まし。何も起こらず変化しない。

弟と離されない。


学校もクラスメイトも地域の人も、みんな敵。

バレてはいけない。

ただ踏み荒らしていく。他者に理解を示すこともできない人たち。

考える頭のない人たち。


心身のバランスを崩して不登校を繰り返しながら生きていた。

ただ時間が過ぎていた、と思う。

家が荒れてるのに家にいるって、何か変だけど、家が荒れてる人間にはきっとわかってもらえる感覚だ。

それ以外の人間には、絶対に理解できない。


弟はそんな中、学校を休まず部活も積極的に取り組んで、勉強もできて。

本当にすごいと思っていた。

楽しく、幸せに生きて。


学校では先生達に弟と比べられた。

お姉ちゃんはどうしてああなのかしらね。

テスト、お姉ちゃんと違って良くできてる!

そんなことで泣かないで。

弟君はあんなにできるのにね、あっ。


家では色々聞かされた。

女はバカだからな。

どうせ結婚したら家族じゃなくなるし戸籍なんか別になる。

お前、そんな事言うなよ。

今金がないんだよ!!

誰のおかげで

なんでお前はそうなのかな!?

頼むから普通になってくれ



ねえ、私、何も頭に入ってこないの。

家の状況知ってますか。言い訳か。弟はできてるんだから。

ただ黙って生きてるだけ。

言う通り動いてる。

それでも周りはうるさくて。

全部、生きるのなんて、どうでもよくて。

でも、学校行って普通にしてなきゃ。

他人が干渉してくる。


なんでそんなに怒りながら、ご飯を作るの。

作らなきゃいいのに。

なんで怒りながら会社に行くの。

私、何も望んでない。

私のせい?


毎晩怒鳴り声と子供の泣き声が聞こえてきたら、虐待の通報をされてもおかしくないはずだけど、そんなことなかった。

それは密かに救いだった。

弟といられるから。


男女なら、兄弟でも引き離されるだろう。

仕方ないんだって。

男の子と女の子は違うのって。


クラスメイトの一人に、親の離婚で兄弟姉妹引き離されてから変わった子がいる。

常に机に突っ伏して寝ている。

先生の呼びかけに応えない。

髪がボサボサ。

課題は未提出が基本。


たまに話す事があったが、その子は優しい人だった。

もう人に心を開くことはないだろうなと、そっとしておいてあげればいいのにと、話しかける教師達を見て思っていた。

仕事上、話しかけなければいけないのだろう。

ばかみたいな仕組みだ。

理解できない異物をみる目で、お互い話ができるわけない。


小学校は不登校を繰り返しながら卒業し、中学校は毎日通うと決めてどんなに苦しくても休まず行っていた。

そんな中、保健室の先生に親との不仲を疑われた。

事の発端は生理痛で動けなくなったことだった。

病院には行ってるの?

いいえ。

なんで?


なんでって。

なんでみんながみんな病院に行けると思ってるんだろう。学校の先生ってこういう不思議な価値観を持ってる。

うちの父親が聞いたら怒鳴り上げるだろうな。


お母さんに話した?

ここで詰まったのがまずかった。


お母さんと仲悪いの?

家ではどうしてる?

親戚は?

友達は?この前スーパーで…


詰められ、適当に笑いながらうまくいなせたはず。

質問をいなしながら、やっと動けるようになった体を保健室の外に出せた。

そのまま生徒玄関へ向かい、少しの間、放課後の下駄箱前に座ってぼーっとしていた。

そしたらなんと、担任の教師が下駄箱に来た。

明らか私に用があるようだった。


お母さんと仲悪いんだって?


ほら、大人は信用できない。

こんな十分も経ってない時間で個人情報もらして。

何もできずに荒らすだけ荒らすくせに。


そんなことはないと伝え、直ぐに外に出た。




電話が来て、大人が来て。


弟は父に引き取られ、私は親戚に預けられた。

母は病院へ入院になったと聞かされた。

今になってから考えてみると、多分、精神科の病棟に入れられてしまったのだと思う。

そりゃ誰でもおかしくなって暴れる。

掴まれて閉じ込められて、発狂しないほうがおかしい。

普通に生きているだけで、そう感じている方たちが集められているのだろう。

それはどんなに苦痛だろうか。


弟が、父に連れて行かれる前にいろいろ話してくれた。

父は僕だけ連れて行くつもりなこと、母がどうなるかは分からないが私は母方の祖父母のところに行くことになるだろうということ。


なるほど。

前なんか祖母が言ってたな。

地元に残って介護してくれるでしょって。



寂しい。


ごめんね、巻き込んで。

もうこんなことしないから。

もうこんなことないと思うから。

ごめんなさい。


夜になると布団でいっぱい泣いた。

涙が止まらなかった。

余計なことしかしない。

役に立たない。

無意味。無価値。


私は加害者だ。




私は通信の高校へ通うことになった。

通わせてもらえるだけありがたいと思ってね。


通わせずに放り出せばいい。

世間体を気にしてるのはそっちのくせに。


私は良くも悪くも生かされていた。

飼われた豚と何が違う?





外には雪が自分の背丈以上に積もっている。

凄いな、何センチだろう。


弟がいるところは寒いだろうか。あったかいだろうか。

もう弟に会うことはないだろう。

もう、会えない。

離れてどのくらいだっけ。


勘違いしないでほしい。

私は誰も恨んでいない。


卒業したら家を出て、バイトをして、もう会えない弟の大学の費用を貯めて。




ごめんなさい。

こんな役立たずでごめんなさい。


もう何も望みません。


どうか、終わらせてください。

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