第一章 六話 『シャドウ・エスケープ』
今、ベルガドルムがあの男のことで、殿下って言ってなかった…?
「背中につけているのはリューズか。では、腰のがアルクということでよいか?」
「そういう事になります」
ジリジリと少しずつ後ずさり、距離を置こうとするベルガドルム。
「そうかそうか。」
クククと笑う。殿下と呼ばれた男。
「我に献上する気は…」
「無いに決まっているではありませんか。私が先に見つけましたので」
どストレートに返したぞ!?
「…。」
ジトリとまるで値踏みをする様にベルガドルムを見つめる殿下。
が、
途端に威圧感を緩める。
「アルク。我と話をしよう」
「えっ」
笑顔でそう言われた。
不意に声が出てしまっていたらしい。
「ほほう。どうやら話ができる秘宝らしいな。ベルガよ」
オレは、ハメられたらしい。
ベルガドルムの余計なことをするなと、どぎつい怒りの視線がオレを凍らせる。
「我名は、バルグリアズ。この国ガルナーデの王子だ。」
ある程度オレも予想がついていた。
だって、殿下って言ってたし。
不意に、バルグリアズは自信に溢れていたその顔を変える。
「我はな。いつもいつも狭ーい王宮の中で、独りぼっちの寂しい王子なのだ。」
眉尻を大きく下げ、懇願するようにオレに語りかける。
「だから我は、」
ブンッ
語りながら姿が消える。
「どっせぇーーい!!」
リューズの気合のこもった声が聞こえた。
ガキンッッ!!!
直後、瞬時に抜かれた龍頭真刀と前蹴りの様に左足を突き出し、ポケットに両手を入れながら放たれた金色のカンフーシューズがギリギリと音を立てる。
「力ずくでお前を奪う事にした。」
ニヤリと口元に牙を見せ嗤う。
ベルガドルムとリューズにやっと慣れ始めたってのに、またオレ奪われんのかよ!
「嫌なら、力を貸すぞ?『奇剣アルク』」
鍔迫り合いの中、オレに語りかけるベルガドルム。
ドクン…
ドクン…
ドクン…
いや!!痛いの勘弁!!
「なんだと!?」
オレの全力の拒否に目を丸くするベルガドルム。
キィイイーーーン!!
オレの言葉を聞き、バルグリアズの足を弾く。
「おっと、噂のアルクっていうのはなかなか我儘な秘宝の様だな」
崩れたバランスを戻しながらこちらに向き直す。
「世の中、そう思ったようにうまくはいかないのですよ。殿下」
ベルガドルムはやれやれと肩をすくめる。
ギャンッ!!と距離を詰めてくるバルグリアズ。
迎え討つ様に龍頭真刀を中段に構えるのベルガドルム。
放たれた蹴りを龍頭真刀で弾き、薙ぎ払う。
次々に行われる絶え間無い攻防の中オレは思う。
我儘だと言われてもしょうがない。
だってオレはスキルを、魔法を使えるわけじゃない。
それ以上に魔力を流された時のあの痛みは尋常じゃなかった。
自分の無力さがオレを弱気にさせる。
「無理はいけねぇ」
激しい攻防の中でオレを気にかけ話してくるリューズ。
「色々語った仲だ!お前さんの気持ちも多少わかってるつもりだ!」
ここ二日間だけだがな!とリューズは、はにかんだ気がした。
ごめんリューズ!今は役立たずだけど、いつか借りは返すよ。
「段々と飽きて来た。そろそろ本気でいただきに行くとする」
少し離れたところで今までの笑みを消し、周りの瓦礫が舞う程の強烈な赤いオーラを纏う。
「ここまでだな。もういいぞリューズ」
小声でリューズに語りかける。バルグリアズは聞こえない。
「はいよ!」
待ってました!と疲れた様子でベルガドルムに応える。
「家のことは頼んだぞ。ベリア」
…….誰!?
「お任せください。兄様」
後ろから女性の声が!
兄様ってもしかして!!
残念ながら、オレからは見えない後方から声が聞こえる。
「?。何をしている?」
オレたちのやりとりを勘づき、動きを止めるバルグリアズ。
バルグリアズからは女性が見えていないらしい。
「気づいた頃には、もう遅いですよ。殿下」
初めに会った時と同じ獰猛な笑みを浮かべるベルガドルム。
何か企んでいるようだ。
「shadow・escape」
右の手のひらを心臓の位置へ掲げ呟く。
オレたちの足元から濃紺の光が輝く。
「!!しまった!」
光を見たバルグリアズが瞬間的にオレたちに向かってくる。
これが何か理解した様子だ。
「やられたな」
女性一人が佇む瓦礫だらけの部屋で、俯き呟くバルグリアズ。
「申し訳ありません。」
頭を下げる女性。
バルグリアズは女性をしばらく見つめる。
「はぁ、まぁよい。こうなればベルガを見つけ出してアルクを奪うまで」
全く諦めていない様子だ。
「ですが、殿下が破壊された屋敷は直していただきます」
顔を上げた女性は怯むことなくバルグリアズに声をかける。
「….。」
有無を言わせ無い女性の表情にひたすら頷くしかないバルグリアズだった。
「なんとかなりましたねぇ!旦那ぁ!」
リューズが半透明な状態で出てくる。
「…で、ここどこなんだ?ベルガドルム?」
何処もかしこも見渡す限りの森林だ。動物の声が四方八方から聞こえてくる。
「ここはレリグシア王国。第五界域の森だな」
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