第一章 三話 『ゼルゲッテン』
三話です。
「なに固まってんだ?」
ずいと、そのイカつい顔を寄せてくる。
「…いや、だれ?」
そう、さらに意味がわからん。なんだこの半透明なオッサンは…。
ってか、近いわ!
「調子はどうだ?」
少し遠い場所から声が聞こえてくる。
どうやら、邪龍ベルガドルムと呼ばれていた男らしい。
よく見るとかなり良い顔立ちをしている。
黒くツヤのあるツンツンした若干長めの髪に、襟足だけ腰まで伸びている。
服装も全て黒い。まるで転生前の世界のスーツにネクタイ、革の靴の様だ。
「別に…悪か無いけど…」
「ふむ、流石奇剣アルクだ。噂以上の代物だ」
満足げに語るベルガドルム。
「なぁ、ちょっと聞きたいんだが」
「なんだ?」
「オレ、全く状況が把握できてないんだが」
「ああ。時間で言えばあれから約四時間程経っている。そして、ここは私の根城だ。貴様が居た第一界域のダンジョン、ソーディリムから二つ程山と海を越えた龍の国ガルナーデだ。貴様は先の戦闘の反動で意識が無くなってしまっていたから大人しいうちに私が連れ帰ったのだ」
「根城…。ガルナーデ…」
見渡すと、まるで貴族が住む城の一室のように赤いカーペットに複雑な形に掘られた木で作られたテーブルや椅子が目に入る。
しかし、壁は石造りが剥き出しになっており、調度品などは無く質素な感じだ。
「旦那ぁ、まだコイツ理解できてなさそうだぜ?」
半透明でイカつい顔のおっさんが言う。
スキンヘッドに緑色でチェック柄の鉢巻きのようなものを巻いている。
服装も袖なしのチョッキに中は裸、ダボダボで迷彩柄風なズボンに真っ黒のブーツを身につけている。
ムキムキの体でこんな格好すんなよ、全部が怖いわ!
「そうだよ!なんっもわかんねぇ!この世界はどんな所で、どんな生き物がいて、人がいて、どうなってんのかさっぱりだ!おまけに自分の事も、どうやらこっちでも『あるく』って名前なんだって事だけしかわからん!」
オレは勢い任せに言いたい事全部言った。
「はぁ…」
ベルガドルムは明らかに面倒そうな顔で息を吐く。
「な、なんだよ」
「リューズお前の方が適任だ。説明してやれ」
「全く、しょうがねぇ旦那だこってぇ!」
イカつい顔のオッサンはリューズと言うらしい。
「まずは、お互い自己紹介でもすっか、な?」
「あ、ああ」
「じゃあ、俺からな!」
リューズは自慢げにムキムキの上腕二頭筋を見せつけてくる。
アピール激しいなこのオッサン…。
「俺の名前は、宝剣・龍頭真刀。龍の角を元に作られた剣で、第二界域にあるダンジョン『パラドム』に居た。元はお前さんと同じ剣だぜ!」
…嘘だろ?
「あ、リューズってのは、旦那がつけてくれたあだ名ってやつよ!」
「ほ、本当に剣なのか?その体はなんで…?」
「ああ、本体はあそこだよ。」
指を刺すその先には、一振りの大きく真っ赤な大剣が壁に立てかけて置いてあった。
「リューズは、私の愛刀だ。大きさもさる事ながら、何より先天性スキルが良い」
そう言うベルガドルムの顔は得意げだ。
また、知らん言葉が出てきちゃったよもう…。
「ま、まあ。次はお前さんだな」
…この世界の常識が分からないから、どこから説明して良いのか分かんないな。
「まずは、名前かな?オレの名前は、進道 歩だ。歳は17歳。あとは…」
「おい、貴様の名前は『奇剣アルク』では無いのか?」
「いや、名前は『あるく』である事には間違い無いけど、そこの認識がよく分からないんだよね。そもそも『奇剣アルク』って何?」
「とりあえずまずは、俺がこの世界について説明するぜ!」
「頼むよ」
やっとちゃんとした説明聞けるよ。わかりやすくね。
「この世界のことは、ゼルゲッテンという。んで、ゼルゲッテンには五つの国がある。その一つがここ龍の国ガルナーデ。そして、旦那はガルナーデに居る龍族でも上位種のダークドラゴン。ちなみに、上位種に揃うドラゴンたちは、所謂この国の貴族様だ。」
ベルガドルムは貴族なんだな、なんか納得。
「他の国はというと、まず、人間の国『レリグシア王国』、隣にある獣人族の国『ゼデルド』、海の中にある国『デイラズ』、砂漠のど真ん中にあるゴーレムの国『ゴルニア』だな」
本当に異世界に来たって実感する様な国ばっかだ。ちょっとワクワクするぜ!
「一番大きい国は人間の国レリグシア王国だ。そこには界域ってのがある。」
「界域って?」
何げに一番聞き馴染みのない言葉で気になっていたんだよね。
「その説明の前には、少しレリグシア王国について話さなきゃなんねぇ」
さっきのフェインって兄ちゃんと女の子は人間っぽかったし、ベルガドルムは勇者とか言ってたっけ。
ぜひ聞きたいね。
「レリグシア王国は、人間の国で他の国に比べかなり大きい国だ。それも、デケェ島国だ。その島は、中心に行くにつれ階段状になっててな、その段は五段だ。それぞれ上から第五界域から一番下が第一界域と呼ばれてる」
「なるほど。で、話によるとオレはその一番下の第一界域に居たってことね」
「そうだな。レリグシア王国に関しては、第五界域にあって一番上の段だな。中心を囲うように街が作られてんな。じゃあ、ここからが重要な話だ。俺たちについて話そう。」
リューズのイカつい顔がさらに怖くなった。…ゴクリ。
「ゼルゲッテン。俺たちの住むこの世界には、むかーしから在る誰が造ったのかも分からん『ダンジョン』って建物があんだ」
「それって…」
「そう。俺らが居たあの建物のことだ。その中のどっかには、秘宝が眠ってる。それを世界中の奴らが狙ってんのさ」
「しかもだ、界域は深く中心に進むごとに秘宝のレアさが増す。共なってダンジョンの難易度も変わってくるから、なかなか第一界域を攻略すんのは難しくなってくる」
「…。」
オレは今、どんな顔をしているんだろうか。現状を知っていく度に自分の存在がわからなくなっていく。
「今確認されてる最高レア度の秘宝は唯一『奇剣アルク』って言う秘宝のみ。だから、そこで見つかって、おんなじ名前だってんだからお前さんは最高レア度の秘宝ってわけ。いわば、伝説の宝よ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!その話が本当だとするとオレは、世界中の奴らに狙われることになんのか!? だからオレはベルガドルムに…」
「近からず、遠からずといった所だな。」
ベルガドルムが割って入ってきた。
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