第一章 二話 『あるく』
二話です。
宜しくお願いします。
「見つけたぞ。どうやら此奴が伝承に聞く奇剣アルクだったらしい。」
「「なんだと(って)!?」」
男の奇剣アルクと言う言葉を聞き、フェインと少女の表情が一段と険しいものに変わる。
「伝承?きけん?なんだか分かんないけど、歩ってオレの名前じゃん」
「やはり、貴様はアルクなんだな」
獰猛な笑みを更に深める男。
ドン!!!
次の瞬間、レンガ作りの地面を窪ませながら音を置き去りにする程の猛烈なスピードで、フェインは男に肉薄する。
ガキィィン!!と金属同士がぶつかる音が部屋に響く。
「ぐえ!」
音と同時にオレの体に衝撃が走った。
「絶対に貴様にこの宝剣は渡すものか!!邪龍ベルガドルム!!」
ギリギリとオレ越しに2人は鍔迫り合いをしながら必死な表情のフェインと、
「すでに此奴は邪剣と成っている。一足遅かったな勇者殿」
挑発するベルガドルム。
ーーー思い出した。
そうか、オレ、進道 歩は、あの時転生したんだった。
でも、なんでこんなことになっている?
なんで剣なんかに転生(?)してんだ?
意味わかんねぇ。
「さて、そろそろ終わりにするとしよう。待っているモノがいるんでな」
ガン!とオレを押し付けフェインを弾き飛ばす。
「貴様の力を試させて貰う。踏ん張れよ」
ベルガドルムはフェインの方に狙いを定める。
「へ?」
ドクン…どす黒く異様なオーラが身体から溢れ出す。
オレの身体がこの力に最適な形へと変化する。
そう、全てを破壊する大きく邪悪な大剣へ。
「行くぞアルク!衝撃に備えろ!!」
ベルガドルムが豪快に、しかし美しくオレを振り上げる!
「まずい!」
危険を察知したフェインが叫び、少女は驚愕の表情を浮かべる。
「ディフェンシング・ウォール完全顕現!!!」
少女が勢いよく両手を前にかざし唱え、瞬時にフェインと少女の周りに厚い球体が発現される。
「さらばだ!!!」
アルクを振りかざしたーーーー。
「ゴホッゴホッ…」
「だ、大事無いか?ラフィーネア」
フェインが少女に尋ねる。
「はぁはぁ…なんとか」
フェインとラフィーネアはボロボロになった体を無理やり起こす。
「やられた…」
あれからどのぐらいの時間が過ぎたのだろうか。
破壊し尽くされ原型を留めておらず、直後であれば土埃が舞っていただろうその場所に立ち尽くす。
「報告…行かなきゃ」
表情なくラフィーネアはフェインに告げる。
「まずは…そうだなぁ」
2人は急ぎその場を後にした。
王都レリグシア、レリグシア城ーー謁見の間。
豪華絢爛かつ威厳のある佇まいの男が、夕の空に輝く光を背負いながら部屋の最奥に騎士を並ばせ座している。
部屋の中央には、身なりを整え、伏すフェインとラフィーネア2人の姿があった。
玉座の隣に立つ、知力を思わせる切れ長の目。揃えられた七三のヘアスタイルに白を基調とし、金の刺繍。左胸には数々の勲章がぶら下げられている。
レリグシア王国宰相、パーリル・フェン・タークが発言する。
「レリグシア王国国王、アーダンテ・ギル・レリグシア陛下が命ずる!」
「表をあげよ」
命じたのは、金色に染まる長い髪を後ろに流し、煌びやかな服装にも負けない、一戦を退いたにも関わらず威圧感のある表情の男。
レリグシア王国国王、アーダンテ・ギル・レリグシアその人である。
「はっ」
声をあげ、男に視線を向ける2人。
「何があった。説明せよ」
「第一界域に存在する、ダンジョンの一つソーディリムの秘宝を探しに行って参りました。
しかし、そこの最奥で邪龍ベルガドルムと遭遇しました」
「ふむ、そこまでは私もパーリルから聞いておる。だがフェイン、お主一人であればまだわかる。我がレリグシア筆頭魔術技師であるラフィーネアも連れ立っておきながらベルガドルム相手に何もできず敗走などと…」
金色の長い髭を触りながら困惑気味に話すアーダンテ。
「私もこの布陣であれば討伐まではいけずとも捕縛または、秘宝を盗ませず撃退まではと想像しておりました。しかし、状況が一気に変わってしましました」
「なぜだ?」
「ベルガドルムを追っていた際、とある小部屋に侵入しました。そこで奴がたまたま手に取った木剣がありました。」
「なぜそんな場所に木剣などと…」
「はい。あの場では奴を追うことに気をとられ、何も思わずに行動してしまいました。まさかそれが、伝承の奇剣アルクだったとは知らずに」
「なんだと!?」 「バカな…」 「存在していたのか?」
フェインの発言により、かつてない動揺とざわつきを見せる謁見の間。
「本来、どんな性能の高い武器でもその魔力伝達率は80%を切りますが、どうやら奇剣アルクは剣に流した魔力を100%伝えることが出来るようでした。」
「あれは本物です。直にその恐ろしさの片鱗を垣間見ました」
フェインはもう一度あの時の威力を想像し冷や汗を流す。
「なんという事だ!本当にアルクが実在し、ベルガドルムの手に渡った事が各国に知られれば…」
アーダンテは縋るようにパーリルを見る。
「はい。アルクを求め各国が動き、衝突…戦争も起こりかねませんな」
額に玉のような汗を浮かべながら語るパーリル。
「…ならば、事が大きくなる前に手を打つしかあるまい」
「勇者フェイン、筆頭魔術技師ラフィーネア。『適盾装者』(てっしゅんそうじゃ)ガクと『瘉療聖天』(ゆりょうせいてん)セーカを仲間に加え、秘宝の回収ではなく邪龍ベルガドルムの討伐を命ずる!」
「「はっ」」
「パーリル。お主は冒険者協会に邪龍ベルガドルムの討伐依頼をせよ。報酬は一億レルだ!」
「い、一億レルですか!? 国家予算の三分の一ですが…」
想像以上の額に驚きを隠せないパーリル。
「よい。それ程のモノなのだアレは…」
「かしこまりました」
「ただし、各々他の国には悟られないように努めよ!また、奇剣アルクが邪龍ベルガドルムに奪われたことに対して箝口令を敷くこととする!」
「「「「「はっ!!!!」」」」」
「ーーーはっ!?」
「おう!目が覚めたか!」
「….。」
なんかオレの隣に体が透けてるイカついおっさんがいるんですけど…..。
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