第一章 十九話 『来客』
コンコンコン
「失礼致します」
「入れ」
ルムードが返事をするとティーマと三人のメイドが入室してくる。
「どうした?」
「トルフェイより一報が入りました。ムルアに向かう途中盗賊と遭遇、その後戦闘になった模様です」
「何だと?」
ルムードは、眉間に皺を寄せ聞き返す。
「しかし、勇者一行に助けられ御者と護衛二人は犠牲になったものの他は無傷だそうです」
かくかくしかじか、と詳しく内容を話すティーマ。
「…」
「今は無事にムルアに到着し、帰路に着いたそうです」
「そうか。…ふぅ」
とりあえず上手く危機を回避できた事に安心し一息つく。
すると直ぐにティーマが話す。
「それと何ですが」
「なんだ?」
「ヴィアナナハト様という方がお見えになられたのですが、お通ししても宜しいでしょうか?」
「!」
(何であいつがここに?)
「早急に頼む」
「はい」
返事をし、急ぎ部屋を後にしようとするとルムードが声をかけた。
「ああ。あと、二人で話をしたい。私達以外は外してくれ」
「はい」
ティーマさんと他三人のメイドが部屋から出ていった。
数分後、ティーマが客人を部屋に連れてきた。
「五ヶ月ぶりですね」
「お前がわざわざ来たという事は何かしら状況が変わったという事なんだろう?」
「そうですね。当人達が戻り次第お話し致します」
まったく。
今日も一段と疲れた。
ただ制服を取りに行くだけだったのに、まさかあんな戦闘をする事になるなんて思いもよらなかった。
何とか生きて戻れて良かった。
勇者一行ありがとう。
なんて思っていると、もう屋敷の大きな扉の前だ。
フィーレちゃんが先頭で扉を開けると、ティーマさんを筆頭に使用人さん達が出迎えてくれる。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ。帰られて直ぐでお疲れのところ申し訳ございませんが、お嬢様とトルフェイ様にお客様がお見えです。応接室にて旦那様とお待ちしております」
お客様?
誰だろうか。
正直、この五ヶ月で会った事ある人なんて限られている。
いくら頭の中で記憶を巡らせても思い当たる人はいないんだけど?
「そうですか、直ぐに向かいます。お嬢様はその破れたドレスのままではお客様に印象が良くありませんのでお着替えしましょう。ティーマ、フィーレお願いします。私は先に向かいます」
確かに。
この太腿まで引き裂けたドレスはよろしくないね。
制服取りに行ったついでにドレスも新調しても良かったかもしれないが、なるべく早く帰りたかった為、買う事なくそのまま帰路に着いちゃった。
トルフェイさんの意見に乗ろう。
「「「はい」」」
オレとティーマさん、フィーレちゃんは返事をして行動に移した。
トルフェイはノックをした後、扉の向こうにいる主人に声をかける。
「失礼致します」
「ああ」
返事を聞き部屋に入るとそこには、声の主人ルムードと客人であろう黒く腰まで伸びた艶やかな髪と黒を基調に差し色で紺色のフリルが着いたドレスを身につけた十代後半であろう女性が座っていた。
「これはこれは、ヴィアナナハト様。お久しぶりで御座います」
笑顔でボウアンドスクレイプと呼ばれる貴族のお辞儀をする。
その様子にヴィアナナハトという女性は、立ち上がるとゆっくりカーテシーを返すと、少し困った表情を見せる。
「既に結界が張られています。私に敬語はおやめになって下さいイーフェル様」
「そうかい?まぁ、それはそれとしてなぜここに君が?」
ヴィアナナハトの言葉に肩の力を抜くトルフェイ。
「少し状況が変わりそうでしたので…」
ヴィアナナハトは先程とは違う困った顔になる。
「失礼致します。お嬢様がお見えになりました」
話を遮るように部屋の外から声が聞こえてくる。
「アルのみ入れ。ティーマはもう下がってくれ」
「かしこまりました」
お父様の返事が聞こえた。
ティーマさんは扉を開け、オレを一歩部屋の中に入れると閉じ自室に帰って行った。
一体誰なんだ?
時間で言えば19時は過ぎているだろうこんな時間に訪問してくるなんて。
「アル・ガル・シアン只今参りました」
オレはカーテシーをしながら部屋に入ると、そこには黒薔薇が似合うような全身黒い美しい女性が立っていた。
客ってこの人?
「初めまして、私はガルナーデから参りました。ヴァアナナハトと申します。まぁ、厳密に言うと初めてでは無いのですが…」
ガルナーデって少ししか滞在していなかったし、ベルガドルムの屋敷に居たメイドさんの中にはこの人は居なかった気がする。
でも、確かにどこかで見たような気がするんだよね…。
「そ、そうなんですね。私は、アル・ガル・シアンと申します。よろしくお願い致します」
「アルク。建前はここでは要らん」
「えっ」
お父様がいきなり本名で呼ぶもんだからメチャクチャ驚いた。
しかも、今まで隠し通していたせいか変な汗が出た。
っていうか、トルフェイさん居るって!!!
ちょいちょい!
い、いいの!?
「ええ。お兄様の言う通り、私は全て理解していますのでご安心ください。奇剣アルク様」
バレてーら。
ちらっとトルフェイさんの顔を見たら笑顔で頷いてんだけど…。
ドユコト?
事情知ってたって事?
とか思ってたらお父様も変装を解いてベルガドルムに戻ったわ。
成る程ね。
トルフェイさん、あんた全部知ってたのね。
ってか待て!
今ベルガドルムの事お兄様って言ったか!?
「ふふっ。アルク様思い出されましたか?」
会ってるわこの人と。
ガルナーデでバルグリアズ王子が襲撃して来て、シャドウ・エスケープで逃げる時にオレ達の後ろに居た女の人だ!
このヴィアナナハトさんのおかげで何とか逃げれたんだよな。
「では、思い出されたようですので改めまして。私はヴィアナナハトと申します。そこにいるベルガドルムの妹です」
でしょうね。
言われてみると、その切れ長の目とか何処と無く似ている。
「じゃあ、この流れに乗って私も自己紹介をしようか」
はい?
あんたトルフェイさんじゃん。
知ってますけど…。
オレの正体知ってた事以外何かまだ隠してんの?
「私は、本当の名をイーフェル・ギル・レリグシアという。十年前まではレリグシア王国の公爵を務めていた。もっとも、今は死んだ事になってるんだけどね」
……はぁあああ!?
「あ。ちなみに現レリグシア国王アーダンテの弟だね」
…。
あぁもう。
とんでもねーや、まったく…。
「混乱している所悪いが、話を続けるぞ。ヴィアナ頼む」
「はい。ではまず、単刀直入に話させて頂きます。」
空気が変わった。
今までの少し柔らかい十代後半のような見た目から一転。
切れ長の目がより一層冷たい雰囲気を纏った。
「黒徒が不穏な動きを見せ始めた様です」
コクト…?
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