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第一章 十八話 『後始末』

状況的に多分オレは勇者フェインに助けられたんだろう。


とはいえ、何でこんな所に勇者フェインが居るんだ?


お父様が言うには、オレ『奇剣アルク』が邪龍ベルガドルムに奪われてしまい、勇者フェインを筆頭にしたパーティが編成された。

そしておそらくベルガドルムを捜索または討伐を狙い、龍の国ガルナーデに向かっているって聞いているんだけど。


てか、今これお姫様だっこってやつじゃない?

すごく恥ずかしいから降ろして欲しいんだけど…。


不快感を宿した目で勇者フェインを見つめたら、この野郎ハニカミ返してきた!

勘違いすんな!



「———ウガァあああ!!」


声に驚きそっちを向くと、胸元が袈裟に大きく裂け血を流している異形の男が数M先で吠えていた。

すると、オレたちに向かって走り出す。


「っと、動けるのか?」


「ちょっ——!!」


オレを抱えたまま異形の男に向かって走り出す勇者フェイン。

距離が近づくと大砲のような大きな拳が飛んでくる。


が、勇者フェインは拳をくるりと体を左旋させ、拳を繰り出しガラ空きになっている異形の男の右の脇腹にミドルキックを放つ。


その一撃は、二Mを超えた大きな体を地面を抉りながら吹き飛ばす。


威力はオレのリベンジ・エミテッドを大きく超える。


「ごめんね。少し乱暴だったかな?」

まるで何事もなかった様に佇みながら笑顔でオレに語りかけてくる。


「…いえ、問題ありません」

オレは今や貴族の娘。

淑女なのだ。

ウゼェ。なんて感情お首にも出さず、こちらもにこやかに返す。


「うん。体も回復している様だし、大丈夫そうだね」

そう言いながら、オレをお姫様抱っこから解放する勇者フェイン。


え。

これまたいつの間に回復してたんだ?


「さてそれじゃあ、そこで見てて」

勇者フェインは笑顔のまま言うと、腰にある剣を抜き、身体中に魔力を激らす。


「ウガガ…」


吹き飛ばされた先でうめきを上げ、まだ立ち上がろうとする異形の男。


「君を苦しみから解き放とう」

目を瞑る。


「行こう。ヴァーディズマ」


(はい。マスター)


『——ライトニング・シア——』


技名なのだろう。

その言葉が聞こえた瞬間、雷の様な爆音と共に勇者フェインは異形の男の後ろに立っていた。


異形の男は前のめりに倒れ動かなくなった。


その光景に唖然としていると隣から声が聞こえた。


「安心してください。死んではいませんから」


声の方に向くとそこには聖女を思わせる純白の服を着たお姉さんが笑顔で立っていた。


「あ、あれで死んでないんですか?」


「ええ、フェイン様のあの技は意識を断つ技です」


「そうだね。切ったわけじゃないよ。峰打ちだね。で、これからは彼女の出番。ちなみに君を回復させたのも彼女さ」


この人も勇者パーティの一人か。

ふと、遠くの馬車の方を見ると回復したトルフェイさんとフィーレちゃんが、デカい盾を持っているデカい騎士と話をしていた。

周りには盗賊たちが一人残らず倒れていた。

向こうも大事無くて良かった。



「そうですわね。私『癒療聖天』セーカが行きますわ」



ん?

なんでここで回復役のお姉さんが出てくんの?


「ほら、来たよ」

勇者フェインが先程気絶させた異形の男の方を指す。


「あれが元凶だね」


異形の男は徐々に元の大柄の男に戻っている。

代わりに男からはどす黒く禍々しいオーラが溢れ出す。


何だあれ…。

少しベルガドルムの魔力にも似た…。


「では始めます。『ピュリファイ・グリッター』」


お姉さんの持つ幾何学的な模様の入っている木で出来た杖から暖色の光が放たれる。


眩しっ!


反射的に目を瞑っちゃった。


数秒後、視覚が戻ってきて目を開けるとそこには、今まで通りの風景と倒れている大柄の男が目に入る。

しかし先程までのどす黒いオーラは無くなっていた。


「ふぅ。終わりましたわ」

少し汗を滲ませ一息つくお姉さん。


思ったより呆気なかったな。


いや、思い返せば勇者パーティが来なかったらオレたち今ごろどうなってた事か。

勇者めちゃくちゃ強いじゃん。

この人とお父様は戦ってたわけか。

しかも魔法少女付きで。


「君。強いね」


うわっ!

いきなり後ろから話しかけられた!


ビックリしたなぁ!


振り返ると魔法少女が居た。

結構な至近距離だ。

髪の毛と同じ色の黒い瞳がオレをじっと見つめる。


噂をすれば何とやらってか。


「い、いえ。そんな事ありませんよ…」


「ううん。判るよ。内包する魔力はここの誰よりもあると思う。何者?」


ちょっ!

これやばいんじゃ…。


「やめないか。ラフィーネア。このお嬢さんは見るに貴族でしょうし、言えない訳があるのだろう。出逢ったばかりの我々が簡単に聞いてはいけないよ」


「…。そうね」


ふぅ。な、何とかなった…?

また勇者に助けられた気がする。


言われた魔法少女は口を閉ざしてはいるが、何か含んだ目でオレを見ている。


すると馬車の方からトルフェイさんとフィーレちゃんが走ってきた。

無事で良かったと伝えると、涙ながらフィーレちゃんが抱きついていきた。

あと、少し怒られちゃった。

心配させちゃってごめんね。

でも、君のおかげで強くなれたし勇気を分けて貰えた。

ありがとう。



「お嬢様。フィーレ。水を差すようで申し訳ないのですが、早く制服を取りに行かねばなりません。」



はっ!

そうだった!制服を取りにムルアの街に行く予定だった!


でも、この倒れている盗賊たちはどうしよう。


「盗賊たちのことは任せて欲しい。色々聞き出さなければいけない事がある様だからね。レリグシアの都まで運ぶよ」


「勇者様方、お嬢様含め私達共々助けていただき、本当にありがとうございました。更にはその者達まで」


「いや、構いませんよ。では、そちらもお気をつけて。」


勇者とトルフェイさんが別れを告げる。

オレ達も助けてくれた勇者パーティに頭を下げて送った。

でも、十数名の盗賊たちをロープでぐるぐる巻きにして引きずって歩いていく後ろ姿には少し笑えた。




そして、トルフェイさんはスキルを使用して屋敷の方に通信して、今回の戦闘によって犠牲になってしまった馬車を操縦していた御者と護衛の騎士二名の遺体を運ぶための馬車を用意した。



その後オレ達はムルアに向け再度出発したのだった。



この時のオレは、大柄の男が放っていたあのどす黒く禍々しいオーラの事はもう忘れてしまっていた。






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