第一章 十七話 『二度目の邂逅』
私は目を疑った。
完全に油断していた。
まさか、大柄な体躯の盗賊がお嬢様に攻撃を向けるとは思わなかった。
私は、あの盗賊が頭に血が昇りやすく目の前の敵、言わば私にしか目を向けていないものと勘違いをしてしまっていた。
いくらお嬢様の正体が奇剣アルクで、ベルガ君の話では完全に人化のスキルを使いこなし、完璧な人間へと変化している。
傷を負えば血が出るし、痛みも伴う。
いくら日々の修行である程度の力を備えていたとしても、あの盗賊に勝てるとは思っていない。
奴は普通では無い。
私にはわかる。いや、私だからこそわかる。
十年前のベルガ君と同じ雰囲気を感じていたからだ。
なんとしてでも、奴の攻撃からお嬢様を守らなければ!
しかし、あと一歩のところで届かなかった。
お嬢様の右頬に盗賊の一撃が決まる。
悔やむ感情が湧き上がろうとした時、—— 笑ったのだ。
お嬢様が、まるで子供が大人に悪戯を仕掛けた時のような無邪気な笑顔を。
するとあろう事か、攻撃をした筈の盗賊が後方に跳ね返されたのだ。
全くもって理解できなかった。
お嬢様は防御するスキルを使っていたわけでもなく、身体を強化させたわけでもなかった。
そして、更に私は信じられない光景を目にする事となる。
オレは、仰け反った大柄な盗賊の腹部に拳を当てて言い放つ。
「———リベンジ・エミテッド。吹き飛びなさい」
直後、大柄な盗賊の腹部がボコンと勢いよくへこむ。
腹部に加わる圧がどんどん増していき、遂には押し出されるように、大柄な盗賊は吐血しながら勢いよく吹き飛んで行く。
「がはっああぁぁぁぁ!!」
飛ばされた先の木にぶつかり、反動で正面に崩れ落ちた。
「嘘だろぉ…」
衝撃的な現実に、唯一言葉を発する事ができたのは隣で倒れている大柄の盗賊を見つめる小柄な盗賊だった。
小柄な盗賊は、ざっざっと近づく足音に気づくと咄嗟にその方向を見る。
「さて、次はあなたですか?」
「くそぉ…。まさかコイツがぶっ飛ばされるなんて…」
(これはもう逃げるしかねぇか…。周りの雑魚どもを仕向けて隙を作ってやりゃあ…)
小柄の盗賊が体を屈め、何か行動しようとしたその時だった。
「お…い、待てぇ…!」
「「!?」」
倒れていたはずの大柄の男が息絶え絶えながらも、地面に両手をつき起き上がる。
まじか!
綺麗に思いっきり入ったんだけど…。
こいつ動き、攻撃力、耐久力どれをみても只の人間じゃあ無いだろ。
いくら、スキルとか魔力とか存在しているとはいえ、オレのリベンジ・エミテッドはお父様の全力のガードも吹き飛ばす威力なんだぞ…。
「お嬢様…これは、嫌な予感がします。まるで、あの時の…」
言葉を濁しながらオレに違和感を伝えるトルフェイさん。
「あの時?というのはよく分かりませんが、私の技を耐えたという時点であの方、只者じゃあありませんね」
「はぁ、はぁ」
大柄の盗賊はなんとか立ち上がると、体から黒く澱んだオーラが湧き上がってくる。
な、なんだあれ!?
「や、やはり!」
「知っているんですか?」
「はい。これはまずいかも知れません!最悪、逃走も考えなければ!」
「そんなに!?」
「戦力が私たち二人だけでどうにかなる様なものでは無いはずです!」
オレとトルフェイさんが話を続けてるうちに、みるみる筋肉が膨れ上がりその姿は異形へと変貌していく。
身体中の血管が浮き上がりあったはずの意識は無いのか、目は白目で見開き充血している。
口元はニヤリと歪んで涎を垂れ流している。
「お、おい!なんだってんだぁ!?」
隣にいた小柄の盗賊も何がなんだか判っていない。
更には、周りで囲んでいる数人の盗賊達もざわざわ騒ぎ始める。
「頭目ぅ!どうしちまったんだよぉ!」
「頭ぁ!!」
そんな状況を離れた場所で感知した人物達が居た。
「この力…」
少女は、隣の青年を見て言葉を漏らす。
「ああ、かなり危険な力だし、近くに他の人間の魔力を感じるね」
「助ける?」
「当たり前だろ?なぁ、皆?」
青年は振り向き、後ろの男女にも聞く。
「お前に任せるぜ」
「私は全力で肯定致しますわ」
青年の後ろにいるフルプレートアーマーを着込み、その巨体と同じ程大きな盾を持つ男と、淡い緑色の腰まである髪の毛を靡かせ、豊満な体に聖者を思わせる純白の服を着ている女性が頷く。
「じゃあ、急ごう!多少戦えてる様だが、長くは持たないだろうからな!」
「うん」
「到着後、状況を見てラフィーネアは身体能力向上魔法を俺たちに付与。ガクは敵の攻撃を防御、セーカは怪我人を見つけたら回復を頼む!」
「フェインは?」
「救助と殲滅かな?」
「「「了解!」」」
異形の男はその大きな腕を縦横無尽に振り回しながら襲いかかって来た。
それは、近くに居た小柄の盗賊へも。
「あ、危ねぇ!お、おい!俺だぁ!ベズだ!!」
頭上から振り下ろされた拳をすんでの所で後方へ飛び、避ける小柄の盗賊。
「が、ががはぁぁあ!!」
「だ、だめだぁ!敵味方関係ねぇ!!こうなりゃ逃げるぜぇ!!」
もはや、尻尾を巻いて逃げるように後方の森林に逃げようとする小柄の盗賊ベズ。
「残念。貴様だけでも捕らえさせて頂くぞ!」
「ぐぐっ!」
はは!
流石はトルフェイさんだぜ!
オレが異形の男を引きつけているうちに!
「コッチですよ!」
「うがぁああ!!」
何とか攻撃を躱しながらリベンジ・エミテッドを発動しようとタイミングを測っているが、大振りなりに予測不可能な角度から拳が飛んで来るため思うようにいかない。
「これっ…じゃあ、埒が明きませんね!」
こちらも体力の限界っていうもんがあってだな!!
くそっ。
「お嬢様!こちらは捕らえました!今すぐそちらに向かいます!!」
トルフェイさんは小柄の盗賊ベズを気絶させ、身に付けていたベルトで手足を拘束していた。
「はぁ、はぁ、お願いします!トルフェイさん!」
何とか避けてるけどもう脚がいうことをきかなくなってきた。
拳を振りかぶってる。
振り下ろしか!
何とか避け…
一瞬、意識が飛んだ。
何だ?
左半身が冷たく固い物に押し付けられているみたいだ。
視線の先でトルフェイさんが横向きに立っている。
何か叫んでるみたいだ。
…。
違う!!
意識を復活させないと!!
左にあるのは地面だ!
オレが倒れている。
何か攻撃を喰らった!!
意識がハッキリしたその時、腹部に向かって来る蹴りが見えた。
あいつ今までパンチしかして無かったのに、もしかして、さっきオレが喰らったのって蹴りか!
ていうか、これはもう避けられない。
思ったよりかなりのダメージを受けたみたいだ…。
——— 当たる!!!
「大丈夫か?お嬢さん?」
攻撃が来ない?
目を開けるとそこには、こっちの世界に来た初日に見た青年の顔があった。
「もう大丈夫だ。安心して」
「ゆ、勇者フェイン…?」
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