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第一章 十五話 『五ヶ月間』

おはようございます。

皆様はどうお過ごしでしょうか?

私は元気です。


…….。


金の枠に彩られている窓の外に広がる、草原に向かって一人話かけるオレ。

今日は、トルフェイさんとフィーレちゃんと三人で街に出て魔力専校の制服を取りに行く予定になっている。


フィーレちゃんが、採寸したサイズを記入した用紙を店の方に送っておいたらしい。

オレとしては完成したら屋敷の方に届くと思ってたんだけど、実際に着てみて合わない所があれば修正するという事で取りに向かわなければいけない。


その為またもや、馬車に揺られて向かっている。


このレリグシア王国、領地ムルアに滞在して約五ヶ月ちょっとが過ぎた。

早いもので来月にはもう魔力専校に入学する。


いよいよか….。


少しばかり思いに耽る。

この五ヶ月は、かなり濃密だった。

慣れない体で慣れない生活。


過酷だったけど、オレの周りの人たちがいい人ばかりで楽しくもあった。

おかげで自分の事はある程度なら自分でできる。

なんなら、前世よりもできる様になっているくらい。

しかもこの世界は外部からの過剰な魔力で凶暴化した生物、所謂”魔物”なんて奴もいるらしく、戦闘訓練もさせられた。


お嬢様といっても最低限の護身術くらいは、身につけるのが常識らしい。

まぁ、オレの場合はそんな生半可なものじゃなかったけど。

だって、毎日お父様から朝一番に屋敷の裏手にある訓練場でボッコボコにさせらていた。

徒手空拳、剣、槍、弓、etc…。


一応、屋敷の使用人にはバレない様にやっていたから、訓練が終わった後は必ず回復ポーションなるものを飲まされていた。

オレの先天性スキル『lead to perfect (リード・トゥ・パーフェクト)』のおかげで回復の効力もロス無く発揮できる為、本来であれば骨にヒビが入るくらいであれば治るものが、半殺し状態でも瞬時に回復できていた。


だからと言って、普通のお嬢様じゃないのは百も承知だがやりすぎだよ!

痛いのは今の身体でも同じなんだぞ!


その甲斐あってか、後天性スキル『戦闘理解』っていうのを習得できた。

これは戦闘中瞬時に、無駄無くより戦闘向きな行動を最短で理解する事ができる、常時発動型のスキルだ。


だけど理解することはできるが、その思考に追いつける程の身体を作れていなければ意味がないため、やっぱり身体を鍛えるのは疎かにはできない様だった。

結局、地獄の訓練は続いたよ…。



ーーー がたん!



突如、馬車が揺れる。

すると、間も無く動きを止めた。


「「「!?」」」


思考が現実に戻って来る。


「なんだ?」

不安感を露わにするトルフェイさん。


「っ人の気配!」


対面に座っていたトルフェイさんがオレとフィーレちゃんを庇うように勢いよく動く。


「あわわわわわ」

右に座るフィーレちゃんが震えながら声にならない声を出す。


「…しっ!」

トルフェイさんが口元に指を置く仕草で静かにする様に促す。


その間にも、外ではドンドンと鈍い音が鳴り響く。

更には何を言っているかまではわからないが男の怒声や叫びも聞こえる。

貴族用の馬車と言うのは外部に車内の話し声など漏れない様に防音がしっかりなされているが、それだと言うのにここまで物音が聞こえて来ると言う事はどう言う事なのか車内の三人は理解する。


馬車内の緩んでいた空気が一気に張り詰めたものに変わった。


「お二人とも動かないでください」


言うと、椅子の下から刃渡り三十センチ程の小型の剣を二本取り出す。


二本の小型剣を両手に持ちドアの前で戦闘体制に入る。


そんな中オレはどうした事か身体が固まってしまった。

恐らくこれから戦闘が始まる。

二度程経験はあるが、それは主にベルガドルムが戦闘しオレは見ているだけだった。

今の状況もそんなに変わっていないと思うが、違うとすれば前者には死を感じなかった。

いや、思考自体そこまで追いついていなかったのか。

しかし、今回は外で起きている音を聞くとまるで戦場だ。

どうしてもそこに命の危機を感じてしまう。

つい昨日までお父様とあれ程の地獄の特訓をしていたと言うのに。


肌で感じる恐怖に動けなくなったオレを他所に状況はさらに悪化する。


もう、外の戦闘音や声は聞こえない。

ガツンと鈍器か何かをドアノブに打つけ、何者かが馬車のドアをこじ開けようとしている。

ただただドアを破ろうとする音のみがこの場に響く。


「….。」


馬車内で息をころす三人。


ーーーーーばきん!


とうとうドアノブが破壊されてしまった。


同時にドアを蹴りあげられ勢いよく開くとそこには、見るからに盗賊の大男が佇んでいた。


「これはこれは、大層綺麗な女だなぁ。へへへぇ」


ゾクッ!!!


この世界に来て初めての感覚。足の先から頭の頂点まで舐られる様に見られている。

ティーマさんから見られた時の羞恥心などでは無く、紛れも無い嫌悪感だ。


「おい!貴様、どこを見ている…」


言い放つと、ドアの脇で待機していたトルフェイさんが両手に持つ剣を横薙ぎに振る。

が、いとも簡単に後ろに飛びそれを避ける大男。


この一瞬の攻防でオレは理解した。


あの大男は普通では無いと。


大男からすると開け放ったドアで死角に構えていたトルフェイさんの攻撃を躱す。

そう。躱した。受け止めるまでも無く。


現にトルフェイさんも目を見開き驚いている様子だ。


トルフェイさんだって、普段からお父様と模擬戦を行っている程に手練れなのだ。

歳だって50歳以上は確実なのにあの動き。

若かりし頃は今以上の強さだと思うとゾッとする程だ。


「ふぅ。やべぇなぁ、おっさん。この俺様がなんとか躱せる程とはね」


身長は二Mは超ている。

腕だってオレの胴くらいあるんだろうか。

その腕を回しゴキゴキ鳴らして、こちらを睨んでいる。


「ほれほれ。掛かって来いよ。早くしないとそこの女、掻っ攫うぞぅ。へへへ」

オレを指差す。


「…。向かって来たのは其方だろう。このまま退く気はないのか?」

オレたちには、馬車内に居るようジェスチャーで促す。

執事服の上着を馬車内に丁寧に畳んで置き、車外へ降りるトルフェイさん。


オレは追う様に馬車の外へ顔を覗かせる。

迂闊だった。

そこは、前世では味わった事のない地獄の光景だ。

馬車を運転していた御者さん、護衛についてくれていた二人の見習い騎士。

どちらも見るも無惨に切り捨てられ、盗賊も二十人程のうち六人程が倒れていた。


「….うぅぷっ」

その情景に、身体の内から込み上げてくる。


「ウヒョウ!!見たか!今の女!とんでもねぇぞ!」


「ああ!」


オレを見た盗賊が騒ぎ始めた。


「いけません!お嬢様!」

後ろからフィーレちゃんが抱きつき、馬車内に引き戻す。


「フィーレ!そのままお嬢様をどうか宜しく、できる限りはやく戻ります…」


「は、はい!!」


トルフェイさんの覚悟が決まった声に負けず、返事をするフィーレちゃん。


「かわいそうになぁ。俺様の目に止まっちゃったんだよ。この馬車ぁ。それがなけりゃあの嬢ちゃんも平和に、呑気に生きて行けたんだろーなぁ」


嘲笑う声がする。


「さぁて、そろそろ殺ろうぜぇ。おっさん。おい!オメェら手ぇ出すんじゃねぇぞぉ!!戦いにも、女にもだ!!ぜーんぶ終わったら、食わしてやっからヨォ!!」


くいと指でトルフェイさんに挑発し、周りの盗賊たちに声をかける。


「…。全く。やるしか無い様だな」


ーーーーーズンッ!!!


双方の踏み込んだ足の大きな音。


「はぁ、はぁ…」

そんな大きい音も耳に入らず、幾ら息を吸っても苦しい。


「大丈夫ですよ。お嬢様、大丈夫」


こんな状況で自身も相当な恐怖に駆られているだろう中で、オレの背中をさすりながら声をかけてくれる。


「お嬢様はお強い人なんです!五ヶ月間何もわからない中で、挫けず頑張って来たんですから!このくらい大丈夫ですよ!」


オレの呼吸が安定するまで介抱してくれている。





「….へぇえ、そうなんだねぇ。ウェヘヘへへ」


「「!」」


いつの間にかオレたちの眼前に小柄でガリガリの盗賊が涎を垂らしながら佇んでいた。


「おっとぉ。デケェ声出すんじゃあねぇぞぉ〜。アイツにバレちまったらやべぇからなぁ。ウへへ〜。バレる前に味見して逃げるぜぇオレぁ。あの感じじゃあ、どっちかくたばんねぇと終わりそうにもねぇからなぁ。今の内だぁ〜。ふへへ」


手を伸ばす小柄な盗賊。


「うまそうな方は最後ぉ〜。最初はこっちぃ」


がしとフィーレちゃんの髪を持ち上げる。


「っ痛ぃ…」


髪を引っ張られ、痛みに顔を歪め涙を浮かべる。


「だ、だめ。…はぁ。や、やめて!」


オレが必死に声を掛けるが、恐怖に声が震え上ずる。


そんなオレの言う事など聞く訳もなく、小柄な盗賊はフィーレちゃんの頬を伝う涙を舐める。


「いいなぁ。オレぁ、こういうの待ってたんだよぉ。嬢ちゃんはゆっくりそこで見てなぁ。」

べろりと舌を回すとオレを見る。


「…っお嬢様!逃げてください!どうかお嬢様だけでも!」


「おっとぉ、ウルセェ口はこの口かぁ?」


「ーーっんぶぅ!」


できる限り振り絞った声でオレに話すフィーレちゃんの口に小柄な盗賊はニヤついた顔で指を突っ込む。




ーーーーその光景に、オレの中の何かが弾けた。



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