第一章 十四話 『望む未来』
コンコン
「…入れ」
ガチャ
「失礼致します」
声と共に執事服を着込んだ壮年の男性が頭を下げながら豪華な部屋へ入ってくる。
「トルフェイか」
「はい」
「こんな夜中にどうした?」
「申し訳ありません。ですが旦那様こそ、こんな時間に起きてらっしゃるとは思いませんでしたよ」
トルフェイは少し笑みを浮かべながら、薄暗い部屋の窓辺で星空を眺めるルムードの隣に並ぶ。
「あれから約五ヶ月。いよいよ来月にはお嬢様は魔力専校へご入学ですね」
「そうだな。とりあえずカタチにはなって安心だ」
「ふふ。君が女の子を養子に迎えると聞いた時はかなり驚いたが、この五ヶ月共にしてその訳が分かったよ。ベルガ君」
ルムードは星空から隣の壮年の男に目を移すと少し困った表情を浮かべた。
「茶化さないで欲しいな。貴方は只の少女じゃない事くらい最初から分かっていたんだろう?」
そう告げると人化を解く。
窓から離れ、部屋の中央にあるソファへと腰を下ろす。
「…ふ。まぁそうだね。私の予想が合っていれば、あの娘は私達の計画には必要不可欠なピースになるだろう」
「…」
ベルガドルムは俯き両手を組み握りしめる。
「確かに。…確かに彼奴は私達の計画には必要だと思うが」
どこか迷いを感じるも、自分に言い聞かせる様に言葉を紡ぐ。
様子を見た男はベルガドルムを尻目に語り始める。
「今。この世界ゼルゲッテンには、秘宝の存在によってあらゆる欲が渦巻いている。ある意味、その欲のおかげで世界の均衡が保たれていると言ってもいいが、それは間違った均衡だ。おそらく、あの娘はその均衡を覆す存在。しかし、君が今ここにルムード伯爵として居るという事は、あの娘の存在も、ベルガ君が所持しているという事も既に周知の事実になってしまっているんだろう?」
「今、どこまで知れ渡っているのかは分からないが、その場には勇者と筆頭魔術技師が居た。そして、どういう訳かバルグリアズ殿下も知っていた。少なくとも王国とガルナーデの上層部には知られていると思っている」
「フェイン君とラフィーネア君に知られたか、おそらく既にガク君とセーカ君と共に君を捕まえるべく動いているだろうね」
「そうだろうな」
流石に、王国主力メンバーの四人が揃って相手は無謀な話だと考える。
「しかし、それは僥倖だったね。君にとっても私にとってもね」
男の意外な返答に少し考えを巡らす。
僥倖だったとは、おそらくアルクが自分たちの手の内にあり、ルムードの正体を掴んでいる者が今挙げられた面子の中に居なかったという事なんだろう。
「トルフェイ…いや、ここではイーフェル公爵と言った方が宜しいか?」
「君こそ茶化すのはやめてくれ。イーフェルはもう死んだ事になっているんだから」
困った顔でベルガドルムに返す。
「貴方と私の目指す道は確かに同じ。だから手を取り合っている。しかし、一つお聞きしたい。貴方の道のその先には一体何が見えている?」
「ベルガ君が望むものとは少しばかり違うかも知れないが、私は以前から言っている様に望む事は真の平和。真の世界だよ。今の状況は”それ”とは程遠い。この世界にダンジョンや秘宝なんて無かった時代に戻すんだ。そして、今の爛れた欲にまみれている世界を無くす。ただ、我々生物というものは必ず何かしらの欲がある。だが、今の様に欲のために大きな力を振りかざすのを認めているような世界は間違っている」
確かめる様に鋭い眼光でベルガドルムを見る。
「貴方の言っている事は私も正しいと思っている。だが、一つ私は考えを改めたことがある」
「それはなんだい?」
「貴方は我々生物と仰っていたが、意思のある秘宝はどう思われる?そして我々の望みも欲だ。それに彼奴を使おうとしている。これは大きな力を振りかざす貴方の最も嫌う事ではないのか?」
返す様に男を見る。
「…。まさか、あの娘は秘宝なのかい?」
「奇剣アルク。ご存知だろう?」
「!?」
既知の名前に驚きを隠せない男。
「スキルで人化しているんだ。流石の貴方でもそこまでは見抜けなかったんだな」
「あ、ああ。そうか。あの娘がそうだったか」
「納得だよ。で、あれば世界の均衡は簡単に覆すだろうね」
「ふむ。どうやら私も少し考え直さなければいけないかもしれないな。五ヶ月という短い期間だったが、あの娘の人となりは人間より人間らしくそして澄んだ心を持っていた。」
五ヶ月間のアルクとの関係を思い出しながら少し表情を緩ます。
「私達の望んだ道は険しいな。トルフェイ」
そんな男の様子にベルガドルムも緊張を解く。
「全くです。旦那様」
「とはいえ、彼奴の動向次第だな」
「ええ。そしていずれは我々の事もお話しなければなりませんね」
「どう思うんだろうな、彼奴は…」
そんな壮大な夢に巻き込まれようとするアルクを思う。
ーーー少しの間二人とも考え込む。
「それでは、私はこれで失礼致します」
「ああ」
「…。ちょっと待て、本来の用事はなんだったんだ?」
思いだしてトルフェイを呼び止める。
「あー。それはですね。お嬢様の正体についてですよ。あとは、ベルガ君の胸中かな。他人にあまり興味を示さない君が、熱心にあの娘を育てているもんだから」
「その笑顔を今すぐやめろ。世界を変える前に今すぐ消すぞ…」
「おー怖い怖い。だけど、今の君の方が私の望む世界に相応しい。では、お休みなさいませ。旦那様」
ガチャ
「…早いものだな。あれから十年経つ。年老いても人間というものは変わらないな」
「旦那。明日も早いですぜ。そろそろ休んだ方がいいんじゃないんですかぃ?」
どこか遠い目で独り言を言っていたベルガドルムに話しかけるリューズ。
気づくと目を瞑り、一呼吸する。
「ふぅ…。そうだな。思いに耽っていても仕方がない」
「その前にリューズ。私達の進もうとしている道は間違っていると思うか?」
「何言ってんですかぃ。旦那には色んな恩があるんだ。この先どうなろうが着いて行きますぜ!」
「そうか」
それだけ聞くと寝床に向かう。
一方、同時刻。
ここにも一人の少女が一つの決意を胸にしていた。
「…は!そうだ!魔力専校に入学したら、できる限り早くスキルと生きるスベを磨いてベルガドルムの所から離れて異世界スローライフを目指そう!お世話になってる人達には悪いが、アイツから使い込まれる前に逃げないと!」
「….あんまり使い込まれるとか言っちゃダメだよね。淑女ですから…はは」
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