第一章 十三話 『安心感』
屋敷に帰ってきました。
もう夜だ。
馬車が門から入っていき、屋敷の玄関前に停まる。
ティーマさんが先に降りて次にオレが降りる。最後にルムードだ。
「お帰りなさいませ。旦那様、お嬢様」
「「「おかえりなさいませ」」」
流石にオレの事は使用人の方々にも伝わっている感じだ。
約20人程がずらりと列になって執事さんのお辞儀に倣って頭を下げる。
見慣れない光景だ。…今までもだけど。
「ああ。ご苦労さま、馬車の中の荷物を頼む」
「畏まりました。」
では、君たち頼みますよ。
と、周りにいるメイドに指示する執事さん。
指示のあと、オレの方に向き直し笑顔で頭を下げる。
「ようこそおいで下さいました。お嬢様。私、執事のトルフェイと申します。どうぞお見知りおきを」
「は、はい。こちらこそ、お世話になります」
「それでは、これからはそちらのフィーレが貴方様にお仕え致します。」
「は、初めまして!フィーレと申します!よ、よろしゅくお願いしましゅしゅしゅ….」
執事のトルフェイさんの隣に立っていた女の子がすごく緊張した具合で挨拶をしてくる。
ストレートな髪の毛で片目を隠している見た感じ活発そうな女の子はフィーレというらしい。
なんか、向こうがこんなに緊張してるとこっちの緊張が和らいできた。
「よろしくね。フィーレちゃん」
緊張が無くなったおかげで良い笑顔を作れてるんじゃないだろうか。
「ヒョェェぇええ!!」
顔を赤くして慌て始めるフィーレちゃん。
ふふふ。オレの笑顔の破壊力はオレが一番よくわかる。
フィーレちゃんには悪いが、この娘はいじり甲斐がありそうだ。
単純に反応がかわいい。
おそらくオレよりも年下そうだし、妹感が強い。
「お嬢様、そろそろ屋敷に入りましょう。お体が冷えてしまいます」
フィーレちゃんを少しからかっていると、ティーマさんから背中を押されながら屋敷に入っていく。
ーーーー 屋敷に入った後使用人達の挨拶をはじめ、屋敷内についての説明を聞いた。
夕食も食べ、風呂にも入れてもらった。
いろいろあったけど、脳内の整理が追いつかず記憶が曖昧だ。
….そういうことにしておいてくれ。
これからは、半年後の魔力専校入学に向けて貴族の暮らしやしきたりとか勉強しながら暮らすことになるらしい。
ちなみに、スキルとかこの世界の歴史とかはルムード直々に教えると言っていた。
他の事については、それぞれの分野に秀でた家庭教師を雇うらしい。
あぁ…。先が思いやられる。
泣けるぜ。
今のオレの状態はというと、既に寝巻き、所謂ネグリジェと言うものに着替えてベッドに入っている。
今日一日でオレの元男としての尊厳やら精神がズタボロなのでもう寝る事にする。
半年後、オレはオレでいられるのだろうか。
「しっかし、凄い綺麗な人だったね!ほんと伯爵様はどっからあんな人見つけたんだろね?」
「旦那様にもお嬢様にも色々お有りの様ですが、私達はいち使用人。あまり首を突っ込むものではありませんよ」
「そうだね〜。まぁ、おねーちゃんだったらあのアルお嬢様の見た目だと、何があってもオールオッケーそうだもんね?」
「当たり前でしょう。美しさと可愛さの前では、全てが霞んで見えるものですよ」
「確かに。アルお嬢様を見た瞬間、世界の見方が変わったもん」
「それはそれとして、どうかお嬢様を頼みますよ。フィーレ」
「当たり前だよ!任せて!おねーちゃん!」
湯煙の中、女性二人は新たな決意を胸に仲良く語るのだった。
「おはようございます!起きてくださーい!お嬢様!!」
「んぅ…」
気づけばフィーレちゃんが起こしに来てくれた。
昨日は今後について色々考えているうちにいつの間にか寝ちゃったのか。
「お嬢様、本日から本格的にお勉強並びにお稽古等が始まります。お勉強に関しましては、私とルムード様が時間を見てお教えする予定です。お稽古は専門の講師の方を迎えるつもりです。頑張りましょうね!!」
眠い目を擦りながら話を聞いていた。
とうとう、貴族の娘としての教育が始まる。
勉強はともかく、稽古がすごい不安だ。
要するに、貴族としての振る舞い、それも女の子としてだ。
「ありがとう。頑張ってみるよ」
でも、今のオレにはやるしかない。
誰かに頼らなければ、慣れないこの世界で生きていけないと思うし。
せっかくフィーレちゃんが応援してくれてるんだしね!
「はい!!」
元気のいい可愛い笑顔だ。
会ったばかりだけど優しい娘だというのが伝わってくる。
こちらも自然と笑顔になる。
「それでは、身支度を終えましたら、朝食をお持ちしますね!」
「あれ?ルムー…じゃなかった、お父様?と一緒に食べたりしないの?」
「そうですね〜。ルムード様はもうお出かけになられてしまった様ですので。…ごめんなさい。気がつきませんでした!」
おっと、どうやらオレが一緒に食べたかったんだと思わせてしまったようだ。
オレとしては、想像上の貴族ってデカいテーブルで家族が揃って食べて政治とかの話をするもんだと思ってたから気になって聞いただけなんだよな。
「いや、気にしなくても大丈夫だよ!ただ気になっただけだから!」
「そうでしたか、何か要望がありましたら、なんでも言って下さいね!お力になりますので!」
「うん。ありがとう」
「ヒョェェぇええ!!」
初めて会った時と同じ反応だな。
オレの笑顔に当てられたんだろう。
「ふふっ」
作った笑顔じゃない本当の笑顔に。
この世界に来てからやっと心から安心した気がした。
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