第一章 十二話 『おでかけ③』
ということで、馬車から降り、歩いてムルア屈指のショッピング通りに来ました。
道の両脇にズラリと軒並み揃えて色々な店が立ち並んでいる。
目的の店に向かい引き続き歩いていると、あちらこちらから視線が感じられる。
多分、領主ルムード伯爵と一緒に行動している為、もの珍しさから来ているのだろう。
「ルムード様だわ。珍しいわね」
「そうね、あまり街に来る事ないものね?」
耳を立てて聞いてみれば買い物中のマダム達がそのような会話をしている。
「あら?隣の方は仕えてるメイドでしょう?その前にいらっしゃる方は誰なのかしら?」
「….ものすごく綺麗な方ね」
「…えぇ。なんだか女の子なのに見ているだけでドキドキするわ」
片頬に手を当てて熱い眼差しでこちらを見てくるマダム達。
メイドの前ってオレだよね?
オレのこと言ってんのかな?
実際まだオレ自身の事を見たわけじゃあない。
というか、正直窓に映ったオレの姿とかあったけど、どうなってるのか怖くて目を逸らしてたから見る機会はあったけど見れなかったが正しい。
「着いたぞ。ここで足りない分を買ってこい。ティーマあとは頼んだぞ」
「かしこまりました。お任せくださいませ旦那様」
…嫌な予感しかしねぇ。
ティーマさんに続いて店の中に入ると、女性もの専門の服屋だった。
健全な男子諸君にはかなり目に毒だろうこの光景。
元男としてはここに居てはいけないという何処か背徳的な感覚だ。
「いらっしゃいませ〜。どうぞごゆっくり見ていって下さいね〜」
少し垂れ目でふわふわした黒い髪の毛を後ろで結んでいるお姉さんみの感じる店員さんが出迎えてくれた。
「あら〜?ティーマじゃない〜?久しぶりね〜」
「リノンも元気そうね?」
どうやら二人は既知の仲のようだ。
顔を合わせるなりフレンドリーに話している。
「今日はどうしたの?メイド服を着ているって事は業務中なんでしょう〜?」
「ええ。今日はお嬢様の服を購入しにね」
「お嬢様〜?」
リノンと呼ばれた店員さんはティーマさんの後ろに居たオレには気付いてなかったようだ。
とりあえず会釈くらいはしなければ。ぺこり。
「〜!?」
おっとりしていた店員さんの顔が驚愕の色に染まる。
…なんかオレを見ると皆驚くけどやっぱり違和感あんのかな?
男の頃のオレの顔なんてそこら辺に居るモブ顔で女顔でもなんでも無かったし、この世界に来てから出会う人たちは平均的な顔立ちのレベルがかなり高く感じる。
そんな中、女装したオレを想像するとゾッとする。そりゃあ皆驚くわな。別に化粧とかして誤魔化している訳でもなくそのまま服を着ただけなんだもん。
「あっ、ごめんなさいね〜。ちょっとまじまじと見過ぎちゃったかしら〜。別に嫌な意味じゃなくて、余りにも貴方が綺麗だったから〜。だから、そんな顔しないで〜?」
「…ふむ。お嬢様」
どんな顔をしてたのだろう、なんて考えているとティーマさんから呼ばれた。
「はい?」
「お嬢様は一度鏡をしっかり見た方が良いでしょう。」
「….はい??」
「リノン全身鏡は?」
「えっと、あそこにあるわよ〜」
リノンさんが鏡のある方に指を刺すと、ティーマさんがオレの背中をズイズイ押してそちらの方へ向かう。
「どうぞ。ご確認下さいませ」
ご、ご確認下さいませってなんだよ。
オレの身体全体に緊張が走る。…見たくねぇ。
…けど!いつかは向き合う時が来るんだ!
ええい!ままよ!!
…ちらっ
ーーーー オレの脳内に電撃が走る。
少し癖のある肩に掛かるほどのほのかに薄紫に輝く銀色の美しい髪の毛。
大きく少しキレのある目には長く上向きのまつ毛が存在感を放っている。
その中には艶やかに輝く薄水色の瞳。
すっと、整った鼻筋にぷくりとした桃色の唇。
そこにある全てがこの世のものとは思えない理想の具現化だった。
これはもうひとえに一目惚れと言っても過言ではないだろう….。
ーーーっじゃねぇよ!!!
余りにも綺麗だったもんで脳が追いつかなかった!!
この娘オレだよ!!
や、やべぇ…。
とんでもない破壊力だ。
なんてもんを宿してしまったんだ!
「いかがでしょうかお嬢様?私のコーディネートはお気に召しませんでしたか?」
そ、そうか、あんまりの顔の良さに視線の全部がそっちに行っちゃったけど、服買いに来たんだし全身見ないとな。
….ちら。
更なるダメージに備え、少しずつ身体の方へ視線を寄せる。
喰らった。
グゥ….。なんて威力だ。
ナイスコーディネート!ティーマさん!
オレ自身じゃなきゃもっと喜べるんだけどね!
街の人とか、店員さんとか綺麗だなんて言ってお世辞かなんかだと思っていたが、我ながら本当の事だったようだ。
「か、完璧だ….」
「ありがとうございます。では、張り切って次の洋服のご用意を致します!リノン!」
「!」
オレの呟きに顔を輝かせて、店員さんに目配せを送るティーマさん。
ティーマさんに言った訳じゃなくて、ただの独り言だったんだけど…。
「がってんしょうちぃ〜!!」
店員さんは腕まくりをして気合いを入れて店の奥に消えていった。
地獄の始まりだった。
あれから三時間位だろうか、あれやこれや着せられた。
最初のうちは確かに、今の姿を理解したオレも楽しくやっていた。
もはやゲームでアバターを着せ替えしてるような感覚だろうか。
しかし、二人が嵐の如く服を持ってくるもんで、着て脱いでの連続には体力よりも精神が限界だった。
その後、疲れ果てて外に出ると来る時は置いてきた馬車が店の前に停まっていた。
中に入るとルムードが寝息を立てていた。
このやろう、オレが地獄を見てる中寝てやがる!
女性の買い物は長いのはどの世界も共通の常識なのか、長くなるのがわかっていたんだろう。
「ん。終わったか。では、屋敷に戻るぞ。乗れ」
….。
後で見てろよ!
そして、時は現在に戻る。
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