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同級生、娘、恋人、奥様、そして僕 セルフリメイク版  作者: R32+0
同級生、奥様、恋人、そして僕
9/30

Life 9 The right distance with an adult woman 正しいキョリ感

不器用な僕と、大人の彼女


僕は、本来の「彼女」、僕と同い年の女性と結婚を前提に付き合うことになりました。しかし、空白の時間を埋めるための距離の詰め方がわからず、戸惑っていました。メールでのやり取りも、つい丁寧になりすぎてしまい、彼女から「堅苦しい挨拶はいらない」とたしなめられます。


そんな僕の不器用さは、同居している「娘」にも見抜かれていました。彼女は「おねえちゃん(本来の彼女)は、君が不器用なことを知ってるから、話をしたいんだよ」と僕を諭します。


敬語をやめて、距離を縮める


デートを重ねても、当たり障りのない会話に終始してしまう僕。6回目の喫茶店デートで、僕は意を決して敬語をやめようと提案します。彼女は「もっと早く気づいてほしかった」と笑い、僕の真面目で律儀な性格を昔から変わらない美点だと語ります。


僕は、褒められて戸惑いながらも、少しずつ彼女との会話を楽しめるようになっていきます。彼女は僕との対話を通じて、僕が「娘」を立派に育てていることや、僕の良さを再確認するのでした。


「娘」と「彼女」の存在


別の日の喫茶店デートで、僕は彼女に「なぜ僕を好きでいてくれるのか」という不安を打ち明けます。彼女は「君が私達を幸せにするって言ったんだから、責任だよ」と答え、僕が自分を大切にすることを願います。


11回目のデートの帰り際、彼女は「ハグしよう」と僕に提案します。ぎこちなく抱き合う僕に、彼女は「やっと恋人らしくなってきた」と微笑みます。そして、「今度はちゃんとしたデートに行こう」と僕に告げ、次のデートの計画を僕に託すのでした。

突然かもしれないが、僕は相手との距離を詰めるということにはあまり秀でていない。

あの娘に感謝してる一つ。距離の詰め方が適切だったから、数年も同居してたということになる。

あまり苦慮することなくバイトの同僚とも馴染んだし、彼女なりにおそらく苦労もしているとは思う。けど、その割に適切な距離感をある程度コントロールする術がどこかで身についてるのかもしれない。


困っていることが一つある。

僕は、この度めでたく結婚を前提としたお付き合いをすることになった。

その相手こそ、本来年齢を積み重ねた、彼女。僕と同い年の彼女なわけだ。


...うーん、正直、スタンスで距離感を計ることは出来るんだけど、男女間での距離の詰め方。まして僕は何度も失敗している人間である。

あんまり考えたことがなかったのもあるし、距離感がたまたま合った人もいたからダラダラと続けたこともあった。でも、あの娘との距離感が、非常に心地よいものになっていたのは、自覚してた。

それ故、あの人も同じような感じなのかと思っていたが、そうそう25年で変わるわけもなく、15歳の少女がそのまま大人になったような、完全に読めない距離感がある。

男とは言え、おっかなびっくりでその辺をかわしていくのもいいのだけど、お姫様が迎えに来たダメ王子ぐらいの立場には、せめてなっておきたいと思うわけである。



僕は彼女との距離、空白の時間を埋めるためにはどうしたらいいかと考えた結果、やっぱり何度も会って、話をするのが一番いいのかなという結論になった。

幸いなことに、メールなりでの態度に関しては、失礼なく返答出来るらしいが、彼女から「そんなに堅苦しい挨拶なんていらない」と返される感じ。まあ、絶望的だとわかったでしょう。

メールで毎回こんな感じで誘っていたけど、返しに対していちいちおどおどしちゃうのが、なんとも情けない。


「おねえちゃんさ、なんで君ってそんなにぎこちなく返事してくるの?って聞いてくるからさ、別に家ではそんなことないよって伝えておいたよ。」

「やっぱりぎこちないって思われてるんだ。うーん。」

相変わらずいつものお風呂上がり。襲わない同居人を挑発するが如く恰好。いい加減、ノーブラTシャツに、ショーツ1枚は良くないと言ってるんだけど、やっぱり親の威厳がないんだろうかな。

でも、特に怒ったり、責めたりはしない。それが一番楽な恰好なんだろうから、文句は言えない。


「...はぁ。さすがに、おねえちゃんも、君が不器用なことは知ってるし、やっぱり話をしたいんだよ。」

「さすがに分かってらっしゃる。話すぐらいしか、本当にやっていけるかどうかわからないもんね。」

昔、困らせた記憶があるんで、どうしても臆病になってしまう。あの人は賢いから、そういう人への気遣いとかも出来るんだろう。


「ところでさ、もし、おねえちゃんに君がフラれたりしたら、どうするんだろうね?」

「いやいや、そうさせないために、会って話をしてる感じだから、そういうことは考えない。」

「分かってるじゃん。私のオトーサンは、未来の私としかやっていけないんだから、おねえちゃんをしっかりと離さないようにしないと。」

「うん、...まあ、努力はする。まだ時間はいくらでもあるはず。」




あの人は家の場所を教えてくれなかった。理由は、わざわざデートとして会いに行くから楽しいからなのだそう。

デートの待ち時間を苦もなく待てそうな人なんだよなあ。そういうところが心配。


「おまたせしました。今日はどこで話しましょうか?」

「ご希望の場所は、どこかあります?」

「それ。場所ぐらいすんなり決められると、かっこいいですよ。」

そういうものなのか。まあ、疑問を疑問で返すのは、確かに良くなかったな。



結局入るのはチェーンの喫茶店になる。まあ、チェーンとは言え、ルノアールとか、コメダ珈琲ぐらいには入るよ。

さすがにスタバとかドトールでもいいけど、なんか、落ち着いて話すってことが出来ない気がする。まあ、コメダでもそうかもしれない。

今日はルノアール。いや、どこのお店でも、本当に丁寧で嬉しい。


早速席に座り、適当に飲みたいものと、彼女はケーキを注文することが多い。

「甘いものって、自分から買おうとはしないから、こういうところで注文して食べるのがちょうどいいのかな。」

ちょっと嬉しそうに注文したあと話してくれた。そんなもんなのかな。


しかし、やっぱりこの人、異常に若く見える。いや、同一人物だからそりゃそうなんだけど、ちょっと大人になった娘という感じ。

あの頃の顔立ちの良さはまったく変わらない。可愛いと言われるとそこは相変わらずクラスで5番目ぐらいなのだが、少し雰囲気が大人びるだけで、可愛さもあるけど、この人は凛々しさみたいなものも兼ね備えている。

これは今になったから分かること。あの当時の僕には理解できなかったと思う。

いつも揃っているミディアムボブの黒い髪。ミリ単位で揃えられている毛先、そしてギリギリ目にかからない程度にぱっつん前髪。この辺はあの頃とまったく変わらない。

これは強烈な個性とも思える。本当にこんな人が自分の未来の奥様なのだろうか?それが信じられない。


「ふふふ、知ってますよ。あの娘に色々相談してるんですって?」

「いや、まあ、僕もどうしていいか分からないことが多すぎて、こうやって話をしてても、なんだろ、どうすればいいかって。」

「そういうところ、律儀で真面目なところですよね。どちらにしろ、私達って想い出のイメージだけで相手を考えちゃうから、いらないことを考えすぎるんですよ。」

「そういうものなんですかねぇ。」

やっぱり、彼女は逃げのコメントを逃さない。

「ほら、そういうところ。別に昔に戻る必要なんてないんですよ。今の私達で話せばいいだけ。」

「そうですか。うーん、なかなかどうして、手厳しいですね。」


毎回、なんでもない雑談をする。

想い出話、そのときにあった話、世間一般の話題を話すこともあった。

お互いに、その人となりを理解するための会話だと思っているが、そこは二人共大人になってしまっていて、なんとなく当たり障りのない会話に終始してしまう。

僕も色々考えた。けど、この人と会話をしていると、単に会話が弾むだけで、何一つ理解出来るほどの会話がない気がした。飲み屋の会話と大差ない、単なる吐き捨ての会話な気がしてしまった。



「じゃあ、いっその事、もう敬語、やめません?」

6回目の喫茶店デートで、僕は提案してみることにした。

「う~ん、私の予定だと、もう少し早いと思ってたんですけどね。」

「え、まだ早いですか?」

「その逆。そろそろ気づいてほしいなあってずっと空気出してたつもりだったんですけどね。」

「は~~。ごめんなさい。察しが悪くて、本当に申し訳ない。」

「だって、そういうことはもう昔から知ってることじゃないですか。不器用さん。」

狙いすましたような弾丸で撃ち抜かれたような気分。色んな意味で、この人には敵わないなと思った瞬間だった。

「いいんですよ。別に親しい仲にも礼儀ありとは言うし、喋り方の問題じゃないのよね。あなたって、不器用で、律儀で、真面目。だから、あのときも、今も信用出来るんです。」

「昔から真面目でしたっけ?少なくともちょいちょいと問題を起こしてたような感じでしたけど。」

「分かってないな。その真剣で真摯な態度。昔も今も変わらない。だから、私は、あなたを好きでいられるんです。」

不意に好きと言われてしまった。ええ、どうしたらいいかわからんよ。

「安心した。やっぱり、ちょっと攻めてみないと、本心までたどり着けない感じだったけど、正解だった。」

「本当だったら僕が上手いことしなきゃいけなかったところですよね。」

「あ、敬語やめるんじゃないの?そこまで焦らなくてもいいのに。」

醜態である。穴があったら入りたい。自分から提案して、このザマとは。

「ほら、落ち着いてね。大丈夫。君はもっと出来る子だったぞ。」

「出来る子って...。」

「出来る子だったのは本当だもの。成績は良くないけど、物事を理解して、行動をする、そして結果を出す。社会に出てからじゃないと、君の良さには気づけなかった。」

「そんなに出来る子じゃないと思うけどなぁ。でも、褒められて嬉しいです。」

「そうそう、その顔。また見られると思うと、感慨深いなあ。」

「え、なんか変な顔してた?」

「素直だから表情が出るのよ。君は感情をストレートに出せる。それが大人になっても出来るって、羨ましい。」

「そんなことないけどなあ。やっぱり、まだまだ手のかかる子供ですからねえ。」

「その子供が、子供を育ててるわけでしょ。それも感慨深い。しかも私なわけだし。」

「イヤだった?」

「ううん、それは幸いしたなって思ってます。あの娘も素直に育ってくれてる。周りの環境次第ということかな。」

「そんなものですかね。育ててる方は、毎日必死だから、なんともね。」

「私より、子育ての経験...まあ、年頃の女性と暮らしてるのが子育てなのかは別として、人を育てる環境で、ちゃんと育てて行けてるし、何より信用してる。あの娘が素直に育ってるのは、あなたのおかげだよ。」

「いや、誰にも感想なんて聞けるわけないから、そういうことを話してくれるのは嬉しい。」

「そう?ほら、あなたがあの娘に会った年齢の頃って、私はもっと内向的だったし、周りにもストレスを感じてたから、最初にあの娘と会った時に、自分でも変わったなあって思った。」



また別の日。

「なんか、別にもっとジャンクな感じ、あ、マック行こうよ。」

「なんかね。ちょっと複雑。」

「何に複雑?マックはお嫌い?」

「いや、そういうわけじゃないんだけどさ。」

「周りを気にせずに喋ってても怒られないのがマックだよ。場所も一辺倒じゃ面白くないでしょ。」

「そうかもしれない。気が付かなくて、ごめんなさい。」

「大丈夫です。男の人って、そういうところは格好つけるじゃない。あなたも、ちゃんと男やってるんだって。だから、安心する。」

「そう?やっぱり自然とテーマに合わせてTPOを選ぶってこと、普通にしてるだけなんだけどなあ。」

「仕事人間っぽい発想。でも、私たちは仕事で来てないよね。何で来てるのかな?」

「...デートです。デートでいいの?お茶会とか?」

「そういうところ、ボケてるのか真面目なのかよくわからないよねえ。」


個人的にマックが嫌いな理由は、うるさいのもあるけど、人が多いという単純な理由もある。

だから、彼女の話を聞き漏らすのはイヤだなあと内心思った。

「なんか、マックじゃやっぱりイヤ?」

「そんなことないです。あなたがお望みなら、マックでも全然いいです。」

「知ってますよ。そういう顔する時、なんかイヤなことがある時の顔。昔、学校のベランダでよく見たもの。」

「お見通しかぁ。ごめん、マックは別の機会に。」

「そんなに気にしなくていいよ。話したいんだもんね。私達。」

そうやって、折れてくれる。あれ、昔はそんなに折れるような子じゃなかった気がするけどなあ。


「あまり人とくらべて、ってことはしたくないけど、私も折れなきゃ進まないってことを知ったのかな。」

近くの喫茶店で、さっきのことが気になって、つい聞いてしまった。

「あんまり目立たないように生きてるんだけど、私は色々もてはやされる。でも9割ぐらいは外見だと思うの。昔からそうだったし。」

「後から聞いたけど、あなたってすごく人気あったんだってね。実は僕だけだと思ってた時があったからさ。」

「そんなに他の人の動向にも興味なさそうな感じだったもんね。まったく。私が他の人のところに行ってたら、どうしてた?」

「どうしてただろう。考えたくもないかな。」


「で、話は戻るけど、外見を見て、私をもてはやす人って、社会では多いし、なんなら今でも言い寄られることだってあるの。」

「...。」

「君ってさ、本当は、私のこと、どう思ってる?」

「僕にはもったいないぐらい、芯のしっかりとした、大人の女性だと思ってる。だから、色々考えるよ。」

「それって、何を考えるのかな?」

「君が僕を好きってことが不安になるんだよ。」

「じゃあ、しっかり捕まえてないと。君が私達を幸せにするって言ったんだから、責任だよ。」

「僕に責任がなかったら?」

「その時は...、私が君を好きだって。その理由で十分?」

「もったいないぐらい。僕も、今は好きで留めておきたいかな。」

「あの娘にも言われててるでしょ。好きっていうのは、それだけで、色んなことが出来ると思えるの。不思議だよね。」

「想いの力ってやつね。人間、願えば確かに叶う方へ行くように出来てるよね。そういう不思議なことが、いくつもあった。」

「思ったよりも強い力なんだよ。ジンクスとかもそうだけど、私は少なくともそれで、ずっと同じ髪型にしてるの。」

「やっぱり、同じ人なんだなって思う。娘もそうなんだって。あの髪型だけは譲れないってよく言ってる。」

「人間、実力も大事だけど、そういうジンクスとか、運とか、そういうことも大切にしていくと、今回みたいな出会いが出来たものね。」



11回目の別れ際、いつも改札までお見送りをするんだけど、

「ねえ、あそこの端っこ行って、ハグしあおうか。」

「ハグ...、ねえ。往来でやるのもなんか恥ずかしいけどね。」

駅の改札から少し離れ、人通りも少ない出口付近で、ハグしあう。要は抱き締めあったということだけど、ハグって言葉ならなんとなくいいかなって。

「やっとしてくれた。もう、そういうところだぞ。言わせるなよ。」

「うん、やっと、恋人らしくなってきたかな。」

「君のことだから、デートの最後がホテルでも、なんかTV見て喋って終わりそうだよね。」

「うん、否定は出来ないかなあ。」



「それじゃあ、今度はちゃんとしたデート行こう。場所は任せるから、目星付けておいてね。」

「はい、頑張ります。」

「真面目じゃなくていいんだぞ。君が立てるデートプランなら、何でも楽しいよ、きっと。」



参ったなあ。特殊なデートが多かったから、まともなデートって、娘に引っ張り出されるぐらいしかないな。

相変わらず、恋愛の引き出しは数が少なすぎて、最初から前途多難だ。



今日はこの辺で。

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