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同級生、娘、恋人、奥様、そして僕 セルフリメイク版  作者: R32+0
同級生、奥様、恋人、そして僕
8/30

Life Re:8 With the other me and with you, who I love. もう一人の私、恋人の私

運命的な再会


ある日、僕の前に、僕と同い年のもう一人の「彼女」が現れます。彼女は、失踪した僕の同級生であり、戸籍上は別人として生きてきた「本来の彼女」でした。ファミレスで話を聞くと、タイムスリップした「娘」とは異なり、彼女は別の親戚に引き取られ、戸籍も変えられていたのです。


僕が中学時代に彼女と交わした約束を覚えていたことを伝えると、彼女は涙を流して喜び、「あなたとの運命を確かめにきた」と言います。そして、僕に「結婚を前提に、お付き合いさせてください」と告白。僕は、彼女との再会を心から喜び、受け入れます。


二人の私と僕


本来の彼女は、タイムスリップしてきた「娘」を強く抱きしめ、今まで辛い思いをさせてしまったことを謝ります。そして、二人ともを家族として、恋人として大切にしてほしいと僕に願います。


「娘」は、僕に「恋人ごっこ」を真剣なものとして受け止めてほしいと告げます。僕は、彼女の気持ちを受け入れ、「父親」としてだけでなく、「恋人」としても接していくことを決意します。


初めてのイベントと、君の覚悟


東京の花火大会の日、僕は彼女を人混みから離れた特等席に連れて行きます。花火の美しさに感動する彼女は、僕との手つなぎに喜びを感じ、二人で特別な時間を過ごします。


帰り道、彼女は僕に「恋人らしいこと」を望みますが、僕は「君が後悔しないか」と問いかけ、彼女自身の覚悟を促します。彼女は「私に、少しだけ勇気を持つ時間をください」と答え、僕との関係を大切に育んでいきたいという決意を伝えます。


僕は、急がず、焦らず、彼女がその時を迎える日を待つことにするのでした。

それは、ある晴れた暑い日だった。結局、夏の暑さはひどくなる一方であり、それで過ごせというほうが酷だ。


彼女は、相変わらず家で居候している。目下、バイトをしながら。曰く、大学費をどうするかというのが当面の課題なのだとか。今日は休みらしく、布団でゴロゴロしている。

今年で20歳となるのか。いい加減恥じらいだとか、ずぼらなところだとかは直して欲しいところだが、それは同居人が僕だから難しいのかなと思っている。

ぐうたらした生活も3年目、いい加減、何かブレークスルーが欲しいところだけど、それはふたりとも変わらない。まあ、心地いいからでしょう。

相変わらずのエアコンつけっぱ生活。外に出ずに半日を過ごすか、彼女が行きたいところがあれば、一緒に行く。おかげて山手線の西側も、だいぶ分かってきたような気がする。


彼女もバイトに出て、社会性はある程度出てきていたのだが、やっぱり家族が僕だけという環境は変わらなかったので、そろそろ親にも紹介して、本物ではないが、祖父や祖母とのふれあいなんかをまた体験して欲しいと思っていたりする。



ピンポーンとベルが鳴る。こういう時、家主は暑い玄関に出なければいけない、これが意外に辛いところだ。

「はーい、どちら様...?え?」

目の前には、彼女がいた。ほぼ瓜二つとも言うべきか。部屋の奥でぐてーっとしている娘とまったく同じ顔の人物が立っていた。

「えーと、ごめんなさい。何かのイタズラ?」

「いや、イタズラでもなく、私です。もしかして、忘れてました?」

正確には忘れていないが、目の前にいるこの人物が誰なのか、理解が出来なかった。

ちょうど娘が玄関のほうへ出てきた。娘がいる。ということは、娘とは別人だ。

「もしかして、僕の同級生の、君?」

ニコッと微笑む彼女。ようやく理解できた。僕と同級生だった、本当の彼女が目の前にいる。

少し歳を取った感じはあったが、同居している彼女と、ほぼ瓜二つという感じ。髪型もミディアムボブだし、背丈も同じだ。

「私を引き取って育ててるって聞いたから、会いに来ました。もちろん、私にも会いたいです。」

「なに、お客さん?...え、私?なんで私がいるの?」

「あなたがもう一人の私かぁ。随分ハレンチな恰好してるけど、本当に私なのね。」

「あ、ごめんなさい。人様の前に出るような恰好じゃなかったです。」

ハレンチという言葉で娘が慌ててハーフパンツを探し始める。寝起きのままノーブラTシャツにショーツ1枚でいるのが悪い。

「それはともかくとして、ちょっとお話しましょうか。色々情報交換もしたいところですし。」

「とりあえず、えーと、まあ、ここではちょっと話しづらいので、ちょっと駅前にあるファミレスでも行きましょうか。」

ラフな恰好でダラダラしていたぐうたら親子には、少々刺激の強い出来事だった。よそ行きに着替えて、ファミレスで色々と答え合わせをしていくことにした。


「いいか、ドンキ行くんじゃないんだから、少しはよそ行きしなさいよ。」

「分かってる。君こそ、テンプレな服装は今日ぐらいやめてワイシャツでも来てみたら?」

2年か。同棲して、特に手も出さない子供にからかわれながら、生活しているというのも、いい加減慣れるものだなと思う。


今日もしっかり、普段は僕が身につけているジョーダンのキャップをかぶっている。いつものおまじないだ。

ファミレスへの道中、彼女は手を繋いだまま、強く握り続けていた。置いて行かれると直感的に思ったのだろうか。


落ち着いて言い聞かせる。

「心配しなくていい。きっと、いいことがある。そうでなきゃ、君に会いに来ないよ。」

それを真近で見ていた、もうひとり、この時代の彼女は、ちょっとはにかんだ様子だった。



お店に入り、とりあえず注文を済ませた。

「さて、なにから話していきましょうか。」

そう、この世界で戸籍を持っているのは、うちに住んでいる彼女であり、彼女はすでに失踪者となっていたはずだが...

「ずばり、お二人共なんで私がここにいるのか?ということを知りたいんですよね。」

「そう、それ。知ってたら頼ってたかもしれない。ということは、頼れない場所にいたということですよね?」


同じ声で喋ってる二人、いや、39歳の彼女はだいぶ落ち着いたトーンではあるが、へんなステレオ効果である。

「あまりおもしろい話じゃないんだけど、結局家族は見つからなかったけど、私だけ残った。ただ、数十日間の失踪は事実として残っていて、それから気が付いた私は、親戚の一人を頼った。親戚にその話をしたんです。でも、行方不明者として捜索されて見つかったとしても、誰が育てるのか?という話になったのね。それで、比較的裕福な親戚へ預けられたの。ただ、その時の警察の捜索は、すでに打ち切られてた。」

「結局、失踪者として登録して、出生届を出されなかった隠し子として、私を別の戸籍に移して、今はその方の名字を名乗っています。大学へ行って、東京で今も会社勤めをしています。」


戸籍の話、そして失踪者として登録されてしまった話、おおよそのことはここで聞くことになった。



「どうして、このことを知ったんですか。そして、どうしてもっと早く会いに来てくれなかったのですか?」

僕がその話を切り出してみた。横で手を握っている、「娘」には辛い2年間だったはずだ。

「それは簡単です、知ったのがつい最近で、たまたま別の親戚の家に挨拶に行った時、ここに住んでいると教えてもらったからです。」

「つまり、それを聞かなかったら、今でも知らなかった可能性が高いというわけですか。」

「おそらくそうでしょうね。私も、最近知ったし、一生会わないまま生活していた可能性もあったかもしれないですね。」

どっちが幸せだったかは、正直なところ神のみぞ知る感じだろう。今、彼女が僕らに会いに来たことで、全てが変わることだってある。心配してないとは言えないが、それでも、である。


「一つ、本当に気になっていたことがあるんです。さっきから自分だと思っていますけど、なんであの時、私は助かって、あなたはこうなったのだろうって。私も、同じ日、同じ時間に気を失ってる。でも、今、ちゃんと年齢を重ねて、ここまで生きてきました。本当に、それは偶然?」

彼女が本来の彼女であるが、娘が偽りの彼女ということでもない。それは、当時の彼女が身につけていたもので、おおよそ本人であることの確認は出来ている。少なくとも、生物的には同じだろう。

「あくまで、私の考え、ですよ。」

娘が口を開いた。

「私の中では、あの日のあの時間に気を失って、気づいて、それで最初に面識がある人と会ったのがオトーサンだった。それは事実なんです。そして、おそらくあなたと同じ記憶を共有しているし、同じ体験もしている。だから、敢えてルーツを探ることはしなかったんです。どうであれ、ここでの生活は夢のようだった。だから、離れたくなかったのが本心です。」


「じゃあ、一応SF的な話をしますけど、例えば、この娘が別の世界から来たと仮定します。僕らが住んでる世界をAとして、この娘が本来暮らすべき世界をBとします。で、二人共、失踪は起きている。Aで暮らしていたあなたは、たまたまその行き先が同じAの数十日後だった。で、この娘がBでまったく同じ世界で過ごし、失踪する直後、Aのあの日のあの時間に来てしまった。こんな感じであれば、辻褄は合うんです。Bの僕がどうなってるか知りませんけど、少なくとも、この娘がBの世界で知っている僕と、今の僕が過去に起こしたことは一致している。僕も両方の世界にいるけど、そのまま居続けて、生きているということなのでしょう。」

「...まあ、理屈っぽいですけど、そんなところでしょうね。私も本当はおかしいと思うことですけど、この娘を見ていると、まったくの他人とも思えないですし、むしろひと目見て、私だと分かるぐらいだから、現代の神隠しにでもあって、どちらかの時代に行き着いてしまった、ぐらいのことなんでしょうね。私が運が良かったと言うべきなんでしょうか。」

「僕は、同じ人間が二人、同じ世界にいるということが信じられないですけど、実際にいるところを見ると、それが答えなんでしょうね。」

泣きそうな顔をしている娘の手を握ってあげた。どうであれ、この娘には触れられて、ちゃんと意思もある。だから、こっちの世界も、この娘を受け入れた形で進んでいるのだろう。まあ、結果オーライということかな。


結局、結論は出ないし、怪奇な事件であったことは間違いない。でも、彼女も、娘も、僕の知っている人。これ以上の答えは出ない。

「とりあえず、この話はこれぐらいにしましょう。3人で考えたって分からないことを考え続けても、意味はないです。今、目の前のことがすべてでいいでしょう。」

「そうですね。うん、本人としてはちょっと受け入れがたい事実ではあるんですけど、現に私が目の前にいますからね。」



「そうそう、もう一つ、私は約束を果たしにここに来たんです。」

「約束?」

僕と娘は顔を見合わせた。あっ!って浮かんだ話を思い出してしまった。

「時間は掛かったし、お互いに老けてくる年齢だけど、約束を信じて、ここまで待ってました。17歳の私を見つけてくれてありがとうございます。そして、ここまで育ててもらって感謝しています。見つけてくれた、ということは、私の話も思い出してくれたよね。今でも私のことは好きですか?」


視線が痛い。隣から、前から、同じ人物にこう睨まれると、答えにくいものになってしまう。

だが、ごめん、それぐらい、僕には彼女も大切に待っていた存在だったんだ。


「その約束。しっかりと思い出しました。この娘が忘れかけてた記憶を呼び戻して、そしてなんとなく信じてみた感じです。」

「私?毎日言い続けた甲斐はあったかな?やっぱり嬉しいでしょ?」

なんとなく、無理やり笑っている。悲しそうな顔であるが、娘は必死に励ます。

「こういう場所で言うのも変ですが、何年経っても、やっぱりあなたが僕は好きだ。そのために会いに来てくれたと思っていいんですよね。」

もうちょっとロマンチックな場所で言うセリフだと我ながら思う。シチュエーションとしては最悪の部類だろう。


でも、彼女はスーッと涙を流し、喜んでくれた。

「はい。久しぶりです。私も、あなたとの運命を確かめるために来ましたから。その縁を取り持ってくれたのは、もうひとりの私です。」

「え、私?特に何もしてないですよ。あなたが信じ続けたから、叶ったのかもしれませんよ。」


「いや、君が導いた結果だよ。君には感謝してもしきれないほど、色々なものをもらえた。すごく嬉しい。」

「でも、信じ続けたオトーサンのおかげかも知れないね。う~ん、でも、オトーサンにはやっぱり彼氏だったり、結婚相手だったりでいて欲しかったかな。」

「それはおいおい考えればいいよ。でも、僕の気持ちは決まった。君には、あまり良い結果ではないかも知れないけどね。」


「こっちに来てみて。」

39歳の彼女が、19歳の彼女を隣に呼び寄せる。


強く抱きしめて、ささやくように言葉をかけた。

「今まで大変な思いをさせて、本当にごめんなさい。そして生きててくれて、どうもありがとう。あなたは、私だから、私もあなたと一緒に生きていきたい。」

「んー、寂しかった、オトーサンが頑張ってくれてたけど、本当はずっと寂しかった。私はあなたに助けてもらうだけになってしまいそうですけど、出来たら一緒に生きていきたいです。」

しがみつき、ひとしずくの涙を流す19歳の彼女。ようやく、共感出来る人を見つけたという思いが強かったのだろう。


こうやって見ると、親子の再会って感じなんだけど、親子じゃないんだよなあ。まあ、当の本人同士が会ってしまった以上、最初に心配していた時代改変というのは、やはりごく小さな世界で止まったと見るのが正しいのかなと思う。


「あらためて、今は一緒に暮らせないけど、結婚を前提に、お付き合いさせてください。」

「こちらこそ、努力して見合う男になります。きっと二人を幸せにしてあげます。」

「約束。あなたは私にとって本当の運命の人です。もう、これ以上私を待たせないでくださいね。」


はにかんだ笑顔、ああ、この笑顔を見るためだけに、僕の人生は2年前からつながってたのかもしれない。これが天にも昇る心地というやつなんだろうな。



と、横に戻ってきた彼女がひとこと。

「二人ってことは、私も幸せにしてくれるの?」

「そうだね、君は、今幸せに生活してる?」

「私は今の生活が大好き。できればこのままずっと一緒に生きていきたいかな。」


「...う~ん、そうか。一度言った以上は、僕も男だから、責任を持って育てて、その後は自由に生きてほしい。親心としてはね。」

「親心としては?親心じゃない何かがあるとすれば?」

「今まで通りの関係性だよ。なんとなく家族ごっこやってるけど、それを続けて行くことが、君の幸せを守ることなのかな。」

「もちろん、その家族ごっこ、私も嫁入りしていいんですよね。」

「あなたは僕の婚約者なんですから、家族になるんですよ。そういう約束ですよ。」


「それじゃあ、この子のことも、私と同じように恋人であり、家族として見てあげてほしいんです。二人ですけど、私達は同じ人間です。」

「極端な話、あなたと同居するまでの間、関係を持ってしまってもいいってことですよ?そういう、理性とかで守れる範囲を超えてしまいかねないんですよ?」

「分かってます。だから、あなたにしか頼めないんです。彼女を家族として見ても、恋人ではなかったでしょう。でも、私という存在がいる以上、彼女は私、私は彼女です。」

向き直して、彼女は彼女を見る。

「あなたはどうかな?この人への思いは結構募ってるし、まだ日の浅い約束、果たしてもらってないよね?」

「確かにそうかもしれない。オトーサンって呼ぶのが普通になってたけど、私の思いは、やっぱり一人の女の子として、私を見て欲しい。もうすぐ20歳だよ。」


少し考えた。まあ、答えにくい質問ではあったし、年頃の娘としか見てなかった彼女を、どう見るべきなのか。この二人は、共犯関係になりたいのだろう。だから、僕も腹をくくるしかなさそうだ。

「...そうだね。今まで、娘として育ててきたけど、スタンスを変えることはしない。今までも恋人目線だったときもあったけどね。」

「...いいの?今の私はどうするの?」

「彼女は、君に少しでも自分と同じ体験をさせることを願ってるんだよ。君は彼女なんだから、僕も同じように接していたい。不満?」

「私が冗談で言い続けてたことだよ。そんな夢みたいなこと、叶えてもらっていいのかな?」

「あなたが2年間家族でいられたこと、そのご褒美かな。あくまで結婚前提ではあるけど、私との関係は、また始めなければならない。寂しいのはみんないっしょだし、お互いを知っていくのも一緒。あなたも私も同じ人間とは言え、結構違う生き方に変わってるから、彼には、その責任を取ってもらわないとね。」

「寂しい思いをさせてたのは知ってるし、これからもしばらくは続くと思う。けど、その分、今まで通りの生活で、恋人になっても、バチは当たらないと彼女は言ってるんだ。」

「...ありがとう。私よりずっと可愛い恋人になるから。」

「僕も家族のように接してたけど、君がもっと可愛い恋人か。嬉しいものだよ。」


「そういうところが大人の余裕でずるいところだよ。君はそういう武器ばっかり使ってくる。」

「そう?あんまりそう思ってないけどね。」

「ねーね、こういう時、どういう風に切り返すのが効果あるのかな?知ってる?」

「ごめんなさいね。あんまり、私も男性とお付き合いすることが少なかったから、こればっかりは、自分でなんとかして欲しいかな。」


募る話は延々と続きそうだったが、その後は母子の会話みたいな感じだった。それを僕が眺めている風景。これだけで幸せの形は成立してるなあ。


「なんて呼べばいい?やっぱりオトーサンに合わせて、オカーサンがいい?」

失礼な娘に対して、彼女はとっさに、

「おねえちゃんって呼んでほしいかな。私、あなたをまだ何も知らないから、知り合いのおねえちゃんぐらいで許して欲しいかな。」

しっくり来たのか、この娘も素直に受け入れてくれた。

「おねえちゃん。」

「何?」

「おねえちゃんって呼んでみたかったの。私達、姉妹もいなかったし、姉妹みたいになれたら嬉しい。」

「私、もうすぐ40歳だけど、姉妹みたいに思ってくれる?」

「もちろんだよ。だって、どう見ても私だもん。周りの人はもしかしたら双子ぐらいに思ってるかもよ。」


そして、互いの連絡先を交換した。彼女たちは話し込んでいたが、まあ、大したことじゃないだろう。



「それじゃあ、今日はこの辺で帰ります。すごく楽しくて、嬉しかったよ。ありがとう。」

「こちらこそ、色々あったけど、覚悟を持って生きます。ありがとうございます。」

「また夜にね。おねえちゃん。」「夜、話そうね。」


いや、まあ、なんだろう、この子を今まで「娘」として見てたけど、今日から同時に恋人であると認識しなきゃいけないわけだよなあ。

「どうしたの?」

「育てた子供が、そのまま恋人になってしまうってのがね。僕は間違った育て方をしてないだろうかなと心配で」

「君が育てたんだから大丈夫...だと思うよ。まあ、二人揃ってだらしない生活とかは、おねえちゃんに怒られそう。」

「どうでもいいけど、おねえちゃんってのは?まあさすがにお母さんとは呼べないか。」

「うん、知っての通り、バイトのおばちゃんとか、それぐらいの人ならお母さんって呼べるんだけど、君と同い年、一応私とも同い年なわけじゃないですか。」

「それで、おねえさんじゃなくて、おねえちゃんか。今の彼女はおねえさんっぽいけど、じきにおねえちゃんっぽくなるだろうからな。」


「存在すら知らなかったんだよね?」

「当然。この世界では、君は一人だと思ってたから、まさか本物が変わった人生を送ってたことに、驚きだよ。」

「ねね、嬉しかった?もうひとりの私と再会出来たこと。」

「そりゃあ、心残りだったことが一つ解決したんだから、やっぱり嬉しいし、思った以上に君に拒否反応を起こさなかったのも、嬉しかったよ。」

「...普通じゃありえないことだもんね。」

手を繋ぎながらの帰り道。ただ、一つだけ変わったことがある。恋人繋ぎになったことだ。

「これで堂々と、君と恋人ごっこ出来る。けど、恋人ごっこと同棲、あんまり違いはないような気がする。」

「まあ、少なくとも一応は恋人なんだから、恥じらいぐらい覚えてください。意図的に誘惑してたでしょ、君はw」

「知っててそれ言っちゃうんだ。多分変わらないと思うけど、君に一度ぐらいは襲われる覚悟ぐらいはしようかな。」


「しかし、暑いね。帰ってくるだけで汗びっしょりだよ。」

「とりあえずシャワーでも浴びたら?家の中はどうせ涼しいままだし。」

彼女がニシシと笑う。いたずらでも思いついたのだろうか。

「恋人って、一緒にシャワー浴びたり出来るよね。ねえ、一緒に浴びよう。」

「どこにそんな広いスペースあるんだよ。ユニットバスなんだから、その辺は、無理だろ。」

「無理でもないじゃん。体をくっつけあって、汗を流す。あ、その先少し考えちゃった?」

「保証はないからな。とはいえ、しょっちゅう裸見てる仲なんだしねえ。なんにもなくてもそれはそれで男としては寂しい。」

「もっと、見合うような大人になるから、待ってて。とりあえずシャワーは一人で浴びることにするね。」

もう十分見合う、いや先を行く恋人だ。僕には眩しすぎる。成長した君は、自分の魅力に気づいてないだけだよ。

やっぱり親心も出てくる。彼女が大事な存在なのはそのとおりなんだけど、いきなり恋人は、ちょっと想像してなかったかな。



そんな中、恋人として、最初のイベントがあった。


「ねえねえ、花火。花火見に行こうよ。」

今日は、東京に住んでいれば知っている花火大会があるらしい。

とは言え、花火は昔腐るほど見てたし、人が多いところに敢えて行く必要性があるのやら。

「ん~。見たければ、一人で行ってくればいいじゃん。」

「もー、そうやって、恋人同士の想い出作りを一つ潰しちゃうわけ?」

「ただですら夏で暑いというのに、わざわざ群衆に入って見る花火など、何がドラマチックか。」

「君って、花火に恨みでもあるの?なんかいつもと違う反応だよね。」


「どうしても見たい?」

「みたいに決まってるよ。」

「んじゃ、まだ行かないから、ちょっと待っててね。」

「ん?見に行く気になったの?でも、7時からってサイトには載ってるよ。」

「うん、だから、7時に行けばいいでしょ?」

「ここからだと距離あるじゃん。窓開ければ見えるわけないでしょ。」

「そう、だから、見える場所に行くんだよ。この近くにあるんだよ。」

「え、そうなの?でも、そんな感じで、本当に見られるのかなぁ。」


で、7時を回って、最初の花火が打ち上がったのをTVで見てから、出かけることにした。

「絶対居酒屋のTVで見るとか、そういう感じでいるでしょ。」

「あ、それもいいね。でも二人共お酒飲めないしねえ。」

「そうじゃない、まさか、音だけ聞いて楽しめって?」

確かに遠くではあるが、ドーンって音がなってる。花火の音ってのは、なんか響くよなあ。


「飲み物いる?」

「これ、いつも田端駅に行く道じゃない。やっぱり今から電車移動するの?それじゃあ遅いじゃん。」

「僕は、花火を見るために、飲み物いるか?って聞いてるの。」

「えっ?見える場所に行ってるの?全然気づいてなかった。」

「いやいや、今までなんのために坂を登ってきたと思ってるの?」

彼女の表情が、目からウロコ状態である。妙に納得した感じの顔。


「あ、さすがに他にも観客はいるか。」

田端駅の南口、出てすぐのところに結構な勾配の階段がある。新幹線の高架橋を下に見るこのロケーションこそ、花火大会の特等席ってわけだ。

「へぇ、こんな近くに、こんなに花火が見られるところがあるんだね。」

「昔、なにかの用事でたまたまその日だった時があってさ、ここでしばらく写真取ったりしてた。」

彼女は買ってあげたサイダーを口に付けたまま、目の前の花火の美しさに見とれている感じだった。

そして、珍しく今日は握ってこないと思っていたら、左手で手を繋いできた。

「きれい...。」

花火が打ち上がってる最中でも、新幹線は走ってくる。スカイツリーも見える。日常の中に、非日常感がプラスされて、不思議な感覚になる。


しかし、花火っていろんな形があって、音もちょっと違ってて、作ってる職人さんってのは、打ち上がる姿を想像して火薬を詰めるわけだから、本当に絶やしてはいけない技術だよなあ。

僕も花火を見るのが嫌いなわけじゃない。ただ、一人で観る花火よりも、二人で観る花火のほうが、やっぱり楽しいね。彼女がいることに感謝。


帰り道で話をした。

「満足した?」

「さっすが君だね。意外とこういう事に詳しくないのかと思ってたけど、ちゃんと準備してたんだよね。」

「いや、偶然だよ。僕が昔、そのときに通ってなかったら、こんなにいい眺めは知らなかったよ。」

「そういうとこ。ほーんと、大好き。」

「ありがとう。僕も好き。」

「う、うん。それはありがとうございます。」

「もうちょっと、それっぽい言葉に耐性を着けたほうがいいね。」

手をほどいて、頭を撫でてあげた。

「そうやって子供扱いするんだから。もー。」

「子供扱いしてない。あの人が言ってくれた通り、君も立派な恋人。そうじゃないの?」

「...った。本当に。」

「もちろんだよ。僕は、君の父親で、恋人らしいからね。」

彼女はすごく喜んでくれた。僕は不思議と、その状況に納得してしまえる彼女の喜びように、良く分からない高揚感を覚えた。

「じゃあ、毎日、一緒の布団で寝てくれる?」

「う~ん、それは考えておく。」

「毎日、一緒にお風呂に入ってくれる?」

「う~ん、それも考えておく。」

「毎日、寝る前にキスしてくれる?」

「それぐらいなら、別に...いや、君と初めてのキスは、もっととっておきにすべきだよね。」

「それじゃあ、私とエッチなこと、してくれる?」

「うん,,,そうだよね。最後にはそこに行き着くよね。君が望むのなら、そうすべきだよね。あの人にも言われてるし。」

「そっか...。私にとっての初めて、まだまだたくさんあるんだね。」

「申し訳ないが、僕から君へ積極的に恋人らしいことをするとすれば、まあ、せいぜい手をつなぐことと、一緒の布団で寝ることぐらいだと思ってる。あとは、君の思いと覚悟かな。君がからかって話をすることに対して、簡単に出来るようなことじゃないんだ。こっちも、その覚悟はしてる。」

「うん...。私には、まだ覚悟が足らないってことなのかな。」

「その初めてを簡単にしちゃっていいものなのか、僕には判断ができないんだ。君を大切にしてるから、君がして欲しいタイミングを、自ずと理解出来ると思うんだ。」

「でも私、君のためなら、今だっていいよ。それくらい、今も好きだよ。」

「知ってる。だけど、君はそれで後悔しない?しないなら、別にいいけど、迷ってるのであれば、今がそのタイミングじゃないってことだよ。」

「分かった。私に、少しだけ勇気を持つ時間をください。そして、私も、君にも、後悔のないような想い出が出来るようにさせてください。」

「...嬉しいよ。そういう本音をあまり言わない娘だから。僕も、君が好きでたまらないけど、僕はズルいから、君を後悔させたくなかったんだ。だから、君に託す。すべて、君の思うままに、君の恋人は従う。でも、君はもうひとりいる。だから、物分りが良くなれとは言わないけど、早まらず、落ち着いた君のタイミングで、しっかり思いを刻んで欲しい。」

「分かった。でも、私はおねえちゃんじゃない。私は私。でも、私にも覚悟が必要なのは知ってるから、その時まで、待っててください。」


「ま、でも、君はそんなことをいいながら、いつもの恰好で寄りかかってくる。そういうところは、ズルい娘だね。」

「えへへへ。それぐらいは、日常だから許して欲しいかな。」

「いいよ。僕も、多分君なしでは、生活に違和感を感じるだろうから、君の今までの行動は、全て受け止めるよ。」

「意外と大胆なこと言うね。でも、私も君の大切なものに入ってるのは、嬉しい。」



急がず、焦らず、君の気持ちを受け止める日が来ることを、僕は待つよ。

だから、君も急がず、焦らず、自分の思いを出してくる日が、いつか来るといいね。



今日はこの辺で。またの機会に。

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