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Life Re:7 My life with you stabilizes my spirit. 日々の生活が僕を安心させる。

僕と彼女は、家族でも恋人でもない曖昧な関係のまま、共同生活を送っています。彼女は「周りから見たら恋人同士に見える」と僕に話します。僕は「君が大切すぎて、どうしたらいいかわからない」と本心を吐露し、彼女もまた「君が私の思いを受け止められないのは、覚悟がないだけ」と、二人の関係を深く考えます。


僕は、彼女に「無防備すぎる」と注意しますが、彼女は「信頼しているから」と笑い、お互いへの深い信頼を確認し合います。


発作と彼女の優しさ


ある夜、僕は死への恐怖からくる発作を起こし、過呼吸に陥ります。彼女は僕を落ち着かせ、一晩中そばにいてくれました。朝、僕は「見捨てないか」と尋ね、彼女は「私が助けてあげる。それが恩返し」と答えます。僕は、彼女の存在が心の安定剤になっていることを実感します。


自立への第一歩


彼女は高卒認定試験を受けることを決意し、僕は彼女が勉強に集中できるよう、アルバイトを休職できるよう手配します。彼女は「自分でやりたかった」と怒りますが、僕の心配する気持ちを理解し、素直に感謝を伝えます。


試験に見事合格した彼女は、すぐに大学へ進むのではなく、学費を自分で貯めたいと宣言。僕は彼女の自立への第一歩を喜びつつも、いつか彼女が僕の元を離れていくかもしれないという複雑な気持ちを抱えるのでした。

今日も一日が終わる。お風呂に入って、寝るまでの時間を二人でまったりと過ごす。

彼女の体温が分かるぐらいくっついてくるけど、慣れたものだ。警戒心もなければ、羞恥心も特にないんだろう。


「ねね、私達って、やっぱり周りから見たら同居してるってことなのかな?」

「んー、まあ、そうなんじゃない。別にみんながみんな、ご家庭の事情を知りたいわけじゃないだろ。」

唐突な問いかけに、ありきたりな返事。これが普段の会話なのだから、傍から見たらそういう関係だと思うよね。

「なんか誰かにでも言われた?」

「うん、バイトの友達がそれっぽいことを聞いてくるんだよね。もちろん、君のことはオトーサンって呼んでるけど。」

「オトーサンにしては、年齢が若いと。まあ、そう言われると、確かに反論出来ない部分はあるな。僕も40近いけど、君の年齢から逆算すると、僕は若くして子供を授かってることになるからね。」

「でも、普段の雰囲気で分かるみたい。明らかに親子じゃないんだって。恋人同士で同居してるように見えるって。」

そういうものなのか。まあ、僕自身が親子の経験も無ければ、恋人の経験も少ないし、まして彼女が一方的に好き好き言ってるわけだから、まあそう見えるか。

「とは言えさ、現在進行系でお互い距離感とかもよくわからずに暮らしてるってのは、確かによくないのかなあ。」

「なんで?私はオトーサンとして見てるときより、君として見てるときのほうが多いよ。一緒に暮らしてて、やっぱりずーっと好きだもん。」

「そりゃ身に余る光栄です。お嬢様。こういうことが言ってほしいんでしょ?」

なんか不機嫌になってるような顔してるな。お嬢様ネタはいい加減使わないほうがいいのかな。

「うーん、私のほうが一方的にに好き過ぎるのかな。一緒に暮らしてて、なんかイヤなこととかない?」

「ないことはないよ。例えば、寝るときの格好とか、家事がてんで駄目なところとか。」

「...やっぱりあるんだ。」

「これは僕の意見だけど、君は娘にしては無防備過ぎるところがあるんだよ。」

「無防備?」

「そう、こう、普通さ、僕みたいなおじさんと同棲してる場合だよ、普通の恋人だったとしたら、もう少し防御力があると思うんだよ。」


こういうときは目を見て話すと効果があるとか、どっかで読んだな。

毎度のことだけど、真剣な目で訴えるように話しかける。

「父親としての意見としては、好き好き言ってくれて、スキンシップもちゃんとしてくれる娘だから、そりゃあ僕も好きになる。もちろん、僕だって本音を言えば、君のことは僕の恋人ですとでも言えたら、それが一番幸せだよ。」

「...」

間髪入れずに続ける。

「でも、僕は君を娘として育てて行くと決めたから、曖昧な関係を続けていくことで、生活を保っていると思ってもらえたら、それが一番いいのかな。」

「...やっぱりずるいよね。そういうとこだよ。君が深く考えすぎて、私を大切に思いすぎてるから、普通の同棲じゃ出来ないことだってあるってことでしょ。」

「うん、それはね。生理現象はともかくとして、なるべく恋人らしい生活はしないように心がけたいと思いながら、現実にはなし崩し的に仲良し同棲みたいになってるけどね。

目の前で真剣に話をしている彼女の顔を思わず抱きしめてみる。

「えっ、急にどうしたの?我慢できなくなった?」

「真剣なことだから一度しか言わない。と言っても毎回言ってるけどさ。」

「僕は君のことが大切なんだ。けど、恋人として大切に出来ないんだ。やっぱり娘として見てしまっている。そこにずるさを感じることは、今までもこれからも同じだと思う。君が僕の恋人となって、あわよくば伴侶として添い遂げるぐらいの覚悟があるのも知ってる。けど、ずるいから、そこから目を背けてるだけなんだよ。」

「...本当に、私のこと、好き?」

「好き。愛してる。軽く聞こえるかもしれないけど、そんな陳腐な言葉しか君に掛けられない自分が情けないよ。でも、僕の愛してるは、家族という意味で愛してるってことだからね。君が向けている好きとか、恋愛とかとは、やっぱりずれてるんだよ。自分でもわからないんだよ。君が大切過ぎて、どうしたらいいかわからないってのもある。でも日常に支障が出てもしょうがないし、許容して欲しいところもある。」

「...やっぱり、一方的に向けられる好意って、重たいものなのかな?」

「そんなことないよ。そう思わせた僕が悪い。君は君が思うように、僕に接してくれればいいんだよ。だけど、僕の立場は決まっているから、今はどうにも出来ない。ごめんね。」

涙目になる彼女を強く抱きしめる。

「僕もこんなに好きなんだよ。君の思いを受け止められないとしたら、僕に覚悟がないんだよ。君は悪くないから。」

僕も泣きながら弁解している。なんて情けない姿なのだろう。でも、本心だ。

「なんか、私達、お互いの関係をもっと楽に考えられたらいいよね。どうしたらいいんだろうね。」

「それは二人で考えていこう。乗り越える方法は、必ずあるはずだから。」

これが彼女の存在の確認方法なんだろう。今を生きてることを実感したいから、わざと重いように話をする。

安心させるのが僕の役目。親であり、恋人であり、関係をつなぎとめるためなら、いくらでも甘い言葉を並べてあげるよ。


あとになって、やっぱり聞いてくる。

「...で、先程無防備と言ってましたけど、私ってそんなに君の前で無防備?」

「少なくとも、性的な恰好してることが多いんだよね、お風呂上がりとか、寝るときとか。」

「あー、なるほど。まだ一応未成年が、お風呂上がりにバスタオルだけとか、寝るときにTシャツにショーツでは、君には性的に見えるってことなのか。」

「僕じゃなくても、普通はそんな恰好していれば、100%襲われるよ。僕だって、生理現象には苦慮してるのを知ってるでしょ?」

「うーん、楽なんだけどなあ。あと、あわよくば襲ってって合図みたいな感じなんだけど、そういうとこだぞ。なんか大人でずるい。」

「いちいち僕が言ってもしょうがないから、その辺は君に任せる。ただ、僕も男だから、その辺はいつでも覚悟を持って欲しかったりするよ。」

「だけど、今までそういう雰囲気になったこともないし、そこは100%信頼してる。さすが私のオトーサンだって。自慢しちゃうね。」


「どうせなら、自慢のオトーサンってバイトの子に言ってあげればいいんじゃない。ある程度理解してくれるでしょ。」

「そうだね。一応、弁解はしてみるね。」



「人を好きになるって、難しいね。単に言ってるだけと、現実は違うよね。」

「なんでも焦って知る必要はないよ。僕らは僕らのテンポがあるだろ。それで進んで行けばいいよ。あ、もちろん、家族としてだからね。」

「分かってる。ちゃんと心配してくれるオトーサン、大好きだよ。」


その日は久々に手をつないで寝た。こういうことをするから、恋人だ同棲だって言われるんだよな。もういっそ、事実婚ってことにでもしてしまおうか悩むところかな。


ところが、僕は突然発作に襲われることがある。

原因はよく分かっていないのだが、年に1度ぐらいのペースで、自分の死に対する恐怖心から、過呼吸や嘔吐してしまうことがある。

死にたくなるとか、そういう感じではなく、明確に死を意識した瞬間、叫び、走り回り、嘔吐し、過呼吸を起こすのだ。なぜ、平時にそれが起こるのかは分からないが、何か危険な信号の前触れなのかもしれない。


その日は珍しく、僕も寝付きが良かった。彼女と手を繋いで寝たからだろうか。

彼女は今日もスースーと寝息を立てて、気持ちよさそうに寝ている。


寝付きが良かったのだが、次第に変な夢を見るようになる。

どういうわけか、僕はもう生き絶え絶えの状態、そして全身に悪寒が走り、何か死を意識した感覚に陥る。

「ああああああああああああああああああ」

突然大声を上げ、トイレへ駆け込む。どういうわけか知らないが、意識はないけど、トイレに駆け込むというのが、一連の流れとなっているようである。

「うううう、ああああああああああ、」

失神するわけでもなく、目を見開いた状態で叫ぶ、近所迷惑にならないかと思うほどに叫んでいる。

と、同時に過呼吸が襲ってくる。うまく息が出来ない、苦しい。

更に吐き気も催す。息も絶え絶えで、うまく脳まで空気が回っていないのだろう。


と、後ろから抱きついて来る人がいた。そう、彼女である。

「なにがあったの?落ち着いて。大丈夫だから。」

耳元で聞こえるいつもの声、ああ、生きてる感覚がする。まだ、僕は生きているらしい。

しかし、過呼吸となってしまうと、なかなか平常心に戻るのは厳しい。

「ごめん、ビニール袋を持ってきて。」

彼女の行動はこういう時素早い。非常に助かる。

「落ち着いて息すれば、呼吸が戻るから。」

ビニール袋に口を当て、とりあえず落ち着いて呼吸を元に戻していく。



僕は汗だくだったが、とりあえず彼女はリビングまで僕を連れ出してくれた。

相当驚いた感じだったが、彼女は僕を諭すように、頭を抱きしめて、

「落ち着いた?」

「...うん、ごめん。」

「辛いことがあったんだよね。私が今だけ、守ってあげるから、落ち着いて。」

「...うん、怖かった。」

「そう、怖かったんだ。今日は、もう怖い思いをさせないからね。」


そうすると、彼女は僕を布団に寝かせ、彼女も同じ布団に入ってきた。

「大丈夫そう?」

「...うん、大丈夫。」

「今だけ、私と一緒に寝よ。きっと落ち着くから。」

「...うん」


どうも意識が飛んでいるらしく、彼女の証言によれば、ずっと抱きついたまま、寝たらしい。

恥ずかしい、40近いおじさんが10代の女の子に慰められ、一晩を過ごしてしまったというのは、言い訳が立たないだろう。

ただ、朝起きた時にはそれぞれの布団で寝ていたので、僕が落ち着いたあと、布団を移動したんだろう。


「ごめん。昨日は本当にご迷惑をお掛けしました。」

「びっくりした。あんな姿見るの初めてだったから。でも、なんともなくて良かった。」

「...怖い夢を見て、なんでか自分が死んでしまう感じになるんだ。死にかけたことはあるけど、あれよりずっと怖い、なんと言ったらいいんだろう。」

「大丈夫。君がそういう夢を見せるなら、私が君の夢を上書きしてあげるから。安心していいよ。」

「ははは、まあ、恥ずかしい姿を見せちゃったね。」

「情けなくても、恥ずかしくても、君は君だから。それに、昨日の従順な君も可愛かったしね。あれぐらい、積極的に毎日抱いてくれればいいのに。」

「覚えてないとはいえ、育ての親が子供に泣きつくなんて、恥ずかしいことばかりだなあ。」


「また同じようなことがあっても、君は僕を見捨てたりしない?」

「同じようなことがあったら、私が助けてあげる。それが、いつもしてもらっている恩返しだよ。いつもありがとう。」

「なんか普段と立場が逆転してるけど、僕からも、助けてくれてありがとう。」


原因は本当によく分からない、けど、少なくとも彼女がいれば、情けない姿を晒しても、きっと落ち着かせてくれる。それだけ分かれば十分だ。

君を、僕の安定剤とするのは良くないと思う。でも、君がいてくれるだけで、僕が発作を起こしても、きっと助けてくれる。いつまで助けてくれるかな。



また別の日。

「そういえばさぁ、お風呂上がりにしては爪がツヤツヤだよね。何か特別な手入れでもしてるの?」

出た。本人は特に何もしてないけど、どうしてそうなのかと羨ましがられるやつ。何故か、僕は女性が荒れるところが、ほとんど荒れていないらしいのだ。

「うーん、いつものことなんだけど、特に自覚なく。爪が伸びてきたら切るぐらいしか手入れはしてないんだよね。」

「いいなあ、羨ましい。」

女性ともなると、この辺の維持は大変だろう。別に悪いことをしているわけではないんだけど、罪悪感を覚える。」


僕の頬をツンツンしている彼女。

「よーく見ると、肌艶も綺麗だよね。ひげを剃ったあとなのに、特に肌水とか使ってないんでしょ?」

「うん、化粧品とか使わないしねえ。」


と来れば、だいたい行き着くのは、乾かした髪の毛である。自分ではあまり好きではないが、乾かしてもなお、黒くツヤが出ている割に、サラサラしてる。

僕が女性だったら歓迎すべきところなんだろうけど、男性なので、無駄なスペックなんだよなあ。

襟足のちょっと長いところを、痛くない程度に伸ばして遊ぶ彼女。

「で、シャンプーで洗って、ドライヤーで乾かしただけで、このサラツヤ感。すごく羨ましいんですけど。枝毛にもなってないし。」

「そう言われてもねぇ。あ、ドライヤーはナノイードライヤー使ってるから、その効果はあるのかも。」

そう、何故かうちにある高級美容器具。それがナノイードライヤー。これはくせ毛がひどいこともあって、朝濡らして即座に寝癖を治すためだったんだけどな。でも、それは彼女も使ってるから変わらないのかな。

「ねぇ、たまには髪の毛乾かしてよ。」

「いいよ。おいで。」

あぐらをかいた足の上に乗っかってくる。何もしないけど、彼女のお尻の感触が、足首のあたりに当たる。

だからといっても、足首は案外弱いところなので、結構痛かったりする。まあ、我慢だ。


左手にドライヤー、右手に長めのタオル。丁寧に頭の上から乾かしていく。

こう、口で説明するのは難しいんだけど、彼女曰く、心地良いスピードがあるんだって。

乾かしたところをブラッシング。まあ、寝る前のケアとしては、こんなもんだろうと思うんだけどね。


それにしても、僕のことを褒める一方で、彼女の髪の毛も非常に綺麗で細かい。

男と女だからってわけじゃないんだろうけど、彼女の髪の毛の繊細さは、ワシャワシャとしちゃうと崩れちゃうんじゃないかって思う。

だから慎重に乾かしていく。幸いミディアムボブなので、いいところ肩に付くぐらいだし、30分もあれば綺麗に整えられる。

「お嬢様。こんなところでよろしいですか?」

「うん、いつも丁寧にしてくれてありがとう。私より丁寧にしてくれるんだもん。」

「こんなことなら喜んで...うーん、毎日は嫌だ。」

「あはは、そこは正直でよろしい。」

背中を預けて来る。いい加減足首が限界だったが、今度は股間が勝手に狙われる。

「どうしたの?また大胆に迫ってくるね。」

「お嬢様ついでに、せっかくだから寄りかかってみようかと思った次第です。」

彼女は体を前後に揺らしながら、

「そうやって、何でも出来ちゃう。出来ないことは体の関係ぐらい。何でも器用に出来ちゃう。そういうとこだぞ。」

「そう言われてもねぇ。なんとなくでしかやってないから、器用に出来るとも思ってないんだけどね。」

「嫌味に聞こえるぞ。でも、君とこうやって生活出来て、私は今幸せを実感してるよ。」

目線を僕の顔のほうに移してくる。

「で、君は?」

「うん、そうだね。君がいるだけで、本当に幸せ。家族っていいもんだなって思うよ。」

「え~、家族?ねぇ、私、恋人でしょ。」

「だから...言っててもしょうがないか。今日は恋人。明日は娘。これでいい?」

「うんうん、そういうとこ好きだよ。」

と、ドライヤーを片付けてから、彼女は定位置に移動。


もたれかかったところで、なんとなく聞いてみたいことが出来た。

「毎日、こんなことばっかりだけど、楽しい?」

「そういうこと言うんだ。楽しいに決まってるよ。さては、私に不満でもあるのかな?」

「不満ねぇ。色々あるけどさ。そこは飲み込んでる。その上で楽しい?って思ってさ。」

真面目な顔して少し考えてる。考えてるってことは、何かしら予想外の答えが返ってくるのかな。

「一緒にいるから楽しい。オトーサンでも、君でもいいけど、一緒に暮らしてるから楽しいの。やっぱり、一人はいやじゃない?」

「うん、一人は一人で気楽だけど、確かに楽しくはないかな。日によるんだよね。その時の感情で喜怒哀楽が出るから。」

「でも、二人だから楽しい。これ以上ないぐらい楽しいよ。」

ニコニコしてるこの笑顔。感情がストレートじゃないと、こういう顔は出来ないものだな。

「そう、良かった。いい加減、男との二人暮しもイヤかなってちょっと思ったんだ。」

「もう、そういうこと考えるのよくない。イヤだったら私も多分とっくに外に出てると思う。」

「別人になった君か。だったら、僕も君を自由に出来るんだろうけど、あんまり楽しくないかもね。」

「そうそう。毎日甘いぐらいがちょうどいいの。一緒に生きてるって、本当に幸せなことだよ。」


そうして、珍しく彼女が頭に手を乗せて、よしよししてくる。

「偉い偉い。毎日そういうこと考えて、必死に私を支えてくれて、ありがとう。」

なんか、情けなくなってしまった。いかん、ちょっと泣きそう。

「あ、かわいいところ出てる。そうやって感極まると泣いちゃうところ、本当に大好き。あんなことがあった後だし、やっぱり、君も人の子なんだよね。」

形勢逆転されてしまったなあ。まあ、こういう日もあっていいのかな。今は恋人らしいし。

「ごめん。泣くつもりはなかったんだよ。けど、なんか嬉しくてさ。」

「嬉しいときは、そのまま嬉しさを受け止めよう。どう?幸せになってきたでしょ。」

こういうときは絶対に敵わない。素直に負けを認めて、流れに委ねよう。

「うん、すごく幸せ。やっぱり君がいて、幸せだって思う。」

「でしょ。幸せってそういうものだよ。一緒にいる限り、ずっと幸せ。」

たまに妙な説得力が出るのも魅力なんだよね。君と暮らしてて、僕はやっぱり幸せなんだろう。


この後、なんかよくわからないけど涙腺崩壊してしまって、あとから猛烈に焦らせてしまった。

よく言うバブみを感じたからなんだろうけど、その時の彼女はやっぱり大人だったなあ。

いいおっさんを落ち着かせるとか、やっぱり大人じゃないとできないよ。

いつまでも娘と呼んでいられない。けど、明日からはまた娘になるんだね。

僕も、毎日少しずつでも、父親になってたら、それが嬉しいかな。



そして、父親として望んでいた、ひとり立ちの第一歩を、彼女は伝えてきた。

「高卒認定試験をそろそろ受けようと思ってるんだ。」

いよいよ来たか。まあ、今だと証明のない中卒みたいなものだから、一応学力もあるところを示して欲しいところだ。

「うん、いいんじゃないか。大学に行きたいって言ってたし、年齢的にもいい時期じゃない。」

2019年、2度目の夏、彼女は10月に19になるわけだから、浪人1年生みたいなものだけど、そこまで大学入試の受験勉強をしていたわけだし、僕と出会ったときには、予備校に通ってたしね。

できるだけベースがゼロにならないうちにこういうものは勉強を再開すれば、そこまで大変なことにはならないだろう。


「今だと秋になるのかな。3ヶ月ぐらいバイトを休むとか出来ないかな。相談してみる。」

甘やかしてるかな。他の人達は多分バイトなり、社会人として仕事をしながら受ける人もいるんだろう。

でも、できればベストな状態で受験させてあげたい。幸い、まだ食費とかの生活費は僕が持ってるから、確かに早いうちがいいな。

「一度、バイトを辞めてもいいんじゃない。オーナーとおばちゃんには僕が話しておくから、あまり仕事のことは気にしなくていいよ。」

「そのぐらい自分でなんとかするよ。さすがに子供じゃないです。」



会社からの帰りがけ、今日はたまたまコンビニにオーナーがいたので、ちょっと立ち話程度にしてみることにした。

「そうですか。まあ、高卒認定試験も立派な人生のイベントですからねえ。」

複雑そうな顔をするコンビニオーナー。そりゃ、ネイティブで日本語喋れて、かつ態度も真面目な子がいなくなるのは、やっぱり厳しいよなあ。

「お父様。せっかくだから、アルバイトを休職ってことにしておきませんか?籍は入れておきますから。」

「あの子、またここでアルバイトするんでしょ。だったらそっちのほうが、いちいち手続きをしなくて済むでしょ。会社には、なんとでも言えるでしょ?オーナー。」

おばちゃんの謎の権力。まあ、退社手続きと入社手続きをもう一回ずつやるのは、会社側にも負担だろう。

「それでそちらが問題ないようでしたら、お手数ですけど籍を残したままにしてもらえないでしょうか。お願いします。」


頭を下げた瞬間、彼女が帰り支度をして出てきた。

「ねぇねぇ、なんか悪いこと言った?オーナーごめんなさい。本当にオトーサンはいらないこと言う人だから。」

「ふふふ、仲のいい親子で羨ましい。大丈夫。お父様はいつも君のことだけ考えてる人ですよ。」

お褒めに預かり光栄だ。親としての役目って案外他人の評価聞かないから、ちゃんとできてると言ってもらえるだけでうれしい。

「それじゃあ、例の件、後で娘にも伝えてください。今日は失礼します。」

「ははは、お疲れさん。また明日ね。」

「お疲れ様です。お先に失礼します。」

おばちゃんに挨拶して出てくる娘。本当におばちゃんには頭が上がらない。やっぱり、母親代わりがいるだけで、気持ちが楽だ。



「...というわけで、とりあえず勉強する時期は任せるから、その間アルバイトは休むってきちんと伝えてきなさい。」

あれ、なんか怒ってる感じ。

「お膳立てしてくれたのはありがたいけど、自分できちんとしたかったかな。」

「うーん、出来るとは思ってるけど、君さ、なんか押し切られてアルバイト続けそうだからさ。そういうところ責任感強くて、いいところなんだけどさ。」

「そうやって、私が優しいって。きちんと言うことは言うよ。そういう心配は掛けたくなかったなあ。」

ぷくっと頬を膨らませて怒られる。まあ、僕が世話焼きなのもよくないのだろうか。

「ごめんね。子供扱いしちゃったかな。」

「うん、もういいよ。心配させてるのは私だから、そこはオトーサンがフォローしてくれてるうちは、やっぱり娘かな。」

そう言いながら、僕の右側に背中から寄りかかってくる彼女。今日も右手の行き場は彼女の頭。いつもと違って、ポンとおくだけにした。

「そんなに急いで大人にならなくていいんだよ。いや、19歳にもなる人に言うことじゃないけど、歳を取るとさ、なんで若いときにあんなに焦ってたのかなって思う時があるんよ。」

「私は大人になりたいよ。でも大人になったら、オトーサンとはお別れになっちゃうんでしょ。うーん、やっぱり複雑。」

「カッコいいこと言うと、焦らなくても勝手に大人になれる。自然と生きていれば、いつの間にか大人にならなくちゃいけない時が来るんだよ。」

ちょっとうつむいてしまった。離れたくないんだもんな。心配にもなるか。

「大人になったとしても、君から離れて行かない限りは、なんとか親の努めぐらいは果たすよ。」

「うん、うんうん、それでこそ私のオトーサン。もう、大好き。」

「大好き、かぁ。いつまで言ってくれるのかな。」



それから、彼女は資格試験の参考書を自分で買ってきて、僕との生活を忘れて勉強に打ち込んだ。

僕はもうフォローするしかないけど、何度も言うようにいいとこのお嬢様。家事にどうせ期待などしてないし、むしろ毎日ご飯作れば僕のほうが美味しいご飯を作れる。

集中させてあげる環境を整えてあげたい。だから、自分から甘えてくる時以外は、なんとなく事務的な会話に終始するようになっていた。

本当ならば、現役生として大学へ行って、そこで違う人生を歩んで、今は同じ空の下で働いてるはずだった彼女。でも、狂った運命なら、その狂った先で幸せになればいい。


「明日だよ。なんかドキドキして来ちゃった。テストなんて2年ぶりだもん。」

いつもの体制。いつもの場所に僕の右手。なんとなく今日はよしよししたい気分。

「テストって考えるから緊張するんだよ。勉強できない僕から言う話じゃないけどさ、なんか、その問題が解ける時って、前から知ってるような感じで解いて行ってた気がする。」

「その結果が、高校時代に社会科だけ90点以上なんだっけ。暗記が強かったんじゃなくて?」

「勉強するってさ、今もだけど大嫌いなんだよ。でも興味あることって、知らないうちに知っているようになるじゃん。多分、それの応用なんだと思う。」

「ふーん、なんか、最初から教えてくれればよかったのに。」

「高卒認定試験って、まんべんなく知ってないといけないけど、まんべんなく詳しくなる必要はないんだ。そこの違いが、テスト対策との違い。」

「合格したいっていう思いの勉強と、もっと深く知りたいっていう勉強だと、質が違うんだと思う。僕も毎日が勉強。」

「あ、なんかいいこと言おうとしてるでしょ。」

いたずらっぽく笑う。この顔も、覚えておきたいいい顔だ。

「いいことかな。毎日、君って言う教材と、いろんなことに取り組んでる。これも勉強。」

「君って本当によくもそんなに減らず口というか、本気にさせるような言葉がポンポンと出てくるよね。」

「そう?ただ甘やかしてるだけなんだけどな。もしかして、甘えてるモードじゃない?だったらごめん。」

もう一回、強く背中を預けてくる彼女。

「心配してるんでしょ。私も心配なのに、君も心配しないでよぉ。」

「こういう時はさすがに、神頼みしてみたくなる心境だよ。でも、僕の娘はそんなことぐらいで音を上げるような娘じゃないって知ってる。」



結果は、無事合格。晴れて高卒認定された。順当に行けば来年の春には大学に行ける。

でも、彼女はそれをしないそうだ。

「次は大学の学費を貯めるの。君も言ったでしょ。焦らなくていいって。」

「でも、年齢的に、来年は20歳じゃない?」

「う~ん、自分の力で入学できないと、あんまり意味はないんだよね。それに、大学に行くのに、年齢はそれほど気にならないでしょ?」

なのだそうだ。僕がそんなに思うことじゃないから、本人がそれでいいなら、僕もその時でいいと思ってる。



今日はこの辺で。また次の機会に。

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