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七話『勇者に遭い』

 キャンプを設置し、それぞれ交代交代で夜の見張りをしつつ……仮眠。僕たちは何事も起こらずに一夜を過ごした。

 朝になって、僕は起床する。

 しっかりと寝れることが出来たので、眠気は一切ない。


 テントを出る。


「良い朝、ですね」

「良い朝ですね!」


 変な寝ぐせがついていて、ツインテールじゃなくて……、スリーテールになっている彼女と僕は邂逅(かいこう)した。


 鳥が鳴き、花が笑い、陽が照りつける。


 こんな日に起きてしまうと、なんだかダンジョン攻略をする気にはなれない。

 勇者たちの姿が目に入ってこない。


「さて」

「はい!」

「……朝から元気が良いね」

「元気なことが取り柄でありますから!」


 笑顔でそう返す、元聖女。

 よし。じゃあ、キャンプ用具を畳んで……、ささっとこのダンジョンを攻略しに行こうじゃないか。

 そう意気込んで、僕はキャンプの後片付けを始めた。


 と。

 同じ頃。


「マジカよ、てめえら。こりゃ笑えるぜ」


 聞きなれない声が、僕たちに飛んでくる。

 森の奥からだ。誰から、だろうか。

 ふと、落としていた視線を上げて、声が聞こえてきた方へと目を向けた。。


 ──僕は、そこで見る。


 そこに立っていたのは、僕たちとはまた違うパーティーであり──、間違いなかった。


「あ? なんだよ。オレ様を見ても無視か?」

「僕に話していたのか……」

「はっ、そうだよ。出会えてありがてぇとは思わねえのか? オレ様はこの世界で十人しかいない勇者の一人【紺碧(こんぺき)炎帝(えんてい)】だぜ?」


 そう。

 奇しくも僕たちが遭遇したのは、他の何物でもない。

 勇者を率いる、世界に十個だけの勇者パーティーだったのだ。


 蒼色のローブを着用する、ショートの蒼髪に蒼眼の男。


 ……運がいいのか悪いのか。

 少なくとも、僕とセツナギが面識のある勇者ではなかった。


 知らない名である。


「この国の王都から徒歩で西へ五時間歩いた先にある湖の水質ぐらい、分からない」

「はっ! 回りくどいが、つまり知らねえってことかよ」

「そういうことに、なる」


 本当に知らないから、マイルドに伝えるためにも……ジョークを織り交ぜながら言ったつもりなのだが。

 どうやらソレは、彼の逆鱗に触れてしまったらしい。


「何か不服だったかな」

「不服? ああ、もちろん。世界で十人しかいねぇ英雄の名を覚えていない、なんてな……っ! とんだ恥知らずもいたもんだぜ。てことは、オレ様のユニークスキルも知らないってことだろう?」

「…………」

「はっ……気に食わねぇ野郎だ」


 紺碧のなんとか、と名乗った勇者は背後に四人を連れている。……勇者パーティーというのは、基本的に大規模なものだが──彼は少数精鋭派なんだろう。

 見た感じ、勇者の連れは……槍使い、斧使い、剣士、魔法使いだ。


 ふむ。


「おい、貴様。勇者様への不敬は、死に当たるぞ?」

「死とは恐ろしい。勘弁してくれ……」

「はっ、じゃあもっと。この偉大な勇者様に対して、尊敬の眼差しを向けるんだな」


 槍使い。

 金髪モヒカンの男が僕に声をかけてくる。

 もちろん。名前なんて知らない、誰だろうか。


 そんな折に、今まで黙っていたセツナギが慌てて僕に駆け寄ってきて、耳打ちしてきた。やっと状況を理解したのか。


「ちょ、ちょっとフィーさん! どうするんですか!? ゆゆゆ、勇者だって!!」

「別に何ともない」

「え、いや、ちょ。本当に、そんなスグに勇者と会うとか……戦う準備が出来てないんだけど」


 なんで戦う前提になっているんだ。

 というか、勇者に対して「ざまあ」すると大きく宣言していた、彼女はどこにいった。いや、最初からそんな元聖女はいなかったか……。

 ただ、動揺している元聖女がいるだけである。


「別に、することは変わらないし」


 僕は、彼女に冷静になれとささやいてみた。

 しかし、気が動転しているらしくて落ち着ける様子のない元聖女。


「……おい、なに話してるんだ? オレ様も混ぜてくれよギャハハ!! なんてな、オレ様の前で小声なんて喋るな。首をはねるぞ?」


 そんなことをしているから、ほら。

 勇者さんが恐ろしいことを宣言してしまったじゃないか。


「申し訳ございません」

 そう言って、僕は立ち上がった。


 キャンプ用具を片付け終わったのだ。

 さて、ダンジョンを攻略しに行こう。


「おい、てめえ。何先に行こうとしているんだよ──オレ様が先に決まってるだろ? 勇者なんだからさ」

「そんなルール、あってほしくないけれど。あるのか?」

「今、たった今! このオレ様が決めたルールだ。だから通せ、早くな」


 ギルドに用意されているダンジョン攻略のクエストというものは……様々な人が、同時に受けることが出来る。

 しかし報酬をもらえるのは、ダンジョンの王を倒したパーティーのみなのだ。


 早い話が、早い者勝ちである。

 それを理解していて、勇者は自分たちを先に行かせろと横暴を伝えてきたのだろう。


 まあ僕たちを先に行かせたとしても、『このパーティーが、追放された無能で集まっている』という情報を知っていれば、こんなパーティーじゃ攻略は無理だろうなんて、思っているのかもしれないが。


「だから、どけッ! オレ様が先に行くんだよ! ひゃっはーっ! いくぞ

 、お前らっ!」


 そう残して、彼らは取り巻きと共に走って、洞窟(ダンジョン)の中へと去って行ってしまった。

 まるで旋風の如く。


「…………」

「……ぇ? え!? なにボーっとしてるんですか! ちょ、ちょちょちょ!! 勇者たちに先越されちゃいますよ!」


 彼らが闇の奥へと消えた拍子に、元聖女が慌てて洞窟内へと指を差す。


 ──確かに彼女の言う通りである。


 だがしかし、先に行ってくれるということは何かと都合が良いのだ。先に魔獣を倒してくれるということは、必然的に危険性が減る。


 セツナギの力がどの程度なのかを、図る機会は少し失われるが、野垂れ死ぬよりは幾分マシだろう。


 というか、そうは言われてもな……。

 僕は肉弾戦は無力だから、勇者に嚙みつくなんて出来ないし。

 今の行動が最善だっただろう。


「そうだね。でもセツナギ、最後に聞いておきたいことがある」

「……え、なんですか?」

「セツナギは我慢っていうのが、得意?」

「も、もちよんです!」


 噓だ。

 嚙んでいるし。


「でも、なんでですか?」

「我慢が必要だからだよ」

「が、我慢が必要……?」

「じゃあもう一個だけ。……魔法は使える?」

「ま、魔法ですか!? もちろんですよ、いくら破門されたとはいえ。スキル無しで、魔法だけでも戦えます! 肉体強化、攻撃魔法、回復魔法、防御魔法、なんでも出来ます!」


 そりゃ凄い。



「ならいいよ」



 今回、初めてのダンジョン攻略に勇者が妨害してくる──なんてことは予想外だったけれど。

 人がいるということは、僕にとって好都合なのである。


 肩慣らしには丁度いい。


「僕たちの最終目標を確認しよう」

「も、目標? そりゃあ、このダンジョン攻略する、ですよね」

「その通りだよ」


 そして、ダンジョン攻略するためには。

 ダンジョンの一番奥に眠る、王を倒さなければならない。


「君はそれさえ把握していればいい。計画を練るのは、僕の仕事だからね」


 さて。

 じゃあ、本領発揮ではないが──僕たちの、始まりの戦いと行こうじゃないか。瞬時に練った勝利のプランを脳内で、演算していく。

 よし、問題ない。


「そ、そうなんですか?」

「もちろん。僕は、噓と事実を扱うのが得意だって言っただろう」

「それは、そうですね!」

「……だから、僕は僕なりに勝つのさ。もちろん。今回はちょっとした噓かけだけどね」


 布石は、既に打っている。


「じゃあ行こうか、最初の戦いにね。ハイランクダンジョン攻略といこう」


 そうして、僕たちの初戦が始まった。

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