六話『ダンジョン攻略へ』
ダンジョン。
それは、突如としてあらゆるところに出現した──魔獣たちと、それぞれの王が住む家である。
家、とはいっても……地下にあったり、異界にあったり、アホほど大きかったり、家と呼べる範疇のものではないのだが。
ともかく、ダンジョンというのはそういうものだ。
ダンジョンの最深部に位置する”王”が、それぞれのダンジョンを支配しており、管理していて──ソイツを倒せば、そのダンジョンは崩壊、消滅する。
僕たち冒険者は、そんな全てを仕切るダンジョンの王を倒すことが仕事だ。
ダンジョンの王を倒す=ダンジョン攻略。
といったところ。
「それにしても、最初から『ハイランク』のダンジョンに入るとか……相当危険じゃないですか?」
「君がいるから大丈夫だろう? キミは最強を自称していた元聖女だと聞いたけれど」
聖女というと。
一般的に、何でも出来る存在だ。
肉弾戦は、基本的にあまり得意じゃないかもしれないが。
本当に、魔法の話になればなんでも出来ると聞く。
攻撃魔法も防御魔法も、回復魔法も、なんでも出来るとな。
本当かどうかは、知らないが。
「さ、最強ですよ! 勇者には勝てないですけどね!」
「スキル【暴力】。期待しているよ」
「もちろんです!」
ところで、今。
僕たちがどこにいるのか……、その説明をさせてもらおう。
「言っておくが、僕は……そう、噓職人であって。肉弾戦は全くと言っていいほど得意じゃないから、役立たずだと思うよ」
「まじすか」
「そう、マジ。人相手だったら得意なんだけどね。なにせダンジョンの相手は魔獣だ。僕みたいな噓と事実を扱うだけの人間が、勝てる相手ではない」
端的に言おう。
僕たちは、いわゆる『高位』と区別されるダンジョンの入口に……いた。
僕たちが先程までいた街【リディ】。
そこからもっとも近場なダンジョンが此処だったのだ。
『折角パーティー結成したのだし、早速ダンジョンに行ってみよう』。
そんな気軽な気持ちで、散歩程度の気持ちで選んだのが、ココ。
徒歩三時間程度の距離進んだところに広がる森『第四樹海』の中、ちょっとしたがけの下に置かれている洞窟。
今回のダンジョンの入口。
そこに、僕たちはいるのだ
「それなら、『中位』ぐらいのダンジョンから挑戦すればよかったのでは?」
「まさに正論だね。僕もそう思うよ」
「え? じゃあなんで此処を選んだんですか!」
「もちろん。近かったから」
ダンジョン。
その難易度は、ダンジョンによって様々である。
難易度というのは、命を落とす危険性がどれぐらいあるか、危険性と置き換えても構わない。
で、そんなダンジョンの難易度を分かりやすくするために。
ギルドはある指標を設置しているのだ。
それが、ランク制度。
難易度が低い順に。
『開位』
『低位』
『中位』
『高位』
『絶位』
となっている。
また、例外的なダンジョンとして『奇位』というモノがあるけれど、そこの説明は今回省かせてもらおう。
「そんな適当でいいんですか!?」
「冗談だよ。本当は、”本当”にキミが強いのか……試したかっただけさ。もちろん、君だけに戦闘を任せるわけじゃないよ。僕も応戦しよう、出来る限りね」
「出来る限り?」
「良いところに目を付けた。そう、僕の出来る限り──は、いわゆる戦力ゼロってことさ」
「何もしないってことですね!?」
それも冗談だよ。
腰に携えているダガーナイフが摩擦で音を立てた。
……背負っている革袋の中には、出発する前に街の露店で購入した干し肉などが多く入っている。
僕は苦笑した。
もう僕は金欠である。
金がなくなってしまった。
だから報酬がたんまり貰えるハイランクダンジョンを選んだ。
そういうワケ。
……だが。
肉弾戦はからっきし、僕は相性が悪いということは把握しておいてほしい。
「ほら、君がやりたいように……勇者に対して『ざまあ』する気なら、この程度のダンジョンは無双しなきゃダメだと思うけどね」
「た、確かに!」
そこでようやく。
彼女は僕たちが決めたパーティーの方針が、どれだけ高い壁なのか気付いたらしい。
金色のツインテールを跳ねさせながら、驚く少女。
やっぱり、いや前から分かっていたことかもしれないけれど……。
彼女は相当、頭の中が筋肉で構築されているらしい。
きっと八割以上、そうなんじゃないだろうか。
「まあこれは頑張ろうとしか、言えないけどね」
「そ、そうですね! 長い道です……」
「ざっと百年ぐらいで達成出来るんじゃないか?」
「ひゃ、百年も私たちはダンジョン攻略をしてなければならないんですか!?」
さあ、適当に言ったから分からないな。
予想に予想を重ねて、答えを導き出すという方法もあるけれど……。
「それぐらい高い壁だということの、比喩」
「あっ、例えの話ですよね! うんうん、びっくりした……」
「そう」
「じゃあ、今から潜りますか?」
僕は首を空へとあげて、見つめる。
もうすぐで日は沈んでしまう。そんな時間帯だ。……いわゆる、逢魔が時と言われる時刻だが。
今からダンジョンに潜るのは、危険だろう。
ただでさえリスクを冒して、背丈を伸ばしてハイランクダンジョンに来たんだ。
……ここで無策に突っ込んで死んだら、来た意味がない。というか、死んだら終わりだし。
別に死ぬことに関しては怖くないが、一回しかない人生を無駄にしたくはにのだ。
だからここは、安全性を取ろう。
「いや、明日にしよう。今から潜っても、命を無駄にするだけだ」
「今から行ったら死にますかね」
「多分ね、死ぬと思うよ」
これは噓じゃない。
事実だ。未来だ。
僕たちのパーティーが二人しかいないことを、忘れてはならない。
二人。二人しかいないのだ。
いくらこの元聖女が強いといえど。
夜中、しかもダンジョン内で魔獣に囲まれたりなんかしたら、突破は不可能だろう。ただの餌になるだけ。その未来は確定的で、既に見えているようなもんだった。
「死ぬのは厭ですね!」
「もちろん、同感」
ということで、僕たちはその場でキャンプをすることにした。……用意周到な僕だ。当たり前だが、キャンプ設営の為に必要な道具は全て……大きめの革袋に入れて持ってきている。
ふふ、褒めてくれても構わない。
「じゃあここでキャンプを設営して、夜を過ごすとしよう」
そんなわけで、ダンジョン攻略は明日から始めることにした。




