五話『方針決定』
聖女パンティ。
それが僕とセツナギ……二人で構成された冒険者パーティーの名前である。偶然、彼女が嚙んでしまったことにより生まれた名前。
パーティーネーム。
それは、そのパーティーの象徴ともいえる部分だ。
つまるところ、僕たちの象徴はソレなのだろう。
聖女とパンツ。
最も、セツナギは元聖女だし。
僕が最後に見たパンツは、誰かの花柄物だが。
それはいい。
取り敢えず名前は決まったのだ。
「では、これでお願いします」
「せ……『聖女パンティ』ですね。受理します」
緑髪をしたエルフ族の、ギルド受付嬢に僕はそう伝えた。
ここまで詳しく説明していなかったけれど。
冒険者パーティーを結成するために必要なのは『パーティー名』『メンバー』、そして『座右の銘』である。
それら三つの項目をギルドの受付嬢に伝え、魔法で記録してもらうのだ。
「はい」
引き気味だけれど、受付嬢はしっかりとそう言ってくれた。感謝、感謝ばかりだ。……こんな恥ずかしいパーティー名を読み上げてくれるとは。
「フィーさんって、もしかしてそういう性癖でもあるんですか? そう、恥ずかしい言葉を美少女に読み上げてもらう。みたいな」
「ここが公共の場所だということを忘れないでほしい」
「あっ、そうですね。でも……それに関しては気になります」
「別に、僕はそんな特殊なモノは持ち合わせていないよ」
ちょっとハードな方がいいけどね。
「本当ですかね? フィーさんって噓つきなんですよね? 今のも、噓じゃないんですか」
「訂正してほしい。僕は噓つきじゃないよ」
「え? それも噓、ってことですか?」
「違う。僕は、噓つき──ではない。噓を扱うだけの、そう、噓職人さ」
パーティー結成の為に、ギルドで申請している間。僕は背後にいるセツナギと、そんな会話を交わしていた。
「噓職人? それさっきも言ってましたよね。噓つき、と違いなんてなさそうですけど……」
「噓つきっていうのは、ただ噓を吐くだけの人間のこと。でも、噓職人っていうのは──噓をキワモノめいた一芸として扱う」
「はい??」
補足する。
「噓職人っていうのは、噓と事実。その二つのバランスを上手に扱う人間のことをいうんだよ──僕の造語だけどね」
「なるほど?」
そうだ、僕は噓つきではない。
噓職人である。もちろん噓を扱うけれど。それだけじゃないんだ。……噓と事実、その二つのバランスを保つのだ。
優しい嘘。辛い嘘。優しい事実。辛い事実。
その四つ。
それらを支配して。
人を騙す。
ただ噓をつくわけじゃない。
噓と事実を、丁度いいバランスで混ぜ込み、操るのだ。
「ああ、それと。現実を噓と吹聴したり、噓を現実のように扱う人間も僕はそう呼んでる」
要は詐欺師の上位互換みたいなものさ。
「よく分からないですけど、そういうことなんですね!」
「まあ、そういうことだね」
「じゃあ。いつか、フィーさんの本気が見れますかね? 本気の噓的な、噓職人がつくる嘘を」
屈託のない笑顔で、元聖女は期待を押し付ける。
「これから長くなることだし、いつかは見れるかもね。最も──僕が本気を出すのなら、ただ噓をつくことに対してじゃなくて。噓を現実に、現実を噓にすることに関してだろうけど」
ふーん、と理解したような……理解していないような、曖昧な表情のまま彼女はそう返答した。きっと理解していないんだろう。
表面でも、こんな如何にも『分からない』という表情をしているのだし。
そうに決まっていた。
「あ、あのー」
そこで受付嬢が、気まずそうに会話に介入する。
「最後に。パーティーに置く『座右の銘』を決めてください」
「ああ、座右の銘……」
そうだった。
それが残っていた。
座右の銘。
自分の座右の銘、というのならば。
大まかに簡単に言ってしまえば、『教訓』や『自分の信念』にしたい言葉の羅列……だろう。
さて、どうしようか。
「座右の銘、どうしますかフィーさん」
「そうだね。『二兎追う僕は、三兎得る』でいいんじゃないかな」
「なんですかソレ。『二兎追う者は一兎も得ず』は聞いたことありますが……」
「僕が勝手に解釈した、そう、僕のものである座右の銘さ」
「はあ」
ため息をつかれてしまった。
疲れているんだろうか。
否。僕に呆れているのだ。
「で、どうしようか。呆れている暇はないよ、セツナギ」
「そ、そうですね! どうしましょうか」
「座右の銘。僕たちのパーティーに込められた信念、教訓だよ」
「うーん。『追放しても、もう遅い』ですか?」
元聖女。
コイツはどういうジャンルの本を読んでいるのか。
少々疑問に思ってしまう。
どこかの国の本で、そういうのがありそうだ。
「よし、僕が決めるよ」
「え?」
「王道にしよう」
中々決まりそうにないので、僕が決めることにした。
ちゃちゃと、ちゃちゃっと決めるのが正解だ。
そして。
シンプルイズベストも、正解だ。
「有能と無能は、事実と噓のように表裏一体」
……それで良いだろう。
僕を追放して、クビにしやがった勇者に対しての──僕なりの皮肉である。これを僕たちのパーティー、聖女パンティの教訓とする。
◇◇◇
『聖女パンティ』というパーティーをギルドに、正式登録してもらった。これで僕たちは再び冒険者の職についたことになる。
「ではでは、フィーさん!」
「はい」
「方針を決めましょう!」
「方針?」
方針は既に決まっていないか?
「ダンジョンに潜って、攻略する。それでいいんじゃないのか? 僕たちのパーティーの方針っていうのは」
「いやいやいや、違います、ちがいますぅ!」
違うらしい。
何が、違うのか。
「そういう方針じゃなくて、ですね」
「うん」
「ほら……私たちって、どちらも勇者たちにパーティーから追放された仲間同士じゃないですか」
あぁ、確かにそうだった。
彼女は……『強すぎて』、勇者パーティーから追放されたんだった。僕が追放された理由とは、まるで正反対である。
面白いものだ。
両極端のものは惹かれあう。
極端なヤツは、はじかれる。
強すぎても。
弱すぎても。
勇者パーティーには要らないらしい。
「そうだね」
「だから、フィーさんも……勇者に対して、なんか思いがあったりするんじゃないですか? ここから成りあがって後悔させてやりたい、とか。無双して『ざまあ』したい、とか」
「ない」
そんな愚問に、僕は断言した。
別に……僕は勇者を恨んでなんかいない。確かに『無能だから』という理由で、何の予告もなしにクビにされたのはたまったもんではないけれど。
究極的な理由を追い求めれば、全て僕が悪いのだ。
追放される要因を作ったのは僕だから、仕方がないと思っている。
だから、そんな事をする気は全くない。
……いや、それはちょっとした噓だ。
「ない、んですか。私は──あるんですけどねッ! あのクソ勇者、私を急に追放なんかして、ムカつきにムカついてます!」
元聖女は、随分と恨みを持っている様子だ。
まあ、その気持ちは分からなくもない。
一応、自分だって同じような境遇であるのだし。
「……ふーん」
「本当にフィーさんはないんですか? 噓とか、じゃなくて」
「別に。正直な話、憂さ晴らしに……僕が頑張って勇者を見返したところで。僕は、気持ちよくなるわけでもないんだ。そういうのには、あまり興味がない」
えぇ、とまだ何か言いたげな彼女。
「でも」
「でも?」
「ざまあ、とまではいかないけど……僕が無能と言われたことには疑問が残っているんだ」
そう。追放された理由。
『僕が無能だから』。
もちろん、無能と言われた僕が悪いのだが……なんで僕が無能と言われてしまったのか、それを彼らに問いたいのだ。
彼らは言っていた。
荷物運びしか出来ない僕は、無能だ。と。
──だが別に、勇者は僕に戦えなんて指示してこなかったから、僕は荷物運びをしていただけに過ぎない。
だから、僕はそんな彼らの勘違いを直したい。
「理由が釈然としない」
そして、更に加える。
「だから、少しぐらいなら。僕たちの力を勇者たちに見せて──見返しても良いと思っているよ」
「おおおお! フィーさんがそんな事言うとは、意外です!」
「そうだろう? 僕も意外だよ」
別に意外じゃないけれど。
「それでフィーさん。具体的には、どんな方法で。とか、考えているんですか?」
「せっかく、僕たちは改めてパーティーを組んだ冒険者になったんだ。どうせなら、勇者パーティーよりも早く。この世界にあるダンジョンを全て、攻略しようじゃないか」
「──おおおおッ!!!!」
そう。ちょっとだけ彼らを見返す方法。
それは、彼らが今夢中になって取り組んでいる冒険者としての仕事。『ダンジョン攻略』を、彼らよりも早く──、否。
この世界の誰よりも早く、世界で初めて完遂させる、という無理難題だ。
どうせ壁を設けるのなら、高い壁のほうが良いだろう。
僕はそう思ったのである。
「私もそれ、賛成です!」
彼女はニコニコしながら、そう同意する。
こうして僕たち『聖女パンティ』の、冒険者パーティーとしての方針が決定するのだった。




