四話『パーティー結成』
あれから数十分後。僕とセツナギは、再びギルドに戻っていた。
ギルドの一角。
入ってすぐにあるテーブル席に僕たちは腰を下ろし、会話をはずませていた。いや、議論していたというべきか。
「取り敢えず、私たちでパーティーをつくるってことで構わないんですよね!?」
「もちろん。冒険者パーティーで二人っていうのは、少々心もとない気がするけど。暴力の君と、作戦を考える僕がいれば問題ないだろう」
冒険者がパーティーをつくる目的は、ただ一つである。
そう。『ダンジョンの攻略』を効率的に、安全に行うため。それだけの理由だ。…
…というか、基本的にはパーティーたちしかダンジョンは攻略しない。
別に理論上、独りでクエストなどを受注して。ダンジョンに行くことも可能だが。
独りでダンジョン攻略なんて、普通は無謀なのだ。
独りでダンジョンに潜る人間っていうのは、それこそ勇者のような化け物でない限り不可能なのだ。
最もそんな勇者たちもパーティーをつくっているので。
本当に例外じゃない限り、ダンジョンに入って攻略するというのならば『パーティー』でいるということは、ほぼ原則なのだけれど。
「私たち二人でダンジョンに潜るっていうことで良いんですよね?」
「うん」
ダンジョンの奥深くには、宝玉といった高価で売れる鉱石類がたんまりと眠っている。僕たちはダンジョンを攻略するついでに、それらを回収して宝石商に売りつけるのだ。
そしてお小遣いを稼ぐ。
「ギルドに登録してれば。ダンジョンの最深層にいる”王”を倒すことでダンジョン内にいる魔獣が全て消滅し……ギルドからの褒賞金が渡されるんですよね?」
「そうだね。ギルドはダンジョンが何なのかを研究している組織だから。ダンジョンの安全性を保たなきゃならないんだ。その安全性を確保するのが、僕たちの仕事」
それが、ダンジョンに潜る冒険者パーティーの仕事である。
「ふむふむ、なるほど!」
「まあ、あんたも元冒険者なんだから。それぐらいは分かってくれててほしいんだけれど」
「分かってますよー、これぐらい!」
「そう。なら、助かる」
冒険者の仕事。目的。
それを両方で確認し、意思の一致をした僕ら。
これにて。僕とセツナギでパーティーを結成することが確定したわけだが。
「じゃ、じゃあ! フィーさん!」
「どうしたの? そんなに、今すぐに全裸になりたいんだ。と叫ぶような奇声をあげて」
「そんな声出してません!」
机をドンと、叩く少女が一人。
どこの太郎だろうか。いや、花子か。
「出してないんだ。じゃあそれは、僕の噓だったみたいだね」
「はい! その通りで! うん!」
「で、どうしたの?」
「ほら、あるでしょう? パーティーを結成することが決まったんです。だから、ほら。パーティーネームを決めましょうよ!」
ああ。
そんなものがあったっけ。
すっかり、忘れていたよ。
「パーティーネーム。名前決め。大事だね、忘れちゃいけない」
「フィーさんは、どんな名前がいいですか?」
早速、彼女が聞いてくる。
そのツインテールを左右に揺らしながら。
え。
「僕? 僕が決めるの?」
「え? だってフィーさんがリーダーでしょ? 私は律儀ですので。リーダーの言うことを聞いてあげますよ」
「別に、僕は名前にこだわりとかないよ。……言葉という分野には一家言ある僕だけれどね。創作するのは得意じゃないんだ。だから君が決めた名前を、批評する係でいい」
「うーーーん!」
ちょっと話が長くなってしまったので、彼女に伝わるか不安だ。
「つまり、私が決めていいということですか?」
……伝わった!
「そうそう。そういうこと」
「分かりました! それがリーダーの意向なら、私が名前を決めてあげますよ」
「ああ、お願いします。助かるよ」
それに僕はこのパーティーの、リーダーになったつもりはないんだけど。
「パーティーネームっていうのはですね、そのパーティーを象徴するものなんですよ! 私たちで言うと、名前ってやつですね!」
「そうだろうね」
「だから、私たち二人にとっての象徴的な言葉を遣いましょう!」
「良い案じゃないか」
そして彼女は、一つの名前を提案してきた。
「じゃあ、西京コンビっていうのはどうでしょうか? 西京。西の京です」
「それじゃあ料理になる……て話は置いておいて。此処は東の京だよ?」
「まあ。それも貴方みたいな噓ってことで!」
「なるほど。最強と西京をかけて、どちらも噓っていうことなんだ。頭いいね」
「えっ……、最強なのは噓じゃないですよ!」
いやいや、どう考えても僕たちは最強じゃあないだろう?
強いコンビにはなれるかもしれないが。
少なくとも、最強ではない。
にしても、ややこしい話だ。
同音異義語っていうのは、話し言葉で使っちゃいけないな。
「じゃあ具体的にどこが最強なのか僕に教えてほしい」
「私の暴力です!」
「じゃあ君はかの勇者たちよりも強いっていうのかい? それは凄い。どんなスキルを持っているんだろう」
「うぐ……、いや。勇者よりは強く、ないですけども」
「じゃあ最強コンビというのは成立しないね」
必殺技が、必ず殺す技であるように。
最強は、最も強くなければならない。
「で、でも! 私の持っているスキル【暴力】は強いんですよ!」
「……君がなぜ聖女をクビにされたのか理解出来たような気がするよ。趣味が暴力、得意なものが暴力、スキルも暴力。まさに邪知暴虐の王──その生まれ変わりといっても過言ではない」
「ほ、褒めてます?」
「ーーある意味、褒めてる。聖女として、ではないけどね」
少なくとも冒険者をやる才能はあるだろうと、僕は褒めている。
──ダンジョン内で戦うことが仕事の一環である冒険者。魔獣と戦わなければいけない、というものが仕事の内容である冒険者は──まさに、暴力に愛された彼女にとっての天職だ。
悪く言えば、冒険者というのはダンジョンに対して暴力を振るう仕事だからな。
うん。
暴力に愛された、脳筋元聖女……か。
素晴らしく近づきたくない存在だな。
「因みに問うけれど、そのスキルはどういった効果なのかな」
「……標的の名前を声に出して決定すると、体が勝手に相手の反撃などを避けながら接近し、標的に対して馬鹿力で殴ることが出来ます!」
「なるほど」
それは確かに、強いかもしれない。
「強いでしょう?」
「強いけれど。気になったのは、最初の動作」
「……声を出すところ?」
「まさにそれだ。標的の名前を声に出さなければならないって……、相手は本名だけでなく、愛称とかでも可能? 僕だったら、そう……フィーさんって」
「多分ムリだと思います!」
ならそのスキルの弱点は、その相手の正式名称を知っていなければいけない──という点か。
分かりやすくて、結構。
「そう、それならいいよ」
「……おっけーですか?」
「君が使えない人材だということが、よく分かった。まるで僕みたいだね」
「えっ!? つ、使えないですか私!」
「もちろん。噓だけど」
彼女は、僕が漏らした最後の言葉を耳から通して、安堵の息を吐いた。
「……と、話がズレた。パーティーネームを決める話題へ、戻ろう」
「名前ですか。私、今の会話で考えちゃいましたよ……ッ!」
「へえ、ぜひ拝聴したい」
「なら教えてあげます! それはですね……」
彼女は云う。
テーブル席から立ち上がって、絶妙にギルド内で気持ち”浮きながら”。巨乳を揺らして、胸を張って、元聖女は発表した。
「偽りの聖女と冒険者がタッグを組むパーティー──約して、『聖女パ”ン”ティ』です!」
ん?
”聖女パーティー”と言いたかったのだろう。
どうやらセツナギは噛んでしまったらしい。
そして、彼女は大事な場面で噛んでしまったことを後悔したのか、驚いたのか、今にも噴火するぐらいの勢いで、顔を真っ赤に染めていた。
「へえ、どうやら僕はパーティーを組む仲間を間違えたらしい」
……というかそれは、約した意味がないだろう。
そう思いながら、僕はこのギルド内で一人、拍手する。
「ちょちょちょっ!! ちょっと待って下さい! 間違えました!! 間違えましたあああ!!! パンティじゃないです! パーティーです!!!」
赤面する元聖女はあたふたして両手を仰ぎながら、そう訂正するけれど。
それは、もう。
もう遅い。




