一話『僕は無能が故に追放された』
「お前、このパーティーから出て行けよ」
そう。何の間違いもなく。
金髪の長身男。勇者ライトはそう言った。
「出て行け? なぜ」
「そりゃあ、お前が使えないからに決まってるだろ!」
「使えなくないと思うんだが……」
出て行け。追放。
その理由は、僕がこのパーティーにおいて使えない無能だったから。それだけであった。
いやいや、僕は使えると思うんだが?
そう。疑問を吐露する。
だって、有り得ないだろう。
──使えない?
この、僕が?
「荷物運びだってやっていたし、キャンプ設営も僕がやっていたはずだ」
「そういうことしか出来ねぇヤツが無能って言うんだよ。いい加減分らねえのか、てめえは! ……お前はうちのパーティーじゃ要らないんだよ!」
僕はどうにか抗議しようとするのだが……無意味だった。いや、僕が抗議する以前の話だったのだ。
彼は僕という存在を『使えない』と一蹴する。
つまるところ、雑用係は要らないということらしい。
「はあ」
こういう場面に出くわすのは初めてのことだった──僕は、取り敢えず辺りを見渡すのだが。それで更に絶望してしまった。
勇者を囲むように立っている、仲間たちは僕に対して侮蔑の視線を送っていたのである。
なぜ、という疑問が湧いてくるのは言うまでもないことだった。
「分らねぇようなら、最後にもう一度言おう」
そんな中で。
勇者は、僕に宣告する。
「お前みたいな雑用係はこのパーティーに要らないんだよ。出て行け」
と。
◇◇◇
リディアス王国の東南部にある街【リディ】。
そんな辺境地にある街の、更に辺境である端っこで営まれている”冒険者ギルド”に僕はいた。
──先程まで僕がやっていた職業。
ダンジョンを攻略することが仕事である”冒険者”の男たち女たちが、昼から酒を持ってギルド内で騒いでいる。
騒がしいな。
耳が痛い。
「だ、誰かー。店員さん……」
ずっと僕──だけで通すと、語るのが疲れるため……フィーと名乗らせてもらうことにしよう。そう、僕の名前は今からフィーである。
フィーという少年は、昨日……勇者に冒険者パーティーから追放されるまで冒険者だった。
世界に十人しかいない、魔王を倒せる逸材とされる勇者。
それが在籍する、とても有名なパーティーに僕はいたのである。
雑用係として、ね。
「えーっと、どうなされました?」
「パーティーメンバーの求人募集を探しています」
「求人? あー……最近、クビになって話題になった方ですか」
「悔しいですが、その通り。僕は──勇者パーティーからクビにされた、不甲斐ない無力な男です」
ぼーっと。
呆然と、ギルド内で棒立ちしていたのだが。
緑色のショートボブに、黄金の瞳。
そんな風貌をした、ギルドの受付嬢が話しかけてくる。
いや、面倒な客を処理しにきてくれた、と言うのが正確かもしれないけれど。……取り敢えず、その人は僕に話しかけてきたのだ。
そして、彼女はエルフ族だった。
耳がヒト族より長く、生まれ持った魔力量が多く、長身が多い、といった特徴を持つ魔族の一種である。
低身長がコンプレックスの僕からすると、羨ましい限りなのだが。
「あはは」
そして彼女は苦笑い。
僕も笑えない。
「で、えーっと……。どんな条件で、パーティーをお探しですか」
「まあ、そうですね。急に追放とか、してこないところですかね」
「……あはは」
そして彼女は”渾身”の苦笑い。
僕も笑えない。
「今のは冗談です」
「そうなんですか!?」
大きなリアクションを取る受付嬢が可愛らしい。開いた口を両手で抑えて、大きく目を見開いている。
というか、冗談が通じていなかったらしい!
「真面目なことを言うと、普通なところが良いです」
それから一拍おいて。
僕はそんな要求をしてみた。
真面目なところ。
そう、真面目なところ。
──急に追放とかしてこない。ヤンチャじゃないところ。
……どうやら先程の要求は、冗談ではなく本心だったらしい。失敬。
「普通、ですか?」
「はい。普通のところです」
「……まあ、探してみますね」
普通。という言葉が抽象的すぎてピンと来なかったのか、受付嬢は目を点にしていた。しかし優しいものだ。
彼女はすぐさま検索魔法を発動し、ギルドに登録された冒険者パーティー一覧表を表示する。
「ありがとうございます」
そう、感謝を伝えた。
しかし中々、普通というものは……普通すぎて、見つからないらしい。いや違う。僕が所属していた勇者パーティー以外は全部、このギルドに登録された冒険者パーティー二千五百六十七個ある中で十個を除いて全部。
例外なく普通なのだ。
普通のパーティーなのである。
だから普通のパーティー、という検索条件だと。
星の数ほど出てきてしまうのだ。
ここから自分好みのパーティーを選ぶのには、想像つかないほど膨大な時間を要することになるだろう。
「えーっと、選ぶのならこの中から何ですが……全部を読んで選ぶのは、多分ムリだと思います」
そういいながら受付嬢がそう言った。
魔法によって光で構築された壁に表示された文字羅列を、僕はそんな見る。その羅列には……パーティーの名前や、所属者名、概要などがそれぞれ書かれていた。
なるほど。
この量は、確かに読み切れない。
「無理ですね……」
見ているだけで、頭が痛くなってくる。
この中から選べなんて、無理がある。
それにもし選べたとしても……そのパーティーに所属している人達が、僕を承認しないと、僕はそのパーティーに入ることが出来ないのだ。
もし、承認されなかったら。
その全ては水の泡と化す。
水の泡で済めばいいんだが。
水が蒸発して、更に細かい霧とかになったらどうしようか?
その時は諦めよう。
……なんて言えるわけない。
僕だって、職ぐらいほしいのだ。
職がなければ、生活出来ないし。
当然のことだ。当然のことが出来なければ、困る。
とはいっても──こんな二千五百五十七個存在する普通のパーティーから、一つを選ぶというのは……至難の業だ。
しかも、短時間で。
「あー、んー……」
僕はその、世間一般でいうコミュニケーションがあまり好きではないのだ。
だから、長時間人と話しているというのは苦痛に他ならない。
だから、短時間で済ませたい。
まあ長時間、人と話すのが苦痛とは言ったけれど。
一人でダンジョンを攻略出来るほど強い冒険者ではない自分は──パーティーに入らなければいけないのである。
背に腹は代えられない、というやつ。
しかし、やはり中々決まらない。
短時間で決める。
なんて無理がある話なのだ。
と。
「きゃああ!! セクハラやめろおおお!!!!!」
そんなキュートな叫び声が、ギルドに飛び交った。
どこの魔獣だろうか、ヒトの言葉で鳴き叫ぶ魔獣……なんて話に聞いたことがないんだけれども。
そう思いながら、僕は声が聞こえた方向。
ちょうど、僕の背後付近──ギルドの入口へと目をやった。
「よう、聖女ちゃん。オレのチームに入らないか?」
「……い、嫌です! 断りますーっ!!!」
「だってよぉ、てめぇも追放されたんだろ? 勇者パーティーから。『強すぎて、勇者が目立たないって』よ。オレのチームなら、役立てるぜ?」
「気持ち悪いです!」
そこに立っていたのは、一人の女性と男性だった。
男の方は……まあ、有象無象の半裸男である。どこかで野垂れ死にそうな、どこにでもいるような冒険者である。
そして女の方は……。
直球な暴言を吐く、聖職者らしヒトだった。
いや、あれは……聖女で間違いないだろう。
金髪のツインテールを結ぶ、見た目十代後半のヒト族。……普通の魔法使いが着用するような白のローブを着用している彼女だが。
そんなローブの隅に刻まれていた紋章は、この国で一番と言っていいほど有名な宗教のマークだったのだ。
「気持ち悪くねぇよ」
「気持ち悪いです! 特に、その一本だけ生えたあごひげとか! って、これ以上近づかないで下さい! 殴りますよ!? 殴ったら、あなたの頭が吹き飛びますよ!?」
「ヒェ!?」
聖女の容姿を観察するのはここら辺にしておいて。
どうやら、僕は冒険者勧誘の現場に遭遇してしまったらしい。厄介である。……入口付近に彼らは集っているので、いくら軽快なステップを踏めて、影が薄いという僕でもアソコから通るのは不可能だった。
でも、そうは言ってられない。
「だ、誰かー! この人を傷つけずに、追い返せる人! 助けてぇえええええっ!!!!!」
決めた。
僕はあることを決めた。
今日のところは空気が悪い。
仕事は明日探すことにして、今回はもう宿へ帰ろう……と。
「……ありがとうございました。今日じゃ決められなさそうなので、考えてきます」
受付嬢に感謝し、僕は脚を再稼働させた。
行く先はギルドの外である。
聖女とナンパ男の間に、ちょうど人一人分入れる隙間があったので……そこから通って、帰ることにした。
やれやれ。
なんでか知らないが、ギルドにいる人達からの視線が痛い。
みんな、なんでか僕を見つめている。
しかし僕はスルーした。
当たる視線も、二人の喧嘩も、聖女の叫び声も。
「え!? ちょ、そこの人!? 今のは……普通に助けるパターンじゃないんですか!?」
そんな声が聞こえてきたけれど、無視だ無視。
”僕は腰に携えていたダガーナイフで、ナンパ男が着用していたズボンのベルトを斬って、帰るだけである”。
─いくら僕でも、ちょっとぐらいは助けようと思う気持ちはある。
「……は?」
振り返ってはいないけれど。
僕は、その後にナンパ男から出たであろう可愛い叫び声が聞こえてきたのを、しっかりと認識している。
どうやら、彼はあんな公衆の面前で、パンツを丸出しにしてしまったらしい!
ざまあみろ。ナンパなんてしても、ろくな事にならないって教えてやる。
あと、彼が何柄の物を履いているのか、ちょっと気になったけれど……振り返ると面倒なことになりそうなので、僕は決して振り返らなかった。
「ぎゃあああああ!? オレの、オレのパンツがあああああ!!!!」
「きゃああああ!?!? 花柄!?!?!?」
──どうやら、花柄だったらしい。
良いことを聞いた。
僕はそう思いながら、この街にある宿へと歩みを進めるのだった。
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