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【短編】魔王と夢魔の秘密の夜に。

作者: PON


「人間共の国をまた一つ滅ぼした...皆、よくやってくれた。魔族の世界征服は目前となる」


魔王の重く暗い声が城に響き渡る...


「「「オォォォォォォォッ!!」」」


魔王の声に反応するように城に集まっていた魔族の軍勢が雄叫びを上げ、地面を踏みしめる。


雄叫びは大気を震わせる。

地面は地響きを起こす。


「魔族に栄光あれ!!」


魔王の言葉により軍勢は熱狂の頂点となった。







「う、上手く出来たかしら...?」


ここは魔王の自室兼執務室。


この部屋の主である魔王が座る豪奢な椅子には、禍々しい漆黒の鎧を纏い、人の骸を模した恐ろしい兜を被った『魔王』がいる。


「ええ何も問題ありませんでしたよ」


魔王領宰相である僕の目の前にいた魔王にそう言った。


「よかった...」


魔王は先程の演説の時に出した威厳ある声とは違い、か弱い声を出し安堵した様子を見せた。



「その御召し物を脱いでは如何です?この部屋には僕たちしか居ないわけですし」


「そ、そうね!」


魔王はゆっくりとその兜を脱いだ。

そこからは先程の演説の印象とはかけ離れた少女が顔を出した。


その顔はあどけない少女のものであり、少し吊り上がった大きな瞳が印象的だ。

髪は長く綺麗な黒色をしている。


脱いだ兜を執務用の机に下ろすと、続いて鎧を脱ぎ出した。

その禍々しい漆黒の鎧を脱ぐと中からは黒色のドレスを纏った華奢な女性の身体が現れる。


「ふぅ...」


纏っていた鎧は相当な重さなのだろう。

鎧を脱ぐと一息を吐いた後、執務用の椅子に魔王は腰を下ろした。


「陛下、お疲れ様でした。先程の演説で軍の指揮はより一層高まる事でしょう」


僕は椅子に座る魔王に向かって跪き、魔王を労う。


「そ、そうですか!それは良かったです。貴方もよく働いてくれました」


魔王は僕の言葉に返すよう、こちらにも労いの言葉を送る。それは何処かぎこちなさがあり、魔王ではなく見た目通りの少女のようだった。


「な、なんですか?!その眼は!!」


魔王は怒ったように言葉を発する。

どうやら私の視線が魔王を侮ったように映ったようだ。


「いえ、決して陛下が思われているような事は何も...」


「ーーーーーーーッ!!」


自分が侮られていると見られ不服に思ったのだろう事を、僕に悟られ恥ずかしくなったようだ。顔が真っ赤に染まっている。


少女とはいえ魔王、それ相応のプライドはあるようだ。そして王族故か少々気位が高い。



僕は元々、先代の魔王に仕えていた者だ。

しかし、先代魔王が病で急死し、魔王の一人娘である彼女が後を継いだ。


だが、この事は誰も知らない。

この国の宰相である僕と魔王である彼女を除き...





ーーーそれは数ヶ月前の出来事。

私の父である魔王...先代魔王が病で他界した。


この事は決して口外する事が出来ない。

現魔王が死んだとすれば、人間たちは此処ぞとばかりにこの国に侵攻してくる。

また臣下たちも魔王の座を狙い、内戦が勃発してしまう...


故に父は最期に魔王の座を私に譲った。

しかし、私がまだ魔王としての実力が足りない事は明白。

恐らく、私に着いてくる臣下はいない...

私は自室にて途方に暮れていた。




「...僕がお手伝いしましょうか?」


私の耳元で誰かが囁いた。

私は驚き振り返る。


「ーーー誰ッ?!」


そこにはこの魔王領の宰相が立っていた。

金色の髪にまるで天使の如き美しい顔をもつ少年がこちらを見ていた。


「い、いつの間にッ?!ここは私の部屋よ!」


宰相は不敵な笑顔でこちらを見つめる。

宰相として長く務めている男だが、私はこの男が何を考えているか全く分からない。


「いえいえ...姫君がお困りのようでしたので。主人の憂いを取り除くのも臣下の役目ですので」


彼は私にゆっくり私に近づいてくる。

その天使のような美貌が恐ろしく思え、私は後ずさる。


「貴女が魔王として務まるよう私が力をお貸ししましょう」


この男はこの国の実力者だ。

宰相の力を借りればもしかしたら...


「力を...貸してくれるの?」


男は笑顔で一言だけ「はい」と言った。

私はこの男の力を借りる事にした...




ーーーーこの男、宰相のおかげで何とか魔王としてやってこれた。


しかしそれは、私としてではなく、父のフリをして魔王として振る舞っていたからだ。


宰相曰く、まだ私の実力では宰相である彼の力を持ってしても魔王として成立しないとの事。


なので暫くは先代魔王の死を偽装する事となった。


...しかしそれこそが、宰相の狙いであったのだ。



宰相は私に不気味な笑顔を向ける。


「では約束を果たしてもらいます」


私は動揺する。

この男は魔王を偽装している事を盾に私に無理難題を押し付けてくる。


「こちらをお召しになって下さい」


そこには布が透けている白いドレスが一着あった。


「なッ!?こんなの着れるわけ...」


「...よろしいので?」


この男は夢魔だ。

性欲を貪る悪魔の末裔。


魔王である事を隠し、協力をすることを条件に毎夜、私に淫らな衣装を着せる。


「うっ...」


私に選択肢は無かった。

私はこの男に力を借りた時点で、この男の言いなりなのだ。

私は着ていたドレスを脱ぎ、宰相が持ってきた衣装を着た。

その白いドレスは布地が薄く、僅かにだが私の肌が透けて見える。


「実に美しい...」


宰相は私の身体をじっと見つめていた。

私はその視線に耐えられず顔を伏せる。


ドレス越しとはいえ、男に肌を晒しているのだ、恥ずかしさで身体中が熱くなる。

きっと顔も紅く染まっている事だろう。


「いやはや...その表情も最高です」


「このッ!」


私は宰相の顔に平手を放とうとしたが、直前で宰相に手を抑えられてしまった。


「この程度で怒っているようでは、魔王には成れませんよ」


明らかに悪意の篭った、人を痛ぶるような笑顔で私に語りかける。


この男の正体はこれだ。

人を意のままに操りたい支配の化身。


「くっ...」


私は唇を噛み締め、宰相の手を乱暴に払う。


「おやおや困りましたね」


宰相は余裕ある口調で笑っていた。






宰相は私をベッドに誘う。


しかし、不思議な事に毎度、彼は私の身体に触れようとしない。

きっとこの男ならば私の弱身に付け入り関係を強いる...と思っていた。

だが実際は違った。


「動かないで下さいね」


宰相は私をベッドに座らせると窓を開けて月明かりを入れる。

夜も深い為か、少し冷たい風が部屋に訪れる。

私の熱くなった身体を優しく冷やし、心に冷静さを取り戻させてくれた。


私の少し前には大きなキャンバスがある。

そしてキャンバスに向う宰相が...彼がいた。


彼はキャンバスの前の椅子に腰掛け、手には筆と

絵具が載ってあるパレットを持っている。


先程の悪意の篭った笑顔は消え、真剣な眼差しで私を見つめ、キャンバスに筆を走らせる。


毎度そうだ。

彼は私に淫らな姿はさせても、危害は加えない。

ただ、私の絵を描くだけ。


こんなやり取りが暫く続いていた。

分かってはいるが中々に慣れない。


この服装も彼に見つめられながら絵を描かれるのも。




どのくらい経っただろうか。

気づけば私はベッドの上で眠っていたようだ。


「今日はこのくらいにしましょう」


眠っていた眼をあけると目の前には彼の顔があった。


「わっ!」


私は驚きで飛び起きる。

宰相はそれを見てクスクスと笑っていた。


「夜も遅いので私はこれで失礼します」


そう言うと宰相は窓を閉めてからあっさり部屋を出て行ってしまった。

気づけば私の上には薄手の毛布が掛けられていた。

まさか、とは思うが。


「彼が...?」


私は少し嬉しくなったような気がした。

だか、それはきっと気のせいだろう。






ーーーーー僕が魔王の部屋から出ると、ひとりの男がいた。


「よっ!」


その男は魔王側近のひとりである政務官だ。


「宰相殿に少しお話が...」


「なんでしょうか?」



僕は彼に促されるまま、彼の執務室まで連れられてきた。


「魔王様の事だが...」


彼は不敵に笑いながら話し始めた。


「あれの正体は"姫様"なのでしょう?」


どうやら彼は僕たちの秘密に気づいてしまったようだ。

それもそうか、彼には透視の魔眼がある。

きっと魔王の執務室を盗み見ていたのだろう。


「何もこの秘密を公表しようと言うわけでわないです。ただ、貴方だけがこの秘密を利用し魔王様を独占されるのは些か...」


彼は続けて語る。


「この秘密を使えば魔王様は我々の操り人形だ。どうだろう...私も仲間に入れてくれないか?」


彼の野心に関心はするが、一応聞いておく事にした。


「本当にそれだけですか?」


彼は邪悪な笑みを浮かべ口を開く。


「いやいや...姫君は...魔王様は実に美しい方だ。私もあの身体を味わいたい。別にいいだろう?君も楽しんでるのだから」


その言葉を聞くと僕は彼にそっと近づく。


「この事は誰にも?」


彼は口を開く。


「当たり前じゃないですか...こんな都合の良い話、他の誰にもーーー」


そこまで聞いたら充分だった。

彼の腹部に軽く拳を立てる。


「ぐふっ?!」


彼は痛みで疼くまり倒れる。

そして僕は彼の頭を掴み床に叩きつけた。


彼は痛みで悶えていたが関係ない。


「な、なにを...?」


僕の"大切な人"に手を出そうとしたんだ。

相応の報いを受けてもらう。


「何も殺しはしないよ。ただ君にはこの事を忘れてもらうよ」


僕は夢魔だ。

自在に人に夢を魅せる事が出来る。


楽しい夢も、怖い夢も、淫らな夢も。

そして...悪夢でも。


「君はこれから暫く、悪夢を見る。覚めた頃には綺麗さっぱりこの秘密は忘れているさ...」


「や、やめてくーーーー」


僕は彼の言葉を最後まで聞く事無く、彼の頭に力を込めた。


夢に堕ちた彼は悶えている。

僕のものに手を出そうとした罰だ。


僕は彼を一瞥した後、部屋を後にした。







「出来ました」


いつもの夜、宰相はまた飽きもせず私の絵を描いていた。

どうやら今回の絵が完成したようだ。


「ちょっと見せてよ...」


キャンバスを覗き込むとそこには綺麗な人がいた。

...いやモデルは私なのだが。


「貴方から見たら私はこう見えるの?」


「ふふっ...どうでしょう?」


いつものような悪意ある笑みではなく、悪戯っ子のような無邪気な笑顔を見せた。

その笑顔を見て私の心臓が早くなったような気がした。


「ま、まぁどうでも良いけどね!」


私は思わず顔を逸らしベッドの上に戻る。

そして私の顔を見て彼が笑う。


「ーーーーーーーー」


私が気を逸らしていると彼は何か言ったようだったが聞き取れなかった。


きっとこの宰相の事だ。

ろくな事じゃない。



その夜の月明かりはとても綺麗で、風も優しく吹きつけ私たちを包み込んだのだった...


ここまで読んで頂きありがとうございます。

感想などあると嬉しいです。

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