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病弱令嬢、お金に憑りつかれる 3

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 ファビアン・ドリューウェットははじめて届いた婚約者の手紙に、真っ青になってふるふる震えていた。


 婚約者ブリジット・アンブラー。


 ブリジット六歳、ファビアンが八歳の時に婚約した、ファビアンの愛しの婚約者の名前である。


 幼いころに喘息を発症した彼女は、ファビアンが会いに行けばいつもベッドの上にいた。

 ふっくらとした頬にかかる艶やかな黒髪、アマゾナイトを思わせる美しい青緑色の瞳。まるでお人形のように可愛らしい少女だったと、ファビアンは記憶している。


 八歳で領地で暮らすようになってからは、定期的に届けられる絵姿の中でしか知らないけれど、年々、まるで大輪の薔薇が花開くかのように美しく成長するブリジットに、ファビアンはすっかり心奪われていた。

 早く元気にならないだろうか。重篤な状況は脱したそうだが、いつまでたっても快方に向かわないらしいブリジットに、ファビアンは毎日不安だった。このまま儚くなったらどうしよう。いっそ、自分もアンブラー伯爵領に行って、彼女を励ましながら過ごそうか。そんなことばかり考えていた矢先のことだった。


 ブリジットから、手紙が届いた。


 はじめての手紙だ。


 ベッドから起き上がることすらできないブリジットに、ペンを持たせるような苦行を強いてはいけないと、ファビアンは手紙を書きたいのを必死に我慢して我慢し続け早八年。ブリジットから手紙が来たのである。つまり、手紙が書けるほどには、彼女は回復していると言うことだ。


 家令から手紙を受け取ったファビアンは、踊るような足取りで自室へ向かった。

 途中ですれ違った一つ年上の兄が怪訝そうな顔を向けてきたが、気にもならなかった。たぶんあとあと質問攻めにあうと思うけれど、婚約者から可愛らしい手紙が来たのだとのろけてやればいい。ファビアンはるんるんと椅子に座って、ペーパーナイフで封を開けた。

 そして、あまりのショックに目を見開いて凍りつき、何度も読み返しているうちに震えが止まらなくなってしまったと言うわけだ。


「おいファビアン。いったいどうしたんだ?」


 いつまでたっても部屋から出てこない弟を心配して、兄のクレモンが呼びに来た。どうやら手紙を持ったまま動けないでいたファビアンは、何時間もそうしていたらしい。窓の外に夕日が差している。


 ファビアンは振り返りもせず、扉の外のクレモンに「大丈夫」と一言だけ告げて、再度手紙に視線を落とした。

 病弱な令嬢が書いたとは思えないほど流麗な字で、手紙にはこうあった。


『親愛なるファビアン様へ。

 突然のお手紙をお許しください。

 わたくしの喘息は、医師によるとどうやら不治の病だそうです。きっと死ぬまでこのままだろうとお医者様がおっしゃっていました。

 一生ベッドの上ですごすような女を妻に娶ればファビアン様にご迷惑をおかけすることになります。

 ですので、どうぞ、わたくしには構わず、ほかの素敵な女性とご結婚なさってください――』


 手紙を読み返したファビアンは、そのままぱたりとテーブルの上に突っ伏した。

 どう考えてもこれは別れの手紙だった。

 病気の完癒が見込めないブリジットは、ファビアンに迷惑をかけるからと別れを決意したらしいのである。


(そんな……僕は気にしないのに……)


 ブリジットが一生ベッドの上だろうと、彼女に毎日話しかけながら穏やかな一生をすごすつもりだった。

 ファビアンは「僕は気にしないよ」と手紙を書こうとして、手を止める。手紙では伝わらないかもしれない。ブリジットが思いつめたのもきっと、今まで一度も会いに行かなかったからだ。きちんと会ってファビアンの気持ちを伝えなければ。


(僕は君以外考えられない)


 儚く美しいブリジット。ファビアンはそんな彼女と結婚して、一生守ると決めている。

 こうしてはいられない。

 ファビアンは丁寧に手紙を折りたたむと、将来義父になるアンブラー伯爵に、領地の訪問の許可を得るべく部屋を飛び出して行った。


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