ブリジットは恋のキューピッドたりえるか 3
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SS最終話です!
……の、だけど。
(おかしい。計画と違う)
わたしはむーんと唸った。
いや、わたしが計画したハプニングは、きちんと発生していたのだ。工場のみんなも頑張ってくれていた。
ただ、ベラの反応が思っていたのとだいぶ違うのである。
(箱が落ちてきたら自分であっさり受け止めちゃうし、喧嘩をするふりをしていた従業員たちのことも、デイビットが行く前にベラが止めちゃうし、どういうことよ⁉)
デイビットの出番がまるでない。
「こんなはずでは……」
くっ、と唸るわたしの肩を、ファビアン様がぽんぽんと叩く。
「ま、まあ、こういうこともあるよ」
「ベラってば、もうっちょっと『きゃー、こわいー』とか言いなさいよね」
「うん……ブリジット、それはちょっと、無理があるね」
ファビアン様の言う通り、ベラが恋愛小説のヒロインのように「キャー、デイビット、怖い~助けて~」なんて言い出したらわたしもびっくりするけど、このままではわたしの計画がぱぁだ。
「デイビットももっと頑張りなさいよ」
「あれじゃあ無理だよ……」
「ぐぅ……! でも最後のとっておきはまだですからね。相手が暴漢(に扮した従業員)なら、ベラだって怖がるはず!」
「そ、そうだね……」
ファビアン様が困った顔で微笑む。
ファビアン様はもうこの計画がうまくいかないと思っているのだろうが、わたしもこのままでは引き下がれない。
(デイビット、男を見せなさいよ! 今頑張らなくていつ頑張るの! 今日なにも進展しなかったらきっと一生このままよ‼)
そしてあわよくばわたしに金貨の山を提供するのよ‼
ファビアン様はわたしが何を考えているのか薄々気がついているようで、「困ったブリジットだねえ」と肩をすくめている。
「そもそも、ベラはどういうタイプの男性が好みなの?」
「ベラは枯れ専……じゃなかった、年上の頼れる男性が好みなんです。だからこの時点でデイビットはかなり不利なんですけど、頼れる男をアピールすれば少しはベラも意識するはずなんですよたぶん!」
「う、うん……」
「というか人間ほっとけば年を取るんですから、デイビットもそのうちいい感じに枯れてきますよ。若い間ちょっと我慢すればベラの好み変わっていくはずなんで諦めてくれればいいのに」
「それはちょっと無茶があると思うけど、ブリジット……」
「それにベラもそろそろ相手を決めないと、周りから嫁き遅れとか言われちゃったら可哀想じゃないですか。わたしが結婚しなければ、主人に付き合っているっていう言い訳も聞きますけどわたしも結婚しちゃったんで、ベラが後ろ指を差されないように早く相手を見つけてほしんです」
子供のころに両親と別れて領地に療養に来たわたしにとって、ベラはメイドでありながら姉のような存在なのだ。家族なのである。家族には幸せになってもらいたい。
デイビットはお調子者だし、少々ベラの好みとは違うかもしれないが、いいやつだし、クインシア商会は最近潤っているからお金もある。何よりベラのことが大好きだ。今のところ、わたしが知る中でベラを一番幸せにしてくれそうなのはデイビットなのである。
結婚してベラが苦労するような男は論外だし、結婚して子供ができて仕事をやめることになったとしても、わたしが自由に会いに行ける距離が望ましい。
となれば、デイビット以上に条件のいい男はいないのだ。
こそこそと玄関の近くまで行って、ベラとデイビットの様子をうかがう。そろそろ暴漢(に扮した従業員)が現れるはずだ。
そう思ってい待っていると、頑張って怪しい男風に変装した従業員が二人、酒に酔った演技をしながら歩いてきた。
「よーよー、ねーちゃん。べっぴんさんだねー」
「俺たちとあっちの店で飲もうぜー」
「……あのセリフもブリジットが?」
「おばあさまの本に書いてありました」
「そう……」
ファビアン様が何か言いたそうだが、今はそれどころではないのでわたしはベラとデイビットの観察に集中する。
(さあ、頑張るのよデイビット! ここで二人を撃退――)
「何をしていらっしゃるんですか、ラックさん、エドンさん」
(…………ばれてる)
ベラがあきれ顔で暴漢に扮した従業員二人の名前を呼んで、わたしはショックのあまり崩れ落ちそうになった。
わたしが立てた計画、全滅‼
こんなはずではなかったのにと頭を抱えるわたしの肩を、ファビアン様がまたぽんぽんと叩く。
名前を呼ばれたラックさんとエドンさんは気まずそうに互いに顔を見合わせて、「や、酔っていたようで……」とそそくさとその場から逃げ出した。
するとベラはデイビットに向き直り、じろりと睨む。
「これはどういうことですか?」
(こっちもばれてる……!)
ベラに睨まれたデイビットは真っ青になっていた。
これまはずいと、わたしはそーっと逃げ出そうとしたが、その前にベラの声が飛んでくる。
「お嬢様も、そこにいるのはわかっていますよ。さっきからこそこそこちらの様子をうかがっていたでしょう?」
(ぎゃああああああああ‼)
逃亡失敗。
ファビアン様とそーっと玄関から出て行くと、ベラの視線が突き刺さった。
「お嬢様、ファビアン様まで付き合わせて何を考えているんですか?」
「え……っと、これは、その……」
わたしはそのあと、ベラに詰め寄られて計画をすべて暴露させられて、こんこんと説教をくらう羽目になった。
デイビットはデイビットで、しばらくの間ベラに口もきいてもらえなくなり、やつれるほどに落ち込んでしまって、「もう二度とブリジットのお膳立ては受けない!」と宣言されてしまった。
ファビアン様は苦笑して「ブリジットにキューピッドは無理だね」なんて言うし、おばあさまの耳に入って「余計なおせっかいは迷惑になりますよ」と叱られて、もう二度と二人をくっつけようとしないと誓いを立てさせられた。
はあ、ベラとデイビットをくっつけて新商品の宣伝文句にしようなんて考えたから罰が当たってしまったのかしら。
ちなみに、紆余曲折あって、ベラとデイビットはこの数年後に結婚することになるのだけど、もちろんこの時のわたしはそんなこと知る由もなく。
わたしのせいでデイビットの恋路は完全に詰んだかもしれないわねと彼に謝罪して泣いて怒られたのは、あとから考えればいい思い出だろう。
ちゃんちゃん。
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出版社 : スクウェア・エニックス
ISBN-13 : 978-4757592230