ブリジットは恋のキューピッドたりえるか 1
コミックス完結記念SSを書きました。
ブリジット視点でお送りする全3話です。
よろしくお願いいたします。
皆様こんにちは、ブリジットです。
計画していた石鹸工場も順調に稼働し、アンブラー伯爵領はだんだんと潤いはじめました。
わたしも三か月前にファビアン様と結婚式を挙げ、晴れて「人妻」となったわけですが……、自分が幸せの絶頂にいると、どうしても他人にお節介を焼きたくなるというもの。
というか……、ぶっちゃけた本音を言うと、最近平穏すぎて退屈なのよね~。
ファビアン様が超がつくほど有能だから、領地の細々としたことは彼があっという間に片付けちゃうの(注・のろけではありません)。
ファビアン様はわたしに好きなだけ商品開発にいそしんでいいよって言ってくれるんだけど、欲しいものは作りつくして、今のところ「これ!」というものが思い浮かばない。
そろそろ何かガツンと儲かりそうな新商品がほしいところだけど、そう簡単に儲かるものが思いつくのなら人生苦労はない。
だからわたしは、商品開発と言いながら、日がな一日アイディアも浮かばずぼーっとした日々を送っている。
そして人間、退屈が過ぎると、何か余計なことをしたくなってくるものだ。
わたしの場合は、それは――
「ブリジット~! 石鹸工場の今月の収支報告書持って来たぞ」
わたしがぼけーっと机に頬杖をついて窓の外を眺めていると、メイドのベラがクインシア商会の跡取り息子デイビットを連れてきた。
(あらま~、今日もおめかししちゃって)
ぴしっとアイロンのかかったおしゃれな服を着て、髪もきっちり整えているデイビットに、わたしのお節介心がむくむくと膨れ上がる。
そう、暇を持て余したわたしの退屈しのぎ……げふんごほん! えー、お節介の矛先は、何を隠そう、デイビットとベラの恋の行方だった。
デイビットは昔からベラにホの字で(ちょっと古い言い方かしら? なにぶん、おばあさまに育てられたものだからね、ほほほほほ~)、一生懸命アピールしているのだけど、ベラってば渋好みだから若いデイビットはちっとも相手にしてもらえない。
わたしもちょっと前までは人の恋路になんて興味もなかったし、どう見てもベラに相手にされていないデイビットは完全に脈なしだろうから、そのうち現実を知るだろうと放置していた。
でもね……わたしも恋を知っちゃったから。そして人妻だから。ベラにほんの少しでもその気がありそうなら、二人が結ばれたら面白い……げふんごほん! 素敵だな~と思ったのだ。
ついでにわたしのこの退屈が紛らわせればなおいい。
もっと言えば、二人が結ばれたらベラが愛用しているわたしが開発した新商品の香水に「恋の香り」とか適当な銘を打って売り出してやれば儲かるのではないかという打算もある。ほら、片思いの女性とかに売れそうじゃない? 何と言っても、春は恋の季節だもの!
ついつい思考が儲けに走るのはご愛敬。結婚しようがどうしようが、わたしの根本的な性格が変わるわけじゃあないからね。
ってなわけで、何とか二人をくっつけてやろうと考えているんだけど、ベラってば鉄壁の防御でなかなか隙がない。
デイビットから報告書を受け取り、今月の儲けによだれが出そうになったわたしは慌てて口元を拭うと、ベラににっこり微笑みかけた。
「ベラ、お願いがあるんだけど、来週の石鹸工場の視察、わたしの代わりに行ってきてくれない? デイビットと一緒に」
すると、デイビットがわかりやすく顔を輝かせて、反対にベラは嫌そうに眉をひそめた。
「どうしてですか?」
「ほら、わたし忙しいじゃない?」
「暇そうですが」
「忙しいのよ!」
本当は超暇だが、ここは無理やりにでも忙しいと押し通す。
「いろいろすることがあるのよ。何と言っても、人妻だし?」
「人妻は何も関係ないと思いますけど……」
「出張ボーナスを出すわ」
「行きましょう」
お金で釣られるあたり、ベラもわたしほどではないけどお金が好きよね~と思う。本人に言えば「一緒にしないでください」と言われるのがオチだから言わないけどね。
デイビットがいい笑顔で、こっそり親指を立てている。
(お膳立てしてあげたんだから、少しくらい距離を縮めなさいよね!)
という気持ちを込めて、わたしもこっそり親指を立てておいた。
「じゃあ、視察で見てきてほしいところはリストアップしておくから、よろしくね、ベラ!」
よし、これで仕込みはばっちりだ。
わたしはベラに気づかれないように、ぷくくくとほくそ笑んだ。