ファビアンの猛攻 3
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本日二回目の更新です!
クインシア商会の商会長ドルフとその息子デイビットが、約束の時間の昼すぎにやってきた。
サロンとは名ばかりの殺風景な部屋に二人を通して、ブリジットは石鹸工場の計画書を二人に見せる。
ブリジットの隣にはファビアンが座っているが、石鹸工場についてはブリジットが計画してきたことなので口は出さないと言う。
ドルフは計画書を呼んだあとで、顔をあげた。
「ひとつ訂正のお願いをしてもよろしいですか?」
「なんでしょう」
「こちらにある出資の件ですが、アンブラー伯爵家からだけでなく、我がクインシア商会からもお出しさせていただきたいのですが」
「でも……工場の管理などすべて一任する形になってしまうので、これ以上の負担は……」
ブリジットはちらりとデイビットを見た。
デイビットは苦笑して言った。
「ブリジット。違うよ。負担じゃない。これだけの規模の工場を作ってその管理を任せてくれるんだろう? ここにある通り、うちの商会への利益も相当なものになる。むしろこれは、こちらから関わらせてほしいと頭を下げて頼むようなものだ。それなのに工場にかかる初期投資まですべてお前んとこにお願いしていたら、今よりも石鹸需要が上がって、ほかの商会が絡んでき始めたときに付け込まれる隙になるんだ。だから、この件は、うちも金を出して伯爵家と合同で進めてきた案件なんだと言う証拠がほしい」
「デイビット、口のきき方に気をつけろ」
「ということです、お嬢様」
ドルフからたしなめられて、デイビットが片眼をつむって一言つけ加える。
ブリジットはぷっと吹き出した。
「そう言うことなら、こちらとしては異論はないわ。むしろ助かるくらいだし」
最終的に、石鹸工場の初期投資費はアンブラー伯爵家とクインシア商会で折半するという形で落ち着いた。今後は経営利益から追加の投資分を捻出する予定だ。
続いて、ほかの商会に卸すときの石鹸の販売価格を決め、年間生産目標に微調整を加える。工場に使う土地はすでに目星をつけており、デイビットに頼んで下見に行ってもらっていた。概ね問題ないそうだ。あとは従業員の雇用だが、こちらも、ブリジットの時短勤務の雇用枠や託児所を工場内に作るという案も問題なく通った。従業員の採用は、初回雇用分は工場を建設する町の住人に絞る予定だが、工場が軌道に乗ってきたら、希望者がいればほかの町からも採用する予定だ。状況によってはほかの町にも工場を建設してもいいかもしれない。
(レモンしかなかった領地の新しい特産物になるといいな)
石鹸の話し合いが終わると、ついでとばかりに、かねてから進めていた化粧水の話もはじめる。こちらはデイビットとの約束でクインシア商会に独占販売権を渡す予定のものだ。改良した試作品も問題なかったようなので、できるだけ早く販売をはじめて反応を見たい。
デイビットに訊けば、すぐにでも販売できる準備は整えてくれているそうだ。石鹸工場で味を占めたデイビットは、化粧水も軌道に乗れば専用の工場がほしいな、などと言い出している。
「そう言えば石鹸工場の建設が終わるまではどうするつもりなんだ?」
デイビットが思い出したように言った。
今まではクインシア商会が保有している倉庫の一部を使って石鹸を作っていたのだが、王女から定期購入の正式注文が入ったので、初回納入とその次分は在庫があるけれど、このままの生産速度であれば間に合わないらしい。工場の建設も急いだところで三か月はかかるから、王女の注文に加えて他からの注文が入ったら、それまでに在庫が底をつく恐れがあるのだとか。
(商人って行動が早いから、噂を聞きつけて買い付けにやってくる人もいると思うし……)
倉庫での生産だけでは間に合わない。ここはどこか空き家を借りて、生産量を増やした方がいいだろう。
クインシア商会が初期投資分を半額持ってくれることになったので、幸い手持ちがある。工場ができるまでどこか借りようと考えたとき、ファビアンが思い出したように言った。
「工場ができる数か月の間だけ、どこかで石鹸が作れればいいんだよね? それなら、ここの離れはどうかな」
「離れ?」
離れ、となんだか素敵な響きのする言葉で言われたからピンとこなかったが、言われてみれば、邸のだだっ広い庭の隅っこの方に、二階建ての小ぢんまりとした家があったのを思い出した。誰も使っていないから物置小屋のような扱いを受けているが、ずっと昔――それこそ、他界した祖父の父が健在だったころに、祖父の弟のために建設した家らしかった。祖父の弟は四十を前に亡くなったそうで、妻との間に子供もいなかったので、彼の妻が亡くなってからはそのまま放置されていたらしい。
なるほど、あの離れなら誰も使っていないし、ちょうどいいかもしれない。第一、家を借りるお金を払わなくてすむ。
ブリジットはすぐに食いついた。
「あの家の中を片づけて、あそこを仮の石鹸工場にしましょう」
場所が確保できれば、工場の完成を待たずして従業員の採用に移れる。一度に大勢を教えるのは大変だから、予定している雇用人数の三分の一だけでも先に採用して、手順を教えてしまいたい。
求人募集は、クインシア商会がかけてくれるらしい。働きたいと言っていたベラの姉経由で、ご近所の奥様方に口コミも広がったらしく、ベラの姉の知り合いだけでも数人はいると言うから、すぐに集まるはずだ。
(ようやく貧乏領地脱却の第一歩ね!)
これを足掛かりに、一気にお金持ち領地へと躍進するのだ。
ブリジットは山積みの金貨を想像して、うっとりした。
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