婚約2年目 プロローグ
2年目が始まります。ジェスターは14歳、エリゼーヌは13歳になります。
「ジェスター、婚約おめでとう」
「うん、ありがとう」
友人からの淡々とした祝辞にジェスターもあっさりと答えた。お茶を口にしていたジルベールとレナルドが盛大にふきだす。
「ちょっと待て! いつの間に・・・」
「そうですよ! 聞いてないですよ」
「えー、前に言ったじゃないか」
不思議そうにジェスターが応じると、アルマンは呆れた眼差しで友人たちにハンカチを差しだした。例のごとく、魔力制御の訓練の日だ。
休憩中のお茶を用意してくれた侍女がすすっと近づいて、さり気なく濡れたテーブルを拭いたり、新しいお茶と交換してくれた。
ジルベールがごほんと咳でごまかしてから問い詰めてきた。
「前にって・・・。あれか、一年近く前のことじゃないか。あの後、何も言ってこないから、どうなったかと思っていたら・・・」
「確か、お相手が王都に来る用事がないとか言ってましたよね。手続きは終わったのですか?」
「とっくに済んでるよ」
「だから、いつだ?」
「どうして、教えてくれないんですか?」
ジェスターは友人二人に詰めよられて首を傾げた。
『ルクレール侯爵のお気に入り』の噂が流れてからだから、ほぼ一年になる。
それを聞くと、友人二人は拗ねてしまった。そして、表情の変わらないもう一人の友人に白羽の矢がたった。
「なんで、アルマンには教えてるんだ?」
「前もそうでしたよね?」
「だから、そうではないと・・・」
アルマンは困ったように眉をしかめるが、親しい間柄でなければわからないほど微妙な変化だ。親しい人間以外には無口な少年はあまり大きく表情が乱れることはない。
「ヴィオがエリゼーヌ嬢と文通しているから」
ああ、と納得したジルベールとレナルドは顔を見あわせた。アルマンの婚約者とジェスターの婚約者は友人同士だった。
「婚約お披露目のパーティーはしないんですか?」
「ええ、なんでそんな面倒くさいこと・・・」
「社交嫌いのルクレール家には困ったものだな」
ジルベールが嘆息した。
高位貴族はお披露目で家の繋がりを誇示するものだが、貴重な魔術書多数を保持するルクレール家は押しかける閲覧希望者が鬱陶しくて社交嫌いになったのだ。
「シャルリエ家は確か夫人が病弱な方で、社交界にはでないのでしたね」
「だからか」
レナルドの貴族情報にジルベールが頷く。ジェスターは軽く肩をすくめた。
社交界にはシャルリエ家は病弱な夫人の治療で忙しく、娘が領地の祖父のもとで育てられることになったと話を流してある。事実は色々と問題を起こす夫人を軟禁状態にしてエリゼーヌと引き離しているのだが、いくら友人にでも教えるつもりはない。
「無社交と社交嫌いか。ある意味お似合いといえば、そうだけど・・・」
「まあ、当人たちが納得しているなら、いいんじゃないですか」
宰相家に婿入りして臣下降籍が決まっているジルベールは不満げに唸る。
「レティと友人になってもらえれば、と思ったのだけどな」
「・・・」
「公爵家と子爵家じゃ、差がありすぎますね」
レティとはジルベールの婚約者のレティシア・アルシェ公爵令嬢だ。
アルシェ家では不幸続きで分家筋が絶えてしまい、何か呪いでもかけられているのでは? と社交界では遠巻きにされがちだった。そのため、一人娘のレティシアには友人が少ない。ジルベールは婚約者を気遣ったのだろうが・・・。
ジェスターが無関心を装っていると、レナルドが勝手に答えてくれた。ジェスターは気取られないようにそっと息を吐いた。
ただでさえ、子爵家の婚約者は侯爵家との婚約で妬まれやすいのだから、公爵令嬢と友人とかは勘弁してほしい。相手がアルシェ家では公爵令嬢と親しいメリットよりも、呪いで遠巻きにされるデメリットにプラスして妬み嫉みのほうが大きくなりそうだ。
「まあ、学院に入れば会えるし、いずれ顔をあわせる機会もあると思うぞ」
アルマンが無難に話をまとめてくれて、ジェスターはほっとした。




