自業自得なんて・・・
ユベールのお話です。今回は短めで、ユベールのざまぁというか、退場回ですね。
ユベールは茫然自失状態で馬車に揺られていた。
式の翌日の早朝には父と一緒に乗せられて、辺境伯に世話になった挨拶と身の回りの整理に赴くと言われた。辺境伯のところに到着するまでに身の振り方、婚姻か養子のどちらかを選ばなければ平民となるしか道はなかった。
父はずっと無言で持ち込んだ書類に目を通している。息子に非情な選択を強いているのに、気にも留めていないようだ。3年も辺境に預けておいて、挙句にこの仕打ちはいくらなんでもないだろうと、ユベールはだんだんと腹がたってきた。
「・・・父上、何故跡取りを姉上に決めたのです。当主が騎士になってる貴族はいるでしょう。俺が騎士になっても、当主になるのにおかしくないはず」
「我が家は別荘地を訪れる高位貴族と交流をしている。領主不在で家宰や妻だけに任せっぱなしにするわけにはいかない。だが、お前は領主よりも騎士を選んだ。だからだろう、自業自得だ」
「高位貴族のご機嫌取りなんて、領主の仕事ではないでしょう?」
「・・・まさか、理解してなかったのか?」
ここで初めて父は顔をあげて息子と目をあわせた。その目には侮蔑の光が宿っていて、ユベールは内心で怯んだ。
はあっと深く息を吐いて、伯爵は目頭を揉みほぐした。
「ただの交流じゃない。我が領地で育てた芸術家の作品を紹介して、購入やパトロンになってもらうための重要な社交だ。領地の売り込み業務だぞ?
領主でなければ、高位貴族とは渡りあえない。お前は幼い頃から何を目にしていた。私や先代がただおもてなしで遊んでいるとでも思っていたのか?
お前にはつくづく失望させられる。自領に関心を持たず、身分をカサに下位を貶めて悦にいる。おまけに王家と縁続きだなどと、大昔を引き合いにだして、自身だけではなくミルボー家そのものを破滅させる気か・・・」
「な、まさか、そんな!」
「お前のしたことはそういう事だ」
伯爵は疲れたように吐き捨てた。
狂乱王以降、実力主義を取り入れた王国では、爵位がもたらす利益をただ享受するだけなんて甘い、甘すぎる思考だった。高位であればあるほど、下位からの追いあげを警戒して勤勉に励んでいる。それを理解せずに、ただ身分を振りかざすしかない能なしなど害悪でしかない。
ユベールは父から害虫とはっきり切り捨てられて絶句した。
誰もそんなことは教えてくれなかった、と呟くと、歴史で何を教わったのか、と反論を許さない声がかかる。
「貴族としての道はお前が自分でことごとく潰したのだ。お前は貴族には向かない。せめて、食いはぐれない先を婚姻相手に選んだのに、気に入らなければ好きにしろ」
伯爵はもう息子を見ようとはせずに、再び書類に目を通し始めた。
見捨てられたユベールは再び呆然自失状態で何も言えなくなった。
ユベールは幼い頃から物語の騎士に憧れていた。
騎士になって王族警護の近衛隊に入れば、騎士の中でも特に花形職だ。物語では王族に忠誠を誓って大活躍し、王女の嫁ぎ先に見初められたり、王子に頼りにされて一の騎士と誉れを承ったりと高名な騎士として後世にまで名を残すなど華やかさばかり描かれていた。
さすがに現実はもうわかっている。
物語通りなどと思ってはいないが、近衛隊に入るほどの騎士になれば引くてあまたになるはずだった。継ぐ爵位のない貴族子息が騎士を目指すのは普通のことなのに、自国では最早無理だろうと言われて、ユベールは人生設計が音高く崩れていくのを感じた。
単に気に入らない従姉妹を貶めてやる、と企んだだけだったのに、手段を問わないやり方が高位貴族にケンカを売る真似だったと義兄に諭された。侯爵家出身の義兄は実家でさえ、取り持つ気はなかった。
『懲りずに同じ轍を踏む愚か者には関わり合いになりたくはないが、一応身内だし?』としかたなさそうに言われてしまった。
義兄は遠縁の養子先を提案してくれたが、詳しく聞けば爵位返上予定の没落寸前の貧乏男爵家だ。もし、ユベールが養子になっても爵位返上は変わらず、ユベールの継ぐ爵位はない。
騎士を目指すならば、爵位なんか関係ないだろう? と、のたまわった義兄は他国出身の者が騎士になることがあっても、近衛隊に取り立てられるのは相当強力なコネがあるか、一流の腕前でなければ無理だと言い切った。
近衛隊は王族警護が主な仕事だ。王家への忠誠にわずかでも疑いがある人物が推挙されることはない、と言われて、ユベールは目を逸らした。
王家への忠誠心あふれる人柄なら、王家と祖が同じなどと口走ったりはしない。下手をすれば、反逆を企んでいるのかと問われてもおかしくない発言だと義兄につっこまれて、ユベールには何も言えなかった。本人にそんなつもりはなくても、他者からどう見られるかが大事と言われてしまえば返す言葉もない。
縁切りされてまで他国で騎士を目指しても、もしも採用されなかったら、平民となるしかないのだ。いずれにせよ、平民落ちしか選択肢がない未来をユベールはしばし受け入れられなかった。
ユベールの今後について。本編ではもうでてこないので、補足します。
ユベールは絶縁されてまで他国で騎士になる根性がなかったので、婚姻を選びました。バルバラはエリゼーヌの一つ下、ユベールとは3歳違い。バルバラ自身は子爵家より伯爵家のほうが家格は上だからと納得してます。
一方、ユベールは学院内で新たなお相手を見つけてと婿入りを画策しますが、フランシスが教員時代の人脈使って売約済みとふれまわっているので、あえなく撃沈。
翌年にはジェスターが入学してきて生徒会入りします。
一年生でもう二年生の裏ボスを陰から操り、実質裏ボスです。ユベールは何かやらかす前に裏ボスから睨まれてガクブルな学生生活を送るしかありませんでした。大人しく、男爵家にドナドナされます。




