遠い親戚はキレ者のようです
前回と同日、イレーヌの結婚式の夜のことです。
その晩、ジェスターは就寝前にフランシスの訪問を受けた。
こんな時間にすまない、と前置きされたフランシスの話は昼間の件絡みのユベールの処遇だった。
「バルバラ・ビヤール嬢と婚姻か、隣国へ養子にでて絶縁のどちらか、ですか・・・」
怒涛の展開というか、予想外すぎるユベールの行く末に、ジェスターは鳶色の瞳を丸くする。
「ああ、騎士になりたいと言われても、この国では無理だ。何しろ、我が実家にオベール公爵家に辺境伯に、と高位貴族にケンカ売りまくるとか、阿呆としか言いようがない。
もちろん、君のルクレール侯爵家も入ってるね。本人はよくわかってなかったから、懇切丁寧にじっくりはっきりと理解させてあげたよ」
温和な笑みのフランシスからひんやりとするモノを感じて、穏やかそうに見えても、やはり侯爵家の出身だな、と実感する。
オベール公爵はフランシスの伯父で法律の専門家の家系だ。犯罪被害者の秘匿性を実現させる法案の発案者で、ユベールが守秘義務を無視してバラした件はこの法の瑕疵になる。法の抜け道が早めにわかってよかったなどとは言えなかった。まだ、この法は施行されたばかりで下手をすると、撤回させようとする動きがあるのだ。
フランシスの実家のドナシアン侯爵家や辺境伯も法の実現に尽力したのに、一人の大馬鹿な騎士見習いのせいでおじゃんになるとか許せるはずもない。
「イレーヌの弟でさえなければ・・・、と思ったよ。さすがに、新婚で泣かせたくないからねえ」
のんびりとした口調で言われたが、意味するところは、できたら口封じしたかっただろう。ユベールが反省や後悔で口をつぐむ可能性よりもその方が安心安全確実だ。
ジェスターは報復の先手を打たれて面白くなかったが、身内がしっかりと管理するというならば、彼が手をだすのは過剰報復になるだろう。イレーヌが悲しむとエリゼーヌが気にすると思えば、ここはフランシスに譲るのが得策だ。
「でね、どうしても騎士になりたいなら、遠縁の隣国の貴族を紹介するから、そちらで養子になって目指せと言ったら、ユベール君はなんで縁切りされるのかわかってなかったんだよねえ」
「え、嘘・・・、ではなさそうですね?」
「ははは、本当だよ」
ジェスターは乾いた笑いを浮かべるフランシスが気の毒になってきた。
国に忠誠を誓う騎士になるのだから、隣国で騎士になるなら他国との絆なんか枷でしかない。年下のジェスターでさえ、理解できる理屈が何故わからないのか謎である。
跡取りから外れ、婿入りも無理、文官も騎士も望めない、となれば、貴族としての道はない。平民になって商人なり、兵士なりになる手もあるが、ユベールのような輩を野放図にするのは何をやらかすか危険だ。しかし、さすがに妻の実弟を後腐れなく・・・にはできなくて、苦肉の策だとフランシスは苦笑いだ。
「ビヤール男爵って酒作りの腕は一流なんだけど、職人気質っていうのか、貴族には向かない御仁でね。
娘夫婦が亡くなって、引き取った孫のうち、弟のほうは賢くて文官でやっていけそうなんだ。ただ、姉がねえ」
昼間のアレを思い浮かべて、貴族の奥方は無理だろうと、ジェスターは同意の頷きを返した。
「男爵家は弟に継がせて、姉に婿をとらせて男爵の酒作りを継承させたほうがよいと、ボワロー家も思案していたところだったんだよ。それをどう解釈したのか、ボワロー家長男の婚約者候補とか、面白い思考のお嬢さんだよねえ」
温和な笑みだが、目には光のないフランシスがふふっと笑みをこぼす。
「酒作りって体力勝負だから、ユベールにはちょうどよいよねえ、体力しか取り柄がないんだから。
ああ、容姿も自信があったみたいだったなあ。なんでも、王家と同じ金髪碧眼だとか、祖を辿れば同じだとか・・・」
「・・・それ、聞かなかった事にしますね」
ジェスターは顔がひきつりそうになるのを堪えて穏やかに告げた。王家への不敬と取られかねない発言だ。面倒くさい事に巻き込まれたくはない。
フランシスはにこやかな笑みのままだ。
「うん、やはり、君は賢いねえ。君が義弟になるんだったら、よかったのに。
でも、イレーヌはエリゼーヌ嬢を妹のように可愛がってるし、エリゼーヌ嬢もイレーヌが大好きだよね。親戚として仲良くしたいな、君とは」
「・・・こちらこそ、よろしくお願いします。遠い親戚として」
ジェスターは軽く牽制をかましたが、目の前の男はモノともしない笑顔だ。
「まあ、彼がどちらの道を選ぶにしても、もう君たちには関わらせないから安心していいよ。これを呑んでくれるなら、君に進呈したい物があるのだけど・・・」
フランシスはジェスターからの報復回避の手土産を持参していた。観光客向けの教会近辺の見どころマップだ。お勧めの店は今からでも予約で貸し切りにできると注釈つきで至れり尽くせりである。
ジェスターたちは明日一日は領都の観光を楽しんで、明後日に帰宅予定だった。次期領主の結婚式見物にいつもより観光客が多かったから、式が終わるまでは警備の問題で観光を禁止されていた。教会も式の一週間前から警備や式場準備の関係で一般客立ち入り禁止で、開放されていなかった。
エリゼーヌが張り切って案内役を買ってでていたが、彼女は3年前のユベールとの確執以来、この地を訪れていない。彼女の知識は少々古くなっていた。
「やっぱり、エスコートされるよりもするほうがいいよね? それから、ミルボー家の御用達の宝飾店で質の良いオニキスを仮押さえしていてね、よかったら譲るけど。いかがかな?」
フランシスは穏やかな笑みなのに、飄々としたつかみどころのなさを感じて、ジェスターは眉をひそめた。
婚約者に自分の髪や瞳の色の装飾品を贈るのは婚約者との交流の基本だ。愛する相手に自らの色を纏わせて虫除けにするのだ。
ジェスターはなかなか気にいる黒や茶系の宝石が手に入らなくて、まだエリゼーヌに装飾品を贈ったことはなかった。ディオンが友人の伝手で黒真珠を手に入れてくれたから、今年の誕生日プレゼントに黒真珠のブローチを贈るつもりで用意済みだ。
でも、できれば石も自分で見つけたいと探している最中だった。一体、どこでその情報を手に入れたのか。
人畜無害そうな温和な人物かと思いきや、意外とキレ者だな、とジェスターはフランシスの印象を軌道修正した。
「・・・実物を拝見させていただいても?」
「ああ、店に連絡しておくから、可愛い婚約者と見にいくといい。サプライズもいいけど、一緒に選ぶほうが女性は喜ぶよ? それと、彼女の勇姿も特別サービスで教えてあげよう」
「・・・勇姿?」
エリゼーヌには到底似つかわしくない形容に首を傾げる少年に遠い親戚は楽しげに教えてくれたのだった。
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予告していた短編ですが、予約投稿ミスりまして、予定時刻より遅い投稿になりました。申し訳ありません。
ご興味のある方はご覧になってくださると光栄です。
婚約破棄を題材にしてますが、ハッピーエンドのお話です。重い執着男でてきますが、女性が受けとめられるならOKだよね、ということで。
『カクカクの棒読みで『シンジツのアイ』と言われても・・・』
https://ncode.syosetu.com/n4614hs/
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