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婚約破棄と解消と保留、そしてする予定はありませんけど?  作者: みのみさ
第三部 婚約しましたが、何か?

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      結婚式では様々な出会いがあります

長いですが、キリよくないので、そのまま続けます。

 翌日は朝から快晴で、イレーヌの結婚式を天が祝福しているかのようだ。

 支度を終えたエリゼーヌは姿見の前でくるりと一回転した。

 若草色のドレスはライトグレーとサクラ色を差し色にしていて、小粒の真珠を裾や袖口に縫いつけてある。動きに合わせてキラキラと漣のように光って綺麗だった。

 ディオンが王都の御用達店に作らせたドレスで婚約祝いの贈り物だ。ジェスターが持参してくれたが、エリゼーヌのためのドレスなんて初めてだった。

 普段、エリゼーヌが身につけているのは、母マドレーヌの少女時代のお下がりだ。

 マドレーヌは遠出できるほど身体が丈夫でなかったから、いつも自家に友人を招いていた。いつ誰が訪ねてきても対応できるようにと、普段着や外出着に茶会用の衣装までと一通り揃えていた。よく体調を崩しては寝込むので、大半は一度も袖を通すことなくしまわれていた物だ。ミルボー家は伯爵家の中でも裕福だったからお下がりといっても、上質なものばかりだった。

 マドレーヌの趣味でデザインが少女趣味の物が多いが、過剰なレースやリボンの飾りを減らしてフリル部分もとりされば品のよいクラシックなドレスで通る。乳母がいた頃から、身内にお針子がいる侍女が特別価格で安くリメイクしてくれていた。

 若草色のドレスは初めてエリゼーヌにあわせてデザインされた物だ。差し色に彼女の瞳のライトグレーを用いて大人びた印象にしたが、サクラ色で可愛いらしさも演出している。

 このサクラ色はジェスターが友人から色見本にもらった生地を用いていた。行商人が東方の島国から仕入れ予定の品でこの国に出回るのは数カ月後だ。流行の最先端の彩りを先取りしていた。


 ジェスターが婚約者のためにデザインに提案したと聞いて、少女は少々浮かれていた。


 装飾品はディオンにもらった真珠の髪飾りと祖母の物だった真珠のネックレスで、エリゼーヌはなんだか大人になったような気がした。祖父は祖母の物だった装飾品は全てエリゼーヌに譲るから好きにしていいと宝石箱ごとくれた。もっと今風のデザインにリメイクしても構わないと言われたが、フォーマルな真珠は昨今でも十分通用する。

 クロエに軽くお化粧もしてもらって、鏡に映る少女はなんだか自分ではないみたいだ。

「エリゼーヌ様、ジェスター様がお越しになりました」

 エリゼーヌはクロエの言葉に改めて鏡を見て全身をチェックした。後ろ姿も確認しておかしなところはないかと点検する。

「ねえ、クロエ。変なところはない? わたし、大丈夫かな?」

「とてもお綺麗ですよ」

 ホッとする主を微笑ましく見守って、クロエはエスコートしにきたジェスターを部屋に通した。


 少年はライトグレーが基調の衣装で差し色に若草色を使っていた。タイピンと袖口のカフスボタンに真珠をあしらっていて若草色のドレスより装飾は控えめだが、対になるデザインだった。

「わあ、ジェス、素敵。格好いい」

「・・・そう言うこと、先に言う?」

 思わず溢れたといった婚約者からの賛辞にジェスターは片手で顔を覆った。

 エリゼーヌには媚びがない。素直に心から漏れた言葉だとわかるから、いつものようにポーカーフェイスではいられなかった。照れくさくて顔をあげられない少年に、少女は首を傾げる。

「ねえ、『格好いい』は褒め言葉になるでしょう?」

 以前、『男に向かって可愛いは褒め言葉じゃない』と言われたことがあるから、クロエに確認の視線を向けると軽く首肯された。


「ジェスはもともと素敵だけど、正装するとさらにカッコ良さがでてくるね」

「・・・そういうエリィも、・・・その、キレイ、だ」

「ありがとう。クロエが綺麗にお化粧してくれたの。すごいでしょう?」

にこにこと応じる少女は侍女の化粧技術が素晴らしい意味での綺麗だと思っていた。これまでの褒め言葉は可愛いばかりだったし、誉められ慣れてないのだ。自分が綺麗だと誉められているとは気づいていなかった。それを察したお付きのクロエが軽く咳払いしてジェスターの注意をひいた。

 目線が少女に向かい、くいっと顎をしゃくられる。もっときちんと褒めろ、と言う意味だと気づいて、ジェスターはむすっとした。今、そうしようと思ったのに、先に促されるとか癪にさわる。

 無言の攻防を交わす婚約者と侍女にエリゼーヌはきょとんとしている。


「エリィ、手をだして」

「なあに?」

 ジェスターがエリゼーヌの手をとり、お洒落な香水瓶をのせた。

「どうしたの、これ?」

「ん、バシェで買った。エリィにプレゼントしようと思って。前に林檎の花が好きだって言ってたよね? 

 これはね、林檎の花の香水なんだ」

 植物園に行った時の話だった。観賞用ではないが、ほのかに甘い香りのする林檎の花が好きだとエリゼーヌは話していた。

「あまり強くない香りだから、いつもつけられるかと思って」

「本当?」

 エリゼーヌは早速つけてみることにした。淑女教育で香水のつけ方は教わったが、使ったことはない。ワクワクして手首に一滴垂らすと両手首をこすりつける。ほのかに甘く爽やかな香りが広がった。


「わあ、いい匂い。本当に林檎みたい」

「気に入ってくれた? 僕もお揃いでつけようと思って」

「本当? ジェスとお揃いなんて嬉しい」

 エリゼーヌははにかんだ笑みを浮かべた。

 以前、隣の領地の男爵令嬢と仲良しになってお揃いのルビーのブレスレットをもらったのに母が勝手に送り返してしまった。男爵令嬢との縁も切れてしまって、それからは誰かとお揃いなんて仲良しの証は無理だと思っていた。

 ジェスターはこれまでエリゼーヌが失ってきた縁や繋がりを彷彿とさせてくれる。少女はもう二度と失わないようにと、強く願った。


 イレーヌは純白の花嫁衣装に身を包んでいた。

 二度目の挙式なんだから白以外のドレスでもよかったのだが、祖母の懇願らしい。王都の式では夫の侯爵家が用意したドレスだったから、領地のお披露目ではミルボー家で仕立てたドレスを着て欲しかったようだ。


「イレーヌねえ様、綺麗。まるで、女神様みたい」

「白はエリィにもよく似合うよ。君のガーネットのような髪がよく映える」

 エリゼーヌがうっとりと呟いた独り言に隣から囁きが返ってきた。耳元でそっと息を吹きかけるように言葉を紡がれて、危うく式の最中で変な声をあげそうになった。辛うじて堪えて恨みがましく睨みつけると、隣の婚約者様は楽しげに笑みをもらす。

 結婚式は女神教の教会で行われた。

 ミルボー領が発祥地の女神教をミルボー家では副神として信奉していた。ウェルボーン王国は多神教で、大陸中で信仰され神殿が主教にしている全能神の他にも副神を崇めている。エリゼーヌも幼い頃から慣れ親しんでいる女神教の信徒だ。

 女神は黒髪の女性の姿をしているから、まさしく着飾っている黒髪のイレーヌは女神様のようだった。


 挙式後は教会前の大広場で新郎新婦がファーストダンスを披露した。次に縁者が踊って後は招待客や祝い客で好きなようにダンスや歓談を楽しむ。

 エリゼーヌはもちろんジェスターとダンスしたが、ユベールは死んだ魚のような目をして母親と踊っていた。本当は相手のいない者同士でアンジェリクと踊るはずだったが、彼女は体調不良で欠席していた。

 エリゼーヌは昨日まで元気そう、と言うか元気いっぱいだったよね? と不思議に思っていたが、ジェスターは昨日のやらかしのお仕置きだろうと見当をつけた。

 ベルトン夫人からお詫びにと、実家のセギュール商会のお得意様限定の特別会員権を贈られた。エリゼーヌとジェスターの両方にだ。これがあると、お忍びの来店で予約してなくても貴族待遇がすぐに受けられるそうだ。デートでもお友達と訪れるのでもご自由に、と勧められて、さすがにやり手と評判の夫人だと感心させられた。

 ベルトン家が王都ではなく領地の式に参加したのはアンジェリクの婚約者候補を見繕うつもりだったはずだ。欠席させたのは婚約打診の前にアンジェリクが口を滑らせて何かトラブルを起こされるよりも今回は見送りにしたほうがよい、と母親のベルトン子爵夫人が判断したのだろう。

 招待客のボワロー子爵家では長男が、ティボー伯爵家では次男に婚約者がいなくて年も近い。

 エリゼーヌのエスコートを打診してきたファブリスからの情報だ。さすがに王都以外の貴族の情報までは侯爵家でも簡単には手に入らない。ファブリスからの情報はありがたかった。


 教会に隣接する庭園でガーデンパーティー形式の披露宴である。

 大広場で踊り疲れた客はこちらに移って飲食や歓談してもいいし、逆に庭園から踊りに行ってもよしと自由度の高い形式だった。その中をジェスターにエスコートされて侍女に伴われたエリゼーヌが挨拶周りを開始した。

 籠を持った伯爵家の侍女が付き添って挨拶相手を教えてくれる。

 エリゼーヌたちが配るミニブーケにはメッセージカードがついていてイレーヌ夫妻への招待状のようなものだ。芸術家を育成しているミルボー家は多くの芸術家も招待したが、天才肌ゆえか変わり者が多い。急に作品のインスピレーションが湧いたとかで途中退場したりする者がいるらしい。これまでの事例から、イレーヌたちだけでは手が足りないと予測がついた。

 親族が手伝って新婚夫婦が挨拶したい相手にはミニブーケを配り、交流を図りやすくしていた。客はカードにお祝いの言葉や後日改めて訪問したい旨などを記入して新婚夫婦に渡すのだ。

 先代が孫娘へのお祝いに作曲した曲を楽団が奏でる中、伯爵夫妻も社交に精をだしていた。先代夫妻は主に楽団の指揮をとったり、一緒に演奏したりと裏方に力を入れている。ユベールも最古参で頭のあがらない侍女に付き添われて、というよりも監視されながらの挨拶周りで顔見知りと出会った。

 ボワロー子爵家のエミールとティボー伯爵家のジャンだ。


「やあ、久しぶり。修行中って聞いたけど、姉上の結婚式だから帰ってきたのか」

「なんか、がっしりとしてきたな?」

 エミールはユベールより二つ下で、ジャンは同い年だ。昔から、親の行き来にくっついて交流してきた幼馴染だった。

「ユベールの従姉妹ってまだ婚約者いないって聞いてたけど?」

 ジャンの視線の先にいるのはジェスターにエスコートされたエリゼーヌだ。

「ついこの前、婚約したらしい。相手はルクレール侯爵家の嫡男だ」

「えー、侯爵家じゃ割りこめないな。残念」

「もう一人は? 夫人が商家の出って聞いたけど?」

 エミールはアンジェリクに興味があったようだが、欠席と聞いて軽く肩をすくめた。

「夫人はなかなかのやり手だし、実家は新興で勢いのあるセギュール商会って聞いたから、期待してたんだけどなあ」

 やっぱり、領内から選ぼうとエミールは呟いた。それに対してジャンのほうは諦めがつかないようだ。

「ユベールの従姉妹の友人関係とか、紹介してくれそうな縁はないか?」

「そんなに焦らなくてもいいだろ? 学院に入ってから探しても・・・」

「呑気だなあ。令嬢やツテのない下位貴族はそうでもいいけどさ。ユベールの場合、姉上が当主になったら、独立しなきゃだろ? 

 騎士になるにしても、怪我や病気で身体が動かなくなったらおしまいじゃないか。婿入り先があるなら、そのほうが爵位は安泰だ。ちゃんと先のことまで考えたほうがいいよ?」

 年下のエミールに言われて、ユベールは憮然となった。昨夜、従姉妹に『いつまでも伯爵令息ではいられない』と忠告されたのが脳内に蘇ってくる。

 それぐらいわざわざ言われなくてもわかっていた。だから、騎士になって近衛隊に入ろうと志願していたのに、騎士になる時点で躓くとか、幸先は良くなかった。

 思わず、渋面になるユベールにお構いなしでエミールとジャンは伴侶希望の意見を交わし、ユベールを振り返った。

「従姉妹は諦めたけど、紹介はしてくれよ。友人関係を狙うから」

「僕も顔つなぎくらいしたいな、侯爵家と縁ができる」


 ユベールは気が進まなかったが、友人たちにせっつかれてエリゼーヌを紹介することにした。

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