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婚約破棄と解消と保留、そしてする予定はありませんけど?  作者: みのみさ
第三部 婚約しましたが、何か?

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      波乱の顔合わせでした

 ユベールは夕食時に改めて招待客と挨拶を交わしたが、初対面なのは義兄のフランシスとその両親、エリゼーヌの婚約者のジェスターだ。

 フランシスは温和な笑みのごく平凡な容姿で両親とも温厚そうな人柄だった。対称的に素っ気ないのがジェスターだ。礼儀作法は完璧だが、温度のない笑みで明らかに社交辞令とわかる。

 一つ下の13歳のはずだが、エリゼーヌと同じくらいの背丈で、ユベールは内心ではチビだな、と見下していた。

 ユベールがエリゼーヌと顔をあわせるのは()()諍い以来で、父からエリゼーヌには二度と関わるな、と命じられた。

 シャルリエ家とミルボー家では謝罪を受けいれられて和解が成立していたが、実はユベールとエリゼーヌ個人の間では何もなかった。一応、ユベールは形だけでも謝罪してやろうとしたのだが、エリゼーヌがユベールには会いたくないと拒否したのだ。イレーヌが従姉妹の主張を後押ししたから、ユベールはそのまま辺境伯のところに修行にだされて今日に至っていた。

 夕食会は終始和やかな雰囲気だったが、エリゼーヌとジェスターが主賓・イレーヌ夫妻の隣だったのに対して、ユベールは対角状になるベルトン一家の隣と離された位置だ。お互いに関わりあいにならないようにとの配慮なのだが、ユベールは面白くなかった。実弟よりも従姉妹を可愛がる姉や両親に腹の底にドス黒いモノが溜まりそうだ。

 ユベールは表面上は貴族らしくにこやかな笑みを浮かべていたが、内心では今にみていろとせせら笑っていた。

 エリゼーヌにユベールが関わるのは禁止されているが、それ以外は構わないハズだった。


 一見、和やかな夕食会が終わると、応接室に食後のお茶が用意されて明日の式の段取りと打ち合わせだ。全員に一度で説明したほうがよかろうと、ユベールの到着を待たれていたのだ。

「ねえ、どうして、その子がブーケをもらえるのよ」

「アンジェリク、今、説明したでしょう?」

 イレーヌが不満げな従姉妹にため息をついた。

 王都の式でブーケトスをしていたから、明日は行わない。子供の頃の約束でブーケはエリゼーヌにあげると説明したばかりだった。

「まあまあ、アンジェリクも欲しくなったのね。やっぱり、女の子ねえ。幸せのお裾分けなんだから、分けておあげなさいな。いいわね、エリゼーヌも」

 祖母が口出ししてきてイレーヌもエリゼーヌも仕方なく頷いた。

 祖母は悪気はないのだが、姉妹のように仲がよい二人とアンジェリクとでは親密さに差があると気づくほど気の利く人ではなかった。


「披露宴では挨拶周りでミニブーケやキャンディーとクッキーの小袋を配るから、お手伝いをよろしくね。ああ、もちろん、ユベールもよ」

「はあっ? なんで、俺までそんな使用人の真似を・・・」

 ユベールが嫌そうに顔をしかめた。

 式は身内だけだが、その後の披露宴では領内の有力者たちを招いている。学者や大商人や芸術家たちなど、ミルボー領出身の有名人多数にイレーヌが跡取りだとお披露目するのだ。弟のユベールが承知していると見せつける意味もあっての手伝いだ。従姉妹のアンジェリクやエリゼーヌだって、華を添える演出として手伝うのだ。実弟が避けられるわけなかった。

「めんどくせえ」

 ボソッと呟いて、ユベールはガシガシと頭を掻いた。この数年、騎士仲間と過ごすうちにすっかり男臭い仕草が身についていた。

「イレーヌ様、僕もお手伝いしますよ」

 ジェスターが申し出てきて一同の意外そうな視線が集中する。エリゼーヌ以外にはあまり表情を見せない少年が会釈してきた。

「婚約者に付き添います。披露宴では隣接する領地からの招待客も来ますよね?」

「ええ、ボワロー子爵家とティボー伯爵家ね」

「両家ともご子息がまだ婚約していません。何か、勘違いされては困りますから、婚約者をエスコートします」

 あらあらまあまあ、と女性陣から微笑ましい雰囲気が漂い、エリゼーヌは赤くなって俯いた。それに面白くなさそうにアンジェリクが絡んできた。


「あら、傷物になった婚約者でも心配なさるなんて、侯爵令息はお優しいのね」

 しんとなって、一同が目を見交わした。アンジェリクが何を言いだしたのか、一瞬意味がわからなかった。

「はっ? 何が言いたいのかな、君は」

 冷ややかなんて生優しい、氷点下のブリザードが局地的に発生していた。年下の少年からの威圧にアンジェリクが蒼白になる。

「な、何よ! だって、その子、拐かされたんでしょ。人身売買の悪徳商人に捕まるなんて、立派な傷物じゃない」

「はあっ?」

 局地的が全体的に進化した。大人たちでも息を呑み、魔力の威圧もおまけされて控えていた使用人の中には耐えきれずに膝をつく者もでた。

「ジェス! 落ちついて!」

 エリゼーヌがジェスターの腕を掴んできた。隣に座っていた少女にだけは被害がなかった。

「わたしは大丈夫だから」

「・・・わかった」

 ジェスターは婚約者に心配そうに顔を覗きこまれて、しぶしぶと魔力を収めた。エリゼーヌは深く息を吸うと、アンジェリクを真っ直ぐに見据えた。

「アンジェリク様、何か誤解があるようですね。不確かな変な噂を流されては困ります。虚言はお控えください」

「なっ!」

 侯爵家から淑女教育を受けているエリゼーヌは穏やかな笑みさえ浮かべてアンジェリクを牽制した。

 彼女の言うことは本当だが、エリゼーヌの名がでないようにディオンが骨をおってくれたのだ。動揺して固まっている場合ではなかった。ジェスターを暴走させないためにも、エリゼーヌが毅然と対処するのが一番だ。


「・・・わたくしが嘘をついたと言うの? ユベールが先輩騎士から聞いたのよ! 確かな話だわ」

 アンジェリクが唇を戦慄かせながらも言い返した。皆の視線に晒されたユベールが首を横に振る。

「先輩から聞いた話をアンジェリクにしたのは確かだ。でも、エリゼーヌ・シャルリエの名前なんかだしてない。

 アンジェリクが勝手に言いだしたんだ」

「そんな! ユベール、嘘つかないでよ!」

「嘘なんかついてない。俺がいつエリゼーヌの名前をだした? 侯爵家縁の令嬢だとしか言ってないだろ。勝手にエリゼーヌだと思いこんだのはアンジェリクじゃないか」

 憮然と言い放ったユベールだが、一瞬だけ嘲る色が瞳に浮かんだ。それを見逃すほどジェスターは甘くない。

「へー、その侯爵家って、どこの家かな? まさか、ルクレール家(うち)だとでも言うの? 

 父が魔術師団の任務で人身売買組織の摘発に赴いたのは確かだけど、それだけで僕の婚約者と結びつけるとか、短絡すぎる。誤解を招く物言いは控えたほうが御身のためだと思うよ。

 ねえ、令嬢の髪を斬髪するなんて残虐非道な真似をして他領に行儀見習いにだされた騎士見習いどの?」

「え? ユベールが?」

「まああ、そんな酷いこと・・・」

 アンジェリクさえひきつった顔でユベールを見た。令嬢の長い髪は命だ。それを切り落としたなんて、騎士どころか貴族令息としてもあり得ない。


「俺がやったんじゃない! そいつが勝手に切っただけだ。ただ、髪を染めろと命じ・・・」

 周囲の驚愕する表情にユベールの言葉は尻すぼみになる。

 髪染めは貴族では忌避される行為だ。己の出自をゴマかすのはご法度だし、子供に髪染め液はよくないと常識人ならわかっている。

「・・・ああ、そうだったね。ただ、無理やり髪を染めただけだった。泣いて嫌がる令嬢相手に、ね」

 更なる暴露に非難の視線がユベールに突き刺さる。ミルボー家の面々は蒼白になって口を挟もうにも挟めない。

 貴族令息にあり得ない所業を自らバラしたユベールにマトモな縁組なんて絶対に来ないだろう。跡取りから外れ、婿入りも絶望的、この所業では騎士にはふさわしくない。そうなると、他に貴族として身を立てる道はない。騎士を目指すだけあって脳筋なユベールに文官の選択肢は端からなかった。

 自業自得で己が首を絞めたユベールに家族たちもフォローを入れあぐねた。


 つんつんと袖をひかれたジェスターが顔を向けると、婚約者が困った顔をしていた。

 ジェスターは手を伸ばしてえんじ色の髪にふれた。毛先が丸くなる癖のある柔らかな猫っ毛だ。

 出会った頃は肩につくくらいで肩より長めのジェスターの黒髪より短かったが、今では少女のほうが長いだろう。指を絡めて軽くひっぱると真っ直ぐに伸びるが、指を離すと元通りに丸くなる。

 こんなに愛らしい髪をよくも台なしにしてくれたものだとまた指に絡めると、少女が首を傾げた。

「あのね、人伝の話だと勘違いや誤解があって正確に伝わらないかもしれない。それで諍いを起こすのはどうかと思うの」

「・・・そうだね、ちょっと大人気なかったね。明日は君の大好きなイレーヌねえ様の結婚式なのに」

 ジェスターは婚約者の髪から手を離すと、伯爵夫妻とイレーヌに向かって謝罪した。

「申し訳ありません。祝い客にふさわしくない態度でした。若気の至りと大目にみていただけましたら恐縮です」

「い、いえ。・・・こちらこそ、愚息が失礼をいたしまして」

 伯爵はヒクヒクと顔をひきつらせていた。

 この中で一番最年少なのはエリゼーヌで、次はジェスターだ。その二人から大人な対応を取られて、息子の至らなさに冷や汗が止まらなくなりそうだ。


「我が家からもお詫びしますわ。エリゼーヌ嬢にジェスター様、アンジェリクにも深く反省させます」

 ベルトン夫人がおっとりとした口調だが、娘の頭をガシッと鷲掴みにして深々と下げさせるという豪快な仕草で自身も頭を下げた。

 夫も一呼吸遅れて同じように頭を下げて娘の口をしっかりと塞いでいた。これ以上の失言はさせまいと言う気迫が伝わってくる。

「・・・子爵、ご息女の鼻も塞いでるようですが?」

 父の手から逃れようともがくアンジェリクの顔色が悪くなっていって、ジェスターがしかたなさそうに指摘した。

「いえいえ、ちょっとしたスキンシップですよ。お気になさらずに」

 ベルトン子爵が妻のご機嫌を伺いながら娘の鼻だけ手をのけた。完全にかかあ天下の家庭のようだ。

「詳細は明日の披露宴直前にでも、確認しますので。今日はこれで・・・」

 イレーヌが話をまとめてきて一同は解散することにした。

やっぱりやらかしたユベール。成長したのは身体だけでした。

エリゼーヌの髪が見苦しくない長さまで伸びていたのでジェスターはバラしました。報復はしっかりとするつもり。

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