ご褒美は何がいいのでしょう?(前編)
長いので、前後編にしました。バシェに滞在した日の出来事を出立してから振り返ってます。
馬車の中は微妙な雰囲気に包まれていた。
エリゼーヌとジェスターが間にもう一人座れそうなくらいの間隔を開けて座っているのだ。二人ともそっぽを向いていて視線をあわせようとはしない。
お付きのケヴィンとクロエは顔を見合わせて同時に首を左右に振った。主たちがケンカにしては微妙な諍いをして昨日から意地を張りあっていたのである。
バシェには休息のためにともう一日滞在になった。ファブリスが商談で出かけると、少年少女はまずはダンスのレッスンだ。
伝統的な結婚式では式の後の披露宴でダンスがつきもので、久しぶりの二人はあわせてみたのだがーー
エリゼーヌがヒールのある靴で、ようやく目線が同じになったジェスターがまた小さくなったと言われて拗ねたり、ついジェスターの足を踏んでしまってエリゼーヌが落ち込んだりと小さなハプニングがあったが、概ね良好な雰囲気だった。
それが変化したのは、午後になって街にお忍びでくりだしてからだ。
バシェは水路と陸路が交わる交易都市で物流が盛んだった。王都よりも先に大陸で流行っている品が出回ることもあり、二人は買い物デートを満喫していた。
可愛い雑貨屋でエリゼーヌが領地の侍女見習いたちのお土産を選んでいる間、付き添っていたジェスターは一旦側を離れた。密かに婚約者への贈り物を買おうとしたのだが、見慣れない見目麗しい少年に地元の富裕層の少女たちが目敏く気づいた。あっという間に少女たちに囲まれてしまい、さすがに護衛も割って入ることができなかった。
固まった少年にリーダーらしき豪奢な金の巻き毛の美少女がお茶の誘いをかけてくる。
連れがいると断ってもしつこい相手だったから、ジェスターは手っ取り早い方法をとった。
買い物が終わったエリゼーヌを引き寄せると、これみよがしに彼女の口の端に口付けたのだ。
「僕にはこの通り、可愛くて愛おしい婚約者がいるから強引な誘いは遠慮して。迷惑だよ」
エリゼーヌは真っ赤になってぴしっと固まるし、相手の美少女は怒り心頭で捨て台詞を吐いた。
「は、破廉恥だわ! 少し顔がいいからって、いい気になってますわね!
ボワロー家のエミール様のほうが、あなたなんかより、ずっとカッコイイですわよ!」
いい気になってるのはどっちだと、ジェスターは冷ややかに少女の一団を見送った。
休息と称して本当は婚約者とデート目的の滞在だったから、ジェスターはバシェの情報は事前に調査済みだ。
バシェの領主・ボワロー子爵家の長男エミールはエリゼーヌと同い年だが婚約者はいない。ボワロー家は地元の裕福な商人と縁続きになろうとしていた。
ジェスターに絡んできた少女たちはエミールの婚約者候補なのだろう。エミールと同じ年頃のジェスターに声かけしたのは練習のつもりなのか、デートを邪魔された少年には迷惑でしかない。
主に代わって支払いで側を離れていたケヴィンが無礼な少女たちに険しい顔をしていたが、ジェスターは速やかに邪魔者を排除できてよしとした。お洒落なカフェでお茶でもと婚約者をエスコートしようとしたら、エリゼーヌに涙目で睨まれた。
「ジェス、ひどい。キスは許可しないとダメって言ったのに・・・」
「頬にしたんだから、挨拶でしょう。許可はいらないよね」
「あんな見せ物にするなんて・・・。わたしはいいって言ってないのに」
明るい灰色の瞳から涙がこぼれそうになって、ジェスターは焦った。泣かせるつもりはなかったのだ。
「エリィ、そんなにイヤだったの? ごめん、でも、あの場はああするのが手っ取り早かったから・・・」
「ジェスはそんな理由でキスするの? 女子避けでするなんてひどい」
「え、そんなつもりじゃ」
うるうると瞳を潤ませたエリゼーヌがむくれてしまって、デートはご破算になった。宿に戻っても少女のご機嫌は直らず、翌日まで持ちこしてしまったのだ。
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連載開始したばかりですが、投稿を水曜の18時と土曜の18時にして週2回にします。どうも、週1だとストック溜まりすぎるのですが、まだ連日投稿するほど溜まってもいない、と中途半端なんですよね。
しばらくは週2の連載で様子見するつもりです。




