まだ運がよかったのです
短めです。事件の結末のお話。
「姉さん、無事だったのね!」
「ああ、アン・・・、いえ、マリアンナもよくぞ無事で・・・」
マリアンナは強制労働施設で姉と再会した。お互いに涙を浮かべてぎゅうっと抱きつく。
王都に連行されたのは支店にいた従業員とドミニクだけで、使用人たちはドロレの領主のもとで取り調べをうけた。
マリアンナはドミニクの小間使いとして、裏仕事の取引現場に同行したこともあったから、包み隠さず全てを積極的に白状した。ドミニクに脅されていた者は他にもいたが、詳しい取引内容などまで熟知してはいない。マリアンナの暴露は捜査側には貴重だった。捜査に協力的で反省もしていると、悪事に加担していたとしても情状酌量の余地はあるとみなされた。
それでも、強制労働施設で重労働の判決を申しつけられた。
王都でやりたがる者のいない下水道施設の掃除や廃棄処理施設での作業だ。悪臭から目と鼻を布で覆いながらの作業だが、死傷率の高い鉱山での重労働より扱いはよいほうだ。少ないが一応賃金もでる。罪を償った後には一般市民として暮らすこともできた。
「はあ、出所まではまだまだ長いわね」
「・・・でも、わたしたちは運がよかったほうよ」
デジレが嘆く妹を慰めた。
デジレは逃げだそうとしたところを騎士団に捕獲され、脅されていたと助けを求めた。ちょうど追っ手がかかって運良く保護してもらえたが、やはり罪には問われたのだ。
デジレたちは毎日の作業で鼻が麻痺しておかしくなりそうだが、衛生面に気をつけてさえいれば命の心配はない。
首謀者のドミニクや息子の商会長は公開処刑だ。子供を巻きこんだ犯罪は特に重罪で、支店長や下男など配下の者も極刑だときいた。隣国の事情は詳しくはわからないが、取引相手の伯爵も処罰されたらしい。
彼らに比べれば何十年という刑期でもマシだった。勤勉に取り組んでいれば軽作業に移動可能だし、刑期の短縮や出所後の職や住まいの斡旋もしてもらえるのだ。
それでも、完全に婚期は逃すが、マリアンナは莫迦な男に振り回されるのはもうこりごりだと姉と意見があった。年老いても姉妹で暮らせればなんとかやっていけるだろう。
「さあ、もうひと頑張りよ。これが終われば今日はおしまいにしていいんですって」
「じゃあ、今日は早めにあがれるわね」
姉に励まされてマリアンナは重い腰をあげた。
少しでも早く悪臭から逃れられるのはありがたい。気温があがるに連れて、悪臭もひどくなっていく。これからの季節は長時間の作業がきつくなる。作業時間短縮は大歓迎だ。
深夜の急襲から事情聴取に事後処理、それぞれの処分決定などに二月ほどかかっていた。王都はすでに初夏の気配を漂わせる時期だった。
次回で二部終了です。番外編というか、おまけの話。
少し時間が遡って、ドロレで療養中の出来事。なし崩しではなく、ジェスターにはきちんと告白してほしいな、と。その上で婚約成立にしたかった。
この回で最後はちょっと味気ないなと思いまして。時間軸が前後してます。




