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婚約破棄と解消と保留、そしてする予定はありませんけど?  作者: みのみさ
第二部 婚約するのも大変です

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しばしのお別れです

 玄関ホールは見送りの使用人で溢れていた。

 領地に出発するのはファブリスとエリゼーヌだけではない。

 エリゼーヌの専属侍女クロエと教育係ナディア、それにブレーズ教授の教え子で古語に興味のある青年・アベルだ。アベルはブレーズ教授にエリゼーヌの家庭教師に推薦されて、古語の聖地シャルリエ領に行けるならお安い御用と引きうけた。彼らには侯爵家から給与が支払われる。


 孫娘の教育や学習の遅れにはファブリスも頭を悩ませていたし、ファブリスの屋敷は中年以上の者ばかりだ。エリゼーヌが親しく気を許せる相手がいなかったので、侯爵家の配慮はありがたい。

 大所帯になったので、念のために領地まで護衛が二人つくことになった。もちろん、侯爵家お抱えの護衛騎士だ。

 次期侯爵夫人のためだからとディオンは実ににこやかな笑みだが、ファブリスは顔をひきつらせた。

 侯爵家とディオンの本気を感じとって、何がなんでもこの婚約は成立させる気だと悟ったのだ。

 少し離れたところでは、孫娘が婚約予定の少年と向かいあって両手を繋ぎ、別れの挨拶中だ。額をくっつけんばかりによせて、たくさんの約束を交わす小さな恋人同士を周囲の使用人が生温く見守っていた。


「僕も君の領地に遊びに行くから、そうしたらずっと一緒に過ごしてね」

「うん。わたしのお気に入りの花畑やりんご園があるの。案内するから」

「手紙も書くから。必ず返事をしてね」

「うん。でもね、配達事情がよくない時があるから、少し間が空いたりするかもしれない」

「大丈夫。超速達特急便を使うから。返信もそれでできるように手配するよ」

「本当? じゃあ、毎週お手紙くれる?」

「もちろん。毎日でもいいくらいだ」

 いや、さすがにそれはちょっと・・・、と周囲がひいているが、ジェスターは気にもとめない。

 超速達特急便は一般郵便の10倍のお値段で配達日数は半分になる。緊急連絡にしか使われない郵便なのだ。


「その、ディオン殿、大変申しあげにくいのですが、こんなによくしていただいて、もし万が一にでも・・・」

「ああ、その心配は絶対に完全に全くあり得ませんから、ご安心を。なんなら、婚約誓約書の届け出を早めてもいいくらいだと思います」

 気まずげに切りだしたファブリスは相手の圧につい視線を逸らした。

 ディオンは最初に約束した通り、権力を振りかざす真似はしていない。・・・していないのだが、他の選択肢は最初から潰されている気がする。全面的に囲う気満々だろうと、孫娘が心配になってくる。

 エリゼーヌは素直に一年後には婚約成立だと受けとっていた。万が一なんて微塵も疑っていない。

 大人しい孫娘のたっての望みだ。叶えてやりたいのはやまやまだが、やはり家格差が気になるファブリスだ。しばらくは様子見に徹しようと思ったのだが、ジェスターとの婚約を喜ぶ孫娘にどう接していいのか悩みどころである。

 ふいに視界に入った孫娘が真っ赤になっていた。ふらっとよろけて、ジェスターに支えられる。体調でも崩したのかと心配になって孫娘のもとへ向かおうとしたら、ガシッと肩を掴まれた。

 ファブリスがふり返ると、ディオンがにこりと微笑んでいた。


「ファブリス様、しばらく離れ離れになる小さな恋人たちの別れの挨拶です。邪魔するのは無粋ではありませんか? もう少し二人の時間をとってあげていただきたい」

「しかし、エリーの様子が・・・」

「今、邪魔するほうが気まずいと思いますよ? 馬車の旅でずううううっと避けられるとか、おイヤではありませんか?」

「・・・その、老婆心かもしれませんが、孫とご子息の距離が近すぎるような気がするのですが?」

「婚約者なら問題ないかと。我が息子は意外と一途なのですよ。心変わりなど、全く全然絶対にしませんから。案ずる必要はありません」

 笑顔のディオンにファブリスは頭を抱えたくなった。

 まだ様子見などと言っている場合ではなかった。完全に射程距離内に囚われている。早めに婚約成立させないと一体どんな裏工作を画策されるのか、非常に不安だった。

「・・・お言葉通り、婚約成立は早めにしたほうがよさそうだ。ですが、きちんと手順は踏んでくださるのですよね?」

「ええ、もちろんですよ。抜かりなく準備万端、用意済みです」

 ディオンの含みを孕んだ笑みにファブリスは哀愁を漂わせてがっくりと肩を落とした。


「お別れの挨拶のキスは僕がするのと、エリィからするの、どっちがいい?」

 エリゼーヌは耳元でそっと落とされた爆弾にぶわっと赤面した。

 挨拶と言われれば確かに挨拶だ。婚約者になったのだから、これまでより親密な挨拶なのはわかるが、いきなりで少女にはなかなかハードルが高い。

 ジェスターの好きにさせるのは脳内で危険警報が発動するが、自分からなんて恥ずかしすぎる。

「・・・返事がないと僕からするけど、いい?」

「ま、待って! え、えーと、わたしからで、その・・・、お願いします」

「うん」

 素直にジェスターが頷いたので、エリゼーヌはほっとした。恥ずかしさはあるが、自分からのほうがまだ安全な気がする。

 そっと少年の頬に唇を押しつけた。恥ずかしかったが、きちんとできたと安堵したのも束の間、ジェスターが顔を近づけて唇を塞いできたからびっくりした。

 ちゅっと軽くふれただけですぐに離れたのだが、この前のようにかすめるとは違う。確かに重ねあわされて、柔らかな感触に一気に体温が急上昇する。くらっとかしいだ身体をジェスターが支えてくれた。


「じぇ、じぇすうううう」

 エリゼーヌが恨みがましく涙目で抗議すると、いつの間にか目線が同じ高さであうようになっていた少年がくすくすと忍び笑いだ。

「エリィ、もう僕たちは婚約者なんだから、これくらいはアリでしょう?」

「そ、それは、えっと? そうなの? で、でも、こ、心の準備とか・・・、い、いろいろとあるの!」

「じゃあ、今度からは許可を求めるから」

 それはそれで妙に気恥ずかしい。

 エリゼーヌはどうしてよいのかわからなくなって、ぐりぐりとジェスターの肩に額を押しつけた。

 少女の意識にはジェスターしかいない。周りの使用人とか、祖父やディオンのことは綺麗さっぱり頭から抜け落ちていた。


 旅立ってから祖父に体調がよくないのかと心配されて、ひたすら気まずい思いをするのだがーー

 とりあえず出発ギリギリまでエリゼーヌは恋しい人にくっついていたのだった。

遠距離恋愛になる二人ですが、離れる分、愛情が深まる、というか薄れさせるつもりはないジェスター&侯爵家一同。

彼らの本気はまだまだこれからだとファブリスは思い知らされるのです。

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