ケリをつけます
ディオンはドロレの領主・ベネトー公爵家と交渉して令状をもらうと息子たちにすぐに届けさせた。その後はカスタニエ商会の捕縛に参加だ。王都の本店にも手入れが入り、今夜で一網打尽のはずだった。
部下の若手魔術師は商船の差し押さえに向かわせ、ディオンは支店に踏み込む騎士団に同行した。支店では早朝の出港準備に備えて今夜から従業員が泊まり込んでいる。ドミニクも別れの宴で遅くなって宿泊しているはずで、ディオンはドミニク本人のツラを拝まねば、気が済まなかった。
アルマンの父で騎士団長のクラルティ伯爵は商船に向かい、支店は副団長に任された。
副団長が寝込みを急襲された従業員一同を一纏めにして令状を読みあげると、抗議の声もモノともせずに全員を拘束して王都へ連行することにした。
だが、ドミニクだけは証拠不十分で逮捕状がでていない。ドミニクの引退後に商会は悪事に手を染めたのだ。副団長は重要参考人の扱いにしようとしたが、ディオンがあっさりと拘束術をかけて護送車に放り込んでしまった。
「ルクレール殿、まだ、逮捕状がとれていないのに、それはちょっと・・・。正規の手順はきちんと踏まねば」
ディオンは魔術師団副団長で騎士団副団長とは同格だ。勤務中は身分の差は関係ない。
渋る騎士団副団長にディオンはにこりと微笑みかける。
副団長はぞくりと背筋に冷たいモノが走って反射的に剣の柄に手をやった。ディオンは温和な笑みなのに、目だけは絶対零度で温度がなかった。
「アレはわたしの逆鱗に触れていてね。重罪人として保護しておいたほうがお互いのためだと思うよ?
護送中の事故死とかは御免でしょう」
「はいいい?」
副団長は思わず声を裏返させた。
堂々と謀殺予告された気がするが、目の前のディオンは実に涼しげな顔をしていた。何か聞き間違えたかと思いたいが、温度のない目がそれを否定していた。
「実はベネトー公爵夫人とお約束していてね。確実な証拠をお目にかける、と。ちょうど、我が家の精鋭がつかんだところだ。早速、回収してこよう。
重要参考人などと手ぬるい真似はせずに、逃亡阻止のため重罪人の扱いをお奨めするよ」
副団長は身震いしてこくこくと頷いた。
ーーなんか、逆らうとマズい、殺られるかも、と生存本能が危機を告げている。
副団長は己の本能に従った。強き者には心酔し従うのが、生き残りのコツだ。団長に報告して、あとは丸投げしようと心に決めた。
ディオンはエリゼーヌの醜聞になるから少女の名は公表しなかったが、騎士団務めの夫に代わってドロレを治めているベネトー公爵夫人に詳細を報告していた。実名は控えて捜査する代わりに、黒幕のドミニクを必ず有罪確定にする証拠を提出すると取引したのだ。
ベネトー公爵夫人は先王の三女で女神教の巫女カサンドルや現女王の姉妹だ。昨年の逮捕で状況証拠で十分怪しかったドミニクを取り逃して憤っていた。
夫人は己の領地での悪事に心を痛めており、今度こそ取り逃しがないように入念に準備をしていた。
騎士団のツートップ・団長と副団長自らの捕縛を要請し、騎士団との連携も積極的に取り組んでいて、ディオンのもたらした情報は貴重だった。確実にドミニクを追い詰める材料になる。
ディオンは事後処理や細やかな調整などを全部イヴォンに押し付けて息子たちのもとへ向かった。
忠実なケヴィンに任せておけば、息子の手綱をしっかりととってくれると思うのだが、どうにも胸騒ぎがして落ちつかない。
ドミニクの持ち家にたどり着くと、地下から騒音と振動が連鎖していてイヤな予感は大当たりだ。
「父様! エリィが・・・」
現実逃避していたディオンの耳に息子の焦った声が届いた。はっと見やると、真っ赤な顔をしたエリゼーヌがぐったりとジェスターに寄りかかっていた。
「急にぐったりして・・・」
「刺激が強すぎたのでは?」
ボソリとクロエがこぼして、一同は納得顔になった。
ディオンも同意見だったが、今は子供らを回収する手段を講じるほうが先だ。
「ジェスター、君の魔力だけでもどうにか収められないか?」
「ムリだよ。吸いとられないようにするだけで手一杯だ」
ジェスターの魔力をもとにして暴走しているせいか、親和性が高いらしい。ディオンは天井を見上げてから周囲に視線を走らせた。
「証拠は押さえたか?」
「はい。減刑を匂わせたら、口をわる協力者続出ですでに押収済みです」
ディオンを案内した護衛が背筋を伸ばして報告する。ディオンは方針を決めた。
「よし、収束は不可能。魔力塊の自動消滅まで待つのは家屋がもたない。
ならば、いっそのこと、全て吹っ飛ばすしかないな。幸いにも近くに民家はない。好都合だ」
高魔力保持者ならではの強引な力技だ。他の誰にも真似はできないだろう。
「しかし、魔力を吸収する作用があるみたいですが?」
「吸収するよりも早く大量の高魔力を浴びせれば、塊自体が持たないだろう。この場以外の人員を撤収させてくれ」
「はっ、かしこまりました」
護衛が駆けだしていき、怪我人のポールとケヴィンにクロエが残った。
ディオンは念のために懐から守護の魔法陣をとりだして周囲に展開する。
「ジェスター、今から魔力塊を嵐ごと吹き飛ばすが、護身具だけでは心許ない。守護の陣を張れるかい?」
「魔法陣は描けるけど・・・」
ジェスターは不安げに抱きしめた少女を見つめた。
これまで作動させたことはない。上手くいかなければ、エリゼーヌを危険に晒してしまう。
「調整とか細かいところは補佐するから、陣の維持にだけ気をつければいい。エリーは意識があって夢でなくとも君と離れるのはイヤがるだろう」
ディオンが苦笑すると、ジェスターが赤くなった。すぐに不機嫌そうに眉をしかめる。
「父様、からかわないでよ。エリィは僕がちゃんと守るから」
「わかった。準備しておいて。撤収完了の連絡がきたら、魔力を放つから」
「うん、父様、気をつけて」
この日、ドロレの街外れにあった小さな民家は跡形もなく吹き飛んだが、誰も怪我人はでなかったという。
エリゼーヌの救出完了です。明日からはその後の顛末と今後のお話。




