夢ではないと理解してもらいました
ジェスター、耳フェチ疑惑?
「ひゃ!」
エリゼーヌは肩を跳ねさせた。いきなり、耳を噛まれてびっくりした。
「な、ななななななな、何して・・・」
「甘噛みしてるだけだよ、痛くないでしょ?」
「あ、あまが、み?」
痛いか痛くないかなんて関係ない。耳に噛みつかれるとか、変な夢だ。
呆然としたエリゼーヌははっと我に返って身をよじろうとするが、ジェスターにしっかりと抱きしめられている。彼は耳全体をハミハミとして離さない。耳たぶをペロリと舐められて、少女は軽くパニック状態だ。ジタバタともがきだした。
「な、なに・・・。は、離して! み、耳なんかおいしくないでしょ⁉︎」
エリゼーヌは動揺のあまりに妙なことを口走っていた。ジェスターは息を吹きかけるように耳元で囁く。
「い・や・だ。・・・夢なんでしょ。気にしないで」
「き、気にする!」
ぞくっと背筋に痺れが走って、エリゼーヌは目が潤んできた。
「夢だから、平気」
何が平気なのか、ジェスターは唇を移動させて、今度は頬をペロリと舐めた。
「ひゃい!」
「エリィの変な声もかわいいね」
先程の意趣返しらしかった。ジェスターはパニック状態の少女に頬や瞼にこめかみにと、そっとキスの雨を贈る。
真っ赤になったエリゼーヌは思いきりジェスターの肩を押すと、彼の口を両手で塞いだ。
「そ、そういうことは友達としな、ひゃあ!」
「・・・友達じゃないからね」
掌を強く吸われて叫ぶエリゼーヌにジェスターがにっこりと微笑んだ。ワタワタと両手を降参するかのようにあげる少女を愛おしそうに見つめる。
「夢だから、何しても構わないでしょ」
エリゼーヌは鳶色の瞳に宿る熱に見覚えがあった。ペンダントは誕生日プレゼントだったと告白された時と同じだ。
ーーもしかして、あの告白は本気だった?と迷う間も、ジェスターの笑みに不穏さが広がって怖かった。
「か、構う! 気にするから、やめて!」
「じゃあ、夢じゃないって認める? 僕が本物だって」
あうあうと涙目で少女は大きく頷いた。逆らうとさらに何かされるのは明白である。
ジェスターはほっと息をついてえんじ色の頭に頬擦りした。
「現実だってわかったなら、僕が来たのはなんでかわかってるよね? ・・・断っておくけど、友達を助けに来たんじゃないからね」
「・・・え、えと、その、多分」
「多分?」
「ちゃんとわかってる! こ、婚約者候補を助けに来たんでしょ?」
「惜しいな、候補はいらないよ」
「え? どう・・・」
いう意味かと尋ねる暇はなかった。外れたバツだというように、少年は口の端に口づけしてきた。
エリゼーヌはぴしりと固まった。
唇のキスは絶対に親愛の情なんかじゃない、特別な人としかしない愛情表現だ。クロエによる情緒教育の恋愛小説でそう描かれていた。
端っこでギリギリで頬へのキスだったが、かすかに唇をかすめていた。一瞬でエリゼーヌの頭の中は真っ白になる。
ジェスターは石像と化した少女にやりたい放題だった。髪を撫でたり指で絡めとって口づけしたり、すりすりと頬ずりして唇をよせてとさっきのお返しだ。
ーークマクマもそうやって構い倒すから、ボロボロにくたびれたんだよねえ、とディオンは遠い目をして、ご機嫌な息子を眺めた。
幼い息子は眠りにつく前にクマクマの耳をガジガジする癖があったなあ、と。
「・・・ジェスター、やりすぎると嫌われるよ?」
「あ、父様。逃がさないから大丈夫」
ディオンは息子の返答に頭を抱えたくなった。
一応、ディオンの術で当面の危機は脱したが、まだ魔力塊が暴れまくっている中心地に息子たちはいるのだ。
どう助けようかと考え出した矢先にいちゃつかれて、もはや脱力するしかない。ディオンの周囲ではカオス状態になっていた。
ケヴィンは目頭を押さえて、『あの若様が、ご立派に成長なされて・・・』と感涙しているし、クロエはジェスターを止めるべきか否かで苦悩していた。羞恥にかられるエリゼーヌを見捨てるのは忍びないが、ジェスターがこれまでの反動でタガが外れたのもわかる。どちらの心情も理解できるから、止めるに止められないのだ。
そして、護衛たちは市井のおばちゃんよろしく、仲よく井戸端会議中である。
「ノエルのやつ、下町捜索班でよかったな。とても、あいつには見せられん」
「ああ、やつには惨すぎる光景だ」
「またフラれたって言ってたからなあ」
「あいつ、若様を弟で、お嬢様は妹みたいに思ってたから、余計にダメージでかいんじゃね?」
「弟妹に先こされたとか、ショックだろうな」
「ああ、気の毒すぎて泣けるな」
誰も彼も危機感はないのか、と死んだ魚の目をしたディオンは、これまでの経緯を思い起こしていた。
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頼もしい父、チートなディオン。大概のことは力技でどうとでもできますが、野暮な真似はしたくないので息子の暴走(エリゼーヌ限定)には静観の構え。




