夢なら構わないよね?
ディオンが駆けつけた地下室では魔力の暴雨風状態だった。皆、伏せて暴れまくる魔力塊から身を守っていた。
「父様!」
息子と義娘(確定)が変形した鉄格子の中で抱きあっていた。ジェスターの護身具で守護されていたが、嵐の中心は息子だ。暴れまくる魔力に息子の痕跡を認めてディオンは眉をしかめた。
まさか、ジェスターが魔力暴走に陥ったのかと思ったが、なんだか様子がおかしい。
「ジェスター、そこから動くな。今、周囲に障壁を張る」
ディオンは障壁で部屋の中に嵐を閉じ込めた。魔力の暴風雨がこれ以上広がることはない。崩壊しそうな壁や天井も魔術で補強してしばらくは保たせる。
「ケヴィン、どうなっている?」
「旦那様、申し訳ありません」
ようやく、身を起こせるようになったケヴィンが状況説明だ。
エリゼーヌの首に嵌められた枷を破壊してこの状態になったと聞いて、何か物騒な魔法道具だったのだと推測がたつ。
弾き飛ばされた護衛のポールは肋骨が折れていた。同僚に肩を貸されて立っているのがやっとだ。ジェスターたちに近づけない分、戦闘能力のないケヴィンやクロエを守護していたのだが、魔力・体力共に限界のようだった。
「侯爵様、申し訳ありません。お嬢様と若様をお守りできずに、このような・・・」
「いや、想定外の事態だ。気にするな。よくケヴィンたちを守ってくれた」
ディオンは己の護身具に絶対の自信があったから鷹揚に頷いた。とりあえず、息子たちは無事だが、どう嵐を収めるかが問題だった。
息子の魔力に別の魔力が絡みついている状態だ。引き離すのは至難の業だろう。複雑怪奇に入り混じっているのだ。
「父様、エリィを守れる? 父様のところに行かせるから」
ジェスターが縋るように父を見つめていた。
不安定な場所にエリゼーヌを置いておきたくない、安全な場所に、と願う息子の思いを本人がすげなく断った。
「やだ、ジェスと一緒にいる」
エリゼーヌはジェスターにしがみついて首を横に振った。
「エリィ、ここは危険なんだ。父様なら君を守ってくれるから」
「イヤ、目を覚ましたくない」
エリゼーヌはまだ夢の中だと思っていた。居所がわからない少女を助けに来てくれたとは思えなかったから。
「エリィ、夢じゃないんだ。これは現実。僕たちは君を助けに来たんだ」
「・・・どうして? ジェスはもうわたしのことが嫌いでしょう」
心底不思議そうに少女は瞬きした。ジェスターはエリゼーヌをいらないと言ったのだ。
「嫌ってないし、いらないなんて言ってない」
「ウソ。婚姻相手なんかいらないって言った。ペンダントも必要ないって・・・。ジェスはペンダントもわたしも捨てたの、だから助けに来ない」
エリゼーヌはそっと目を伏せた。至らない令嬢だから、嫌われても、いらないと言われても仕方がない。これは幸せな夢なのだ、とーー
ジェスターはムカッと腹をたてた。
ーーここまで来るのに僕がどんな思いをしたことか⁉︎
それを夢と言い張る少女が憎たらしい。
「僕がいらないのは練習相手とか代理とか、そんな意味の婚約者がいらないってこと。お飾りの婚約者なんか、必要ないから。・・・言っておくけど、クレージュ侯爵令嬢の話は君の父上の勘違いで誤解で妄想もはなはだしいからね?」
「でも、ジェスは婚姻相手がわたしでなくても構わないでしょう。わたしがいいんじゃなくて、わたしでいいだもの」
「そ、れは!」
「わたしでいいなら、相手が誰でも構わないよね? わたしがいいんじゃないもの。だから、ここにジェスが来るワケないもん」
「ちが・・・、あれは、そんなつもりじゃ・・・」
初告白の不器用さに焦るジェスターとむうっと唇を尖らせるエリゼーヌはしばし至近距離でにらめっこだ。
「もういいもん。また眠るから、邪魔しないで」
ぷいと横を向いた少女はこてりとジェスターの肩に頭をのせた。本人を夢だと言い張るわりにしっかりと抱きついている。意地でも離れるつもりはない。
「・・・ねえ、夢だって思ってるんだよね?」
「うん、夢だもん」
「そっか、それじゃあ、僕が何をしても構わないよね。夢なんだから」
何やら不穏な宣言をしたかと思うと、少年は少女の耳にかぷりと噛みついた。




