見つけました!
イラつくジェスター暴走中。
ジェスターは術の行使で地下だと当たりがついたし、ペンダントの残留魔力も感じられたが、姿見の前で立ち往生していた。
「この先から感じるのに!」
「若様、今探っていますからお待ちください」
ケヴィンが主をなだめた。もし、手順通りでなければ開かない仕様だったら?と、慎重になっている。何か罠が仕掛けられている可能性もあるのだ。
だが、むすっと不機嫌になった主は護衛を下げさせて、掌を姿見に突きだした。思いきり魔力を叩きこむ。
どこおおおんと盛大に姿見が吹っ飛ぶ。ぽかりと地下に開いた穴へジェスターが入り込む前に辛うじて護衛のポールが割りこんだ。
「若様、落ち着いて! 気持ちはわかりますが、お嬢様のいる部屋もこの調子だとお嬢様にも破片が当たるかもだから!」
「・・・わかった」
思いきり魔力の塊をぶつけて姿見を粉砕したジェスターは不承不承下がった。破壊神と化した主にさすがの専属執事も顔をひきつらせている。
「若様、お願いですから、冷静に平静に。見張りがついていれば、お嬢様の身に危害が及ぶかもしれません」
「へー、うちの護衛はそんなに無能じゃないと思うけど?」
「ならば、私たちより前にでないでくださいよ」
ポールの同僚も涙目で訴えてきた。主からの無茶振りのプレッシャーが心身共に重くのしかかる。
「いいから、早くして」
「そうですわ、何をグズグズしているんです? お嬢様の身の安全が最優先です。犯罪者など細切れにしてやればいいでしょう」
一人顔色の変わらぬクロエが冷ややかに口を挟んだ。護衛よりもよっぽど肝が据わっていて周囲はドン引きしているが、本人は無表情でやけに据わった目をしていた。
クロエは医療要員として救急セット一式を運んでいるのだが、どう見ても治療とは反対の殺伐とした雰囲気をまとっていて怖かった。
ケヴィンは眩暈がしてこめかみを押さえた。
最悪の事態ーーペンダントだけでエリゼーヌ本人は見つからないーーにはならないだろうが、主は懸念していた通り暴走気味である。懐の魔力制御の腕輪の出番はないかと思ったが、どうやら見込み違いのようだ。主の両袖にディオンから預かったカフスボタンを念のためにつけておいてよかった。
もしもの時のストッパー役を任せたクロエも主に劣らず暴走街道まっしぐらで、『誰かなんとかしてくれ、いや、私しか止める者はいないのか⁉︎』と叫びたかった。
地下室の扉の鍵は鍵開けの技術を持つポールが開けた。
護衛が中の安全を確認するより早く目に入ったのは鉄格子だ。また鍵がかかっていてジェスターは過去最高記録にムカついた。もう少しなのに、こうも妨害が入るなんて、と何かにあたり散らしたい気分だ。
「ダメです。このタイプは鍵開けできない錠前だ。鍵を探さないと」
「僕がやる」
「若様、中に被害がでますから! お願いですから自重してください」
前にでようとするジェスターを護衛が押しとどめる。もうほとんど泣き声だ。そこへ使用人の見張りにつけていた護衛がやってきた。
「口をわる者がいて、鍵をお持ちしたのですが・・・。えーと、いりますか?」
護衛はここに至るまでの惨状を見て余計なお世話だったかな?と、不安になっていた。
「鉄格子の鍵はある?」
「はい、若様。お下がりください」
護衛が鍵を開けている間もジェスターは焦りと不安とでイラついていた。
結構騒がしくしているのだが、鉄格子の中の毛布の山はピクリとも動かない。見覚えのあるえんじ色の髪が一房のぞいているのだ。エリゼーヌがいるのは間違いないのに、無反応なんてまさか・・・、と恐ろしい思いが頭を掠める。
先陣を切ったポールの後にケヴィンを振り切ったーーというよりクロエに押さえさせたジェスターが中に入る。
「エリゼーヌ様?」
「エリィ!」
ポールと同時に毛布の山をのぞき込むと、エリゼーヌは眠っていた。ジェスターがほっと安堵する間に、ポールがそっと少女を抱き起こした。その首に黒い輪が嵌まっているのを見咎めたジェスターの目が大きく見開かれる。
「な、これ、は!」
かっとなったジェスターが輪に触れると死神の御手は簡単に外れたが、少年の手の中で粉々に崩れ去り、そこから凄まじい魔力の奔流が湧きあがった。
ポールは弾き飛ばされてエリゼーヌを離してしまった。
何が起こったのかは不明だが、魔力の奔流を浴びて何かが暴走状態らしいと判断した。すぐにでも護衛対象に駆けよりたいのだが、強力な圧を浴びて身を起こせない。顔をあげるのさえしんどくて、ポールは一歩も動けなかった。
「若様! お嬢様!」
「だ、い、じょうぶ・・・。エリィは僕と一緒だ」
必死に怒鳴るポールに返答があったが、嵐のように強大な魔力が室内を蹂躙していた。
パシン! パリリン‼︎ と、魔力の塊がぶつかり合って消滅する音が響き渡る。
「若様! 魔力をお抑えください! エリゼーヌ様にも被害が及びます‼︎」
「僕だけじゃないんだ‼︎」
床に伏せたケヴィンに意外な主の返事があった。




