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婚約破棄と解消と保留、そしてする予定はありませんけど?  作者: みのみさ
第一部 断罪劇は茶番です

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断罪劇のその後も人生は続きます(前編)

 ようやく事情聴取が終わり、フェリシーの処分が決定した。呪詛するほどの力を危険視されて大部分の魔力を封じられて辺境の神殿に追放だ。身分は一応神官職を用意してもらった。

『八つ当たりして人を呪ってしまうほど、力の安定に悩んでいるとは思わなかった。君が苦しんでいるのに気がつかなくて申し訳なかった』と神官長の温情である。学院長からも『未熟な学生を導けなかったのは我が学院の不徳の致すところだ』と弁護の口添えがあった。

 成人年齢の18歳になっていても学生の間はまだ半人前、学生の過ちは大人にも責任があるーーと、呪詛したにしては寛大な処置である。これが卒業後だったなら、完全に魔力は封じられて罪人扱いされていただろう。危ないところだった。


 実家から勘当されたフェリシーは神殿で世話になり、辺境に向けて出発準備をしていた。客が来たと面会室に通されて、そこにいたのは意外な人物だ。

「あ、あなた・・・、なんで?」

「どうも、お久しぶりです。バランド先輩、お元気そうで何よりです」

 軽いノリで挨拶してきたのは相変わらず前髪と眼鏡で目元を隠したシリルだ。

「お届け物でーす」

 シリルが持参した箱の中身の確認を求められてフェリシーは固まった。

 学院で()()()()()もとい、落とした小物ーー文房具や日用品、髪飾りやブローチなどだった。

「いやあ、事務の方が困ってましてね。年度末の一ヶ月前には張り紙して落とし物の引き取りを告知、それでも持ち主が現れなかったら壮行会の開始の挨拶で通達してで大抵は引き取りに来るのに、今回に限ってこんなに大量の落とし物が放置されたままでしょう。

 この髪飾りとかブローチなんか小振りでも純度の高い貴石ついてますからね。

 いくら学院の規則で持ち主不明な場合は処分っていっても、どうしたらいいのかと相談されてしまいまして・・・。はあ、まだワタシ庶務のままなんですが」

 シリルは眼鏡のツルを押さえて嘆息した。

「持ち主に該当するのはバランド先輩しかいないんじゃないかな、と。壮行会に遅れてきた女子生徒は先輩だけでしたので。

 心当たりがおありなら引き取ってくださいます?」

 フェリシーは顔を引き攣らせながらコクコクと頷いた。


 学院では緩やかな服装規程で制服は決められていない。

 男子は白いシャツに黒か紺、または灰色のベストとジャケット、同色のスラックスに革靴。女子は白のブラウスにやはり黒・紺・灰色いずれかのベストとボレロ、同色のロングスカートに短編み上げブーツ。そして、一年生は赤、二年生は青のクロスタイとリボンスカーフという装いだ。

 装飾は華美でなければ可なので、裾や襟にフリルやレースの飾りやワンポイント刺繍、タイピンやカフスボタンに髪飾り、ブローチなども認められていた。

 今、フェリシーの目の前にある装飾品はジルベールやレナルドからプレゼントされた物で男爵令嬢の持ち物にしては少々豪華である。


「あー、よかった。持ち主が見つかって。処分した後から持ち主が現れたらって事務方では気が気じゃなかったらしくて。先輩もよかったですね。()()()()()物が見つかって」

 シリルはニコニコ笑顔なのだが、眼鏡の奥に隠された深緑の瞳は絶対に和んでなんかいない。目だけは笑っていない偽りの友好さだと嫌でもわかる。これは『物がなくなった』背景を正確に捉えた意思表示だ。

 フェリシーは一体何を探りにきたのかと内心で身構えた。

「あと、もう一つありまして。これは受取拒否されても構わない物なんですが。餞別というか、試作品というか。魔術師団研究開発部門からの依頼です。これの使用感をレポートで提出してほしいそうでーす」

「はいいっ?」

 思わず、フェリシーは声がひっくり返った。

 シリルから差し出されたのは青の小石のついた銀の腕輪だ。断罪劇でエリゼーヌがしていたアミュレットに似ている。細かな紋様がびっしりと描かれていた。

「え、何これ? 使用感ってなに?」

「多分、これからの貴方には大活躍する物じゃないかと思いますよ。物理攻撃のみに反撃するアミュレットです。

 断罪劇の後半部分は特に箝口令がしかれましたが、あの場には生徒以外の人々もいましたからね。そのうち、なんらかの噂が流れるかもしれない。それを聞いた人々のとる行動って言ったら、少しは予測できますかね」

 シリルの言葉にフェリシーは青くなった。

 これまでは後悔や不安ばかりで念頭になかったが、王宮で噂話に興じていた下女のようにフェリシーをよく思わない人はもともといたのだ。神官長の庇護が届かない遠方の神殿でそういう人ばかりに囲まれてしまったら、何をされるかわからない。

 フェリシーが神殿の重病人用の病室で軟禁されていたのは、彼女がヤケになって魔力暴走させないように警戒するためと守るためもあった。今でさえ、彼女の陰口を叩く者はいる。幸いなことに危害は加えられていないが、それは神官長のおかげだ。

 嫌がらせ確定、物理攻撃可能性大の有り難くない未来予測をしてくれた相手は飄々と肩をすくめた。

「強制ではないです。これ、まだ試作品なんで。エリゼーヌ嬢のアミュレットを大幅簡略化した物で、必要な魔力量は平民でも可能なくらい節約されたらしいです。

 ()()バランド先輩でも十分扱える物で、ああ、最初に魔力流した人の登録が自動的にされるから最初の使用者の専用アイテムになります。

 登録解除は研究開発部門でないと行えないそうなんで、安心して使えますよ。あとは・・・何かあったかな?」

 説明不足はないかと首を傾げるシリルがフェリシーにとっては謎だった。

 魔術師団の研究開発部門とかエリゼーヌのアミュレットとか、絶対ジェスターが関わってる。フェリシー凋落の大元が依頼とか何を企んでいるのか。

 フェリシーは明らかに疑いの眼差しでシリルを睨みつけた。

「何を企んでるのよ? わたしに何をさせる気なの?」

「ああ、普通はそう警戒しますよね。でも、先輩は実験ど・・・、いえ、被験者で。まあ、糾弾の慰謝料代わりに開発に貢献してもらいたいと言うことで」

「今、実験動物って言いかけたでしょ⁉︎」

「いえいえ、そんな気のせいですよ」

 フェリシーのツッコミにシリルは胡散臭い笑顔で応じる。いい話風に言い換えたが、これで誤魔化せるとは無理な話だ。

「先輩の判断にお任せするそうですが、どうします? お断り可ですよ」

「どうするって・・・」

 フェリシーは迷った。今後を考えると、たとえ実験動物扱いでもこのアミュレットは有難い代物だ。ただ、どうしても貴族感覚で裏事情を勘ぐってしまう。

 迷うフェリシーにシリルは頰を掻いて苦笑する。

「気持ちはわかりますよ。ただ、ワタシはメッセンジャーなんで。まあ、わかる範囲でお答えしますが、簡単にまとめると、ただの恋する男の見栄なんで裏はないです」

「・・・どう言うこと?」

 シリルは眉をしかめるフェリシーに説明してくれた。


 階段からの転落事件でエリゼーヌは階段下に倒れたフェリシーを見てとても怖くなった。

 アミュレットが反応したのは分かった。ブランディーヌ・クレージュの名も聞こえた。関わらない方がいいと理性が判断しても、身動きしないフェリシーにエリゼーヌは心底から恐怖した。

 フェリシーの無事を確認することも、その場から立ち去ることもできずに、立ち竦む彼女の視界に魔術講師が駆け寄ってくるのが見えてエリゼーヌは逃げ出した。ただただ、怖かったのだ。

 アミュレットの機能は知っていたが、こんな場所で反応するとはさすがに予想外だ。

 フェリシーに糾弾された通り見捨てた。それをエリゼーヌはずっと後悔していた。

 あの場にジェスターがいなかったら、彼女は自己弁護などできなかっただろう。

 エリゼーヌはフェリシーに罪悪感を抱いていて、呪詛されたと言われても恨む気持ちにはなれなかった。貴族の対応としては甘いだろうが、彼女はフェリシーの今後を憂えていた。その婚約者の心の負担を減らすためにジェスター考案の依頼なのだという。


「貴方のことは『好きになれそうにないけど、憎むこともできない』って、エリゼーヌ嬢はこぼしたそうですよ。貴方が平民から貴族、聖女候補へと身分が変わって苦労していたのは分かっていたから。

 彼女も婚約で子爵家から侯爵家へと二段階も階級が変わる苦労がありますからね。もともと貴方には同情と共感してたらしいです。

 まあ、知らないうちに嫌われていたのはちょっとショックだったそうですが」

「・・・嫌っていたワケではないわ」

 フェリシーはそっぽを向いて言葉を濁した。シリルにしんみりと語られて居心地が悪かった。

 全然、出会いがなかったから、エリゼーヌがどんな娘かわからなかった。王宮の下女の噂話で勝手に思い込んでいただけだ。悪役令嬢を陰で排除するような人間だ、と。

 でも、デビュタントでヴィオレットとの仲を取り持ち、王宮侍女に話をつけてくれたのは彼女だった。ヴィオレットの件で批難されたが、あれはフェリシーにと言うよりも、ジルベールを相手にしていた。身分差を考慮すれば随分と大胆だが、筋を通して正論を述べただけだ。

 そんな彼女がブランディーヌを排除したなんて考えられない。

 大体、ゲームでは婚約者の令嬢と主人公は友情を築くはずだった。悪役令嬢は本当に病死だったのだろう。

 フェリシーは無駄な深読みで墓穴を掘った。

「まあ、もう過ぎたことですから。今後を心配した方がいいと思います。単に魔術バカの侯爵子息が婚約者にいいとこ見せようとして自分の研究欲も満たす一石二鳥を狙っただけですから」

「魔術バカって・・・」

 身も蓋もない言い様だ。確かに独学で古代魔法に手を出すとは天才と何とかは紙一重というやつだろうが、仮にも元上役に全く遠慮がない。

 シリルはしれっと肩をすくめる。

「だって本当のことですから」

 毒気のない言葉に笑いがこみあげてくる。ふっとフェリシーは身体の力が抜けた。

「く、ふふふ、やだ・・・、魔術バカって・・・、ふ、くっ」

 ふふふと笑みと共に目尻が潤んできた。フェリシーは目頭を押さえて笑い続ける。


 本当におかしかった。ゲーム通りの展開なんて望まなかったのに、ゲームの知識を有利に扱おうとして結局は振り回された。

 最初から聖女は無理だと辞退しておけばよかった。ゲーム展開なんて気にせずにもっと周囲を頼っていれば、こんな風にはならなかっただろうか?


 フェリシーはすっと差し出されたハンカチを目に当てて、こみあげてくる嗚咽を必死に堪えた。


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