番外編・下町にてとある親子の会話
「もうすぐ荷馬車がでるわよ。どこに行ってたの?」
「ごめーん、母さん。暴走車の前に飛びだしそうな子がいたから」
助けてあげたのよ、と娘は得意げに胸をはった。
オフェリーが娘が来た方向を見やると、地べたに尻もちをついている少女がいた。
遠目でもたっぷりとヒダのあるドレスで上流階級の子供だとわかる。オフェリーはため息をついた。
人助けはいいことだが、大雑把な娘のやる事だ。突き飛ばしでもして転ばせたのではないか、と勘繰ってしまう。
「ケガさせたりしてないでしょうね? お貴族様相手だと罰せられるかもしれないわよ」
「えー、そんな事してないよ。ひっぱっただけだもの」
娘はぷくうとふくれて抗議してくる。
下町の子供ならば、じゃれあいの範囲だろうが、上品なお貴族様にそれが通じるかは別だ。
オフェリーは娘が助けた相手を一瞥した。保護者かお付きがいるのかと思いきや、まだ座り込んでいる少女は一人きりだ。
オフェリーは面倒事の予感がして娘を急きたてて荷台に乗った。引越しで頼んだ荷馬車に荷物は載せ終わっていた。後は娘とオフェリーが荷台に乗せてもらうだけだった。母娘が乗ると、荷馬車はすぐに出発した。
薄情かもしれないが、貴族にいい思い出のないオフェリーはいち早く遠ざかることを選んだ。
この辺りは女神教の教会のおかげで治安はよい。昼間なら、少女一人きりでもそう危険はないはずだ。
「あの子、全然気づいてなかったのよ。危なっかしいったら。だから、横断歩道のないところは右見て左見て、もう一度右見てから渡るように教えてあげたの」
オフェリーは得意げな娘を難しい顔で見やった。
幼い頃から不思議な世界の夢をみては楽しげに語っていた娘ももう12歳になった。そろそろ、夢の世界の話は卒業しないと、周囲からはおかしな子だと色眼鏡で見られる。
「ねえ、夢の世界の話は他人にしてはいけないと教えたでしょう。何の話なのか、誰にもわからないのよ?」
「うん。でもね、母さん、道路の渡り方とか役に立つ話じゃない? 皆に知らせないともったいないと思うの」
「・・・そうかもしれないけど、それはどこから仕入れてきた話だと聞かれたら、答えられないでしょう。オウダンホドーなんて、誰も知らないわ。お偉い方の耳に入って不審がられては困るわよ?」
「母さん、お貴族様が嫌いだものね。うーん、母さんがそういうなら、しないようにする。でも、母さんになら話してもいいでしょう?」
「もちろんよ。母さんはフェリシーの話はなんでも好きよ」
母の言葉にフェリシーは顔を綻ばせた。
母は没落貴族で学院を途中退学したせいか、貴族を避けていた。どうやら、平民になってすぐに幼なじみだった男爵家で雇われたものの嫌な目にあったらしい。
父はいないが、母と二人でも十分楽しい生活だ。それを失う可能性は少しでものぞいた方が賢明だろう。
下町は昨年拐かし騒ぎが相次いで少々物騒になってきていた。オフェリーは十分美人だし、母似のフェリシーもモテる。娘の身の安全に不安になったオフェリーがもっと街中に近い治安のよい場所に住み込みの仕事を見つけての引越しだ。
この辺りに来ることはあまりなくなるだろうと、母娘は周囲を懐かしそうに見やっていた。
新しい家と仕事に興味津々の娘はずっと母と二人きりの生活がこのまま続くと思っていた。
ーー数年後に母が病いで亡くなり、事故で覚醒した治癒術のせいで父に見つかるとは、この時のフェリシーには知る由もなかったのである。
この時のフェリシーには前世の記憶がありません。ただ、断片的に夢を見て、前世は夢の世界だと思っていました。
ゲームではエリゼーヌは行方不明になりません。荷馬車に轢かれて重傷を負います。幸いにも教会が近く運び込まれて、知り合いの神父のおかげで治癒してもらいます。この時の怪我が元で、婚約しても二人の間はぎこちなくなります。
ジェスターは後悔と負い目でいっぱいで、エリゼーヌは同情と責任を感じての婚約だと思っているので。
ギクシャクしている二人にフェリシーが関わって・・・というのが、ゲームのジェスタールートでした。
しかし、フェリシーに半端に前世の知識があるから、ゲームのヒロインとはビミョーに言動が異なり、本人の預かり知らぬところでバキバキにフラグへし折ってます。他にもフラグクラッシャーしてるのですが、フェリシーは気づいてませんでした。
次回は本編に戻ります。




