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婚約破棄と解消と保留、そしてする予定はありませんけど?  作者: みのみさ
第二部 婚約するのも大変です

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エリゼーヌの最初の縁談6

エリゼーヌの祖父、ファブリス登場。おとんであり、おかんでもあるおじい様です。

 ファブリスは半年ぶりに会う孫娘の姿に呆然となった。室内でも帽子を被っていて訝しんでいたら、イヴォンに促されて嫌々帽子をとった頭は髪が短すぎて痛々しい。

 侍女に命じて孫がいつも滞在する部屋に下げさせると、息子に詰めよって何があったのかを吐かせた。

 イヴォンは娘の緊急事態と聞いて仕事を休んでミルボー家へ出向き、エリゼーヌを領地へ連れてきたのだ。


「何て事だ・・・」

「父上のせいでもありますよ。ユベールに騎士を諦めろなんて条件をだすから」

「当然の事を確認したまでだ。領地に無関心でエリゼーヌ一人に任せるなんて婿はいらん。

 我が領地の特殊性はお前もよくわかっているな?」

 父に鋭く睨みつけられてイヴォンは目を逸らした。

 勝手に跡取りから外れた身だが、学院入学前までは領主になるために領地経営を父から学んでいた。

 自家栽培の難しい希少な薬草の群生地は盗難・乱獲防止のため、領主と信頼する家宰以外には場所を知らせない。採取だって領主自ら行うほど厳重に秘されている。それを女領主の配偶者が知りません、関わりありません、では困るのだ。

「・・・ユベールは他家へ行儀見習いの名目で修行にだされました。性根と根性を叩き直してもらうのだ、と。婚約の話は流れました」

「当たり前だ。まさか、それだけでお前は許したというのか?」

「いえ・・・」

 イヴォンは射殺されそうな眼差しをうけて説明した。


 伯爵自ら頭を下げられての直接謝罪に多額の慰謝料、そしてえんじ色に近い赤毛の付け毛を受けとった。子供のエリゼーヌに合うカツラだと特注品で数ヶ月はかかる。伸びるまでは付け毛で短髪を隠しておこうという心遣いだ。

 そして、首謀者のユベールは母方の親戚で厳格と有名な辺境伯に預けられて学院入学まで扱かれる事になった。実家への里帰りは冠婚葬祭以外は認めない、と厳しいお達しだ。

 辺境伯は愛妻家で名高い紳士だった。ユベールのやらかしの詳細は公にされず、貴族令嬢に恥をかかせた、とだけ伝わっているが、辺境伯の心象は最悪であろう。

 騎士を志す者がなんたる無礼を、と徹底的に芯から鍛え直されるのは確実だ。

 ユベールは長男だが、跡取りからは外れている。騎士以外の道となると、望み薄な進路しかない。死に物狂いで修行に食らいつくしかなかった。

 

 そして、ユベール()に命じられたからといって、貴族令嬢の身体に直接手をかけて押さえつけた護衛は暴行行為で解雇、全財産没収の上領地から永久追放。義妹のアンヌは未成年だが、髪結い師見習いのくせに違法と承知な髪染めを行ったとして、同じく無一文で永久追放。

 本来なら、平民が貴族令嬢を害したとして極刑ものだが、首謀者はユベール、貴族令息で被害者の親族だ。 

 ユベールは最初にアンヌがまだ見習いだからムリだと言ったのに、次期伯爵直々の命だとふんぞり返っていた。貴族親族間の諍いに平民が巻き込まれた形で、イレーヌからの嘆願があった。


 姉のデジレが妹で弟子であるアンヌの監督不行届けだと申し出て、罰を願いでていた。

 デジレはイレーヌから恋バナの相談を持ちかけられるほど信頼されていた。イレーヌがお相手の家族との顔合わせでどれほど緊張していたか知っていたから、うまくいくように願っていたというのに、その間に夫と妹がやらかしてくれたのだ。

 イレーヌの慶事に水をさす行為だ。強く責任を感じていて、特級髪結い師資格も返上し、夫や妹と同じ処分を受けると言われて、デジレまで処刑するわけにはいかなかった。

 確かに、妹の教育を間違えたかもしれないが、デジレは直接関与していない。デジレが途中で止めに入ったから、切っただけで済んだ、とも言える。

 髪染め液が合わずに頭皮が爛れる体質の者もいるのだ。エリゼーヌは液の刺激臭で目と鼻を痛めていたから、頭頂部などに塗られていたら、それこそ丸坊主にしなければならない可能性だってあった。

 これから本格的な真冬になる時期に無一文で着の身着のまま、領地から放りだされるとか、ただの平民には十分重い処罰だった。野垂れ死にしてもおかしくない。


 ファブリスはふんと鼻を鳴らした。

「伯爵は常識的な方でよかった。これでお前の妻や先代と同類だったら、どう報復しようかと思っていたところだ」

「父上、それは・・・」

 イヴォンは父の怒りに青褪めた。

 先代・マドレーヌの両親は芸術家夫妻として有名だった。夫は作曲家で、妻はヴァイオリンの名手だ。よく創作活動や演奏旅行で領地を留守にする事が多かった。少々、世情に疎い芸術家気質で、娘の養育は乳母任せでマドレーヌの気質は少々ワガママなだけと軽い認識だった。

 今回のイレーヌの婚約内定では顔合わせがすむと、諸国漫遊の旅にでていた。孫娘の婚姻を祝福して新たな作曲を創作するのだ、とインスピレーションの赴くままに放浪し、創作拠点を定めるまでは連絡不可の状態である。

 内孫の外孫へのやらかしはしばらく耳に入らないだろう。


「はっ、先代には何も期待などしとらん。お前もいい加減、妻の本性から目を逸らすな」

 ファブリスは息子に無情に言い放った。

 王都の子爵家の老執事から報告を受けていて、マドレーヌの娘への仕打ちは全部把握済みだ。

 老執事は幼い頃からの友人だった。主従関係だが全幅の信頼を寄せていて、息子と老執事のどちらをと言われればファブリスは迷わずに老執事を選ぶ。

「エリゼーヌは髪が伸びるまでは私が預かる。お前はさっさと戻って妻のヒステリーを抑えろ」

「父上、そんな・・・」

 イヴォンは顔を曇らせた。エリゼーヌを連れてきたのは確かに預かってもらうつもりだったが、言い方があるだろう。

 エリゼーヌはミルボー家にいるのは気まずいらしく、すぐに抜けだして女神教の教会に行こうとするから置いておけなかった。

 女神教に出家されてしまえば、事情聴取されて事実関係が確認された途端、実の親といえど面会は禁止される。数カ月間、教会で暮らして本当に決心が鈍らないなら出家が認められてしまうのだ。未成年とか年齢は関係なく、女神教は救いを求める者の身分は関係なく受け入れる。

 かといって、子爵家には帰れなかった。マドレーヌがエリゼーヌの短髪を見逃すはずはなく、ユベールの処罰を知れば大騒ぎは確実だ。


「エリゼーヌは我が家の跡取りだ。それ以前に、大事な可愛い私の孫娘だ。このような事態は二度と認めん。

 次に何かあれば、エリゼーヌを養子にして、お前たちとは縁を切る。覚悟しておけ」

「!」

 ファブリスは絶句する息子を使用人に追いださせて、孫の生活環境をいそいそと整え始めた。


 エリゼーヌの髪が見苦しくない長さになるまでーー、半年後の10歳の誕生日を迎えるまで、ファブリスは孫との生活を楽しんだ。

 そして、エリゼーヌの次の婚約話が浮上したのは翌年の春先の事だった。

過去編は終わりです。明日からは現在の時間軸に戻ります。

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