婚約模様さまざまです
ジェスターがついため息をつくと、レナルドが怪訝そうに問いかけてきた。
「どうしたんですか? 今日はあまり気乗りしてなさそうですけど」
「どこか調子でも悪いのか?」
アルマンもジェスターに注目してきた。
今日は王宮で第二王子ジルベールに魔力制御の訓練をする日だ。王族と学院で同級生になるお相手として高位貴族のジェスター、同じく侯爵家のレナルド、そして伯爵家のアルマンが学友として月に数度一緒に学びの場を得ていた。
その昔、魔力暴走を引き起こした狂乱王の事例があるから、高魔力の子息や令嬢は幼い頃から魔力制御の訓練を受け、学院に入学する頃には完全にモノにしているのが高位貴族の常識だ。
ジェスターたちは5歳になってから親の登城に付き合わされて顔合わせしていた。彼ら4人は幼馴染でそれなりに親しくしている仲だ。
只今はジルベールの訓練を見学中で、次はジェスターの番だから調子が悪かったら訓練には参加させられない。少しの不調でも高魔力保持者の彼らは魔術の扱いには慎重を期すのだ。
「そう言うのじゃなくて。執事から出された課題に悩んでただけ」
「ああ、君のとこは厳しいですからね」
「あー、まあ、大変と思うが、頑張れ」
レナルドとアルマンは遠い目をして激励してきた。ルクレール邸に遊びに行った幼少期に若執事の調き・・・、いやお説教を受けたことがあって、彼の恐ろしさは身に染みて知っている。
過去の恐怖の残像を振り払おうとレナルドが話題を変えてきた。
「そう言えば、君、そろそろ婚約者探し終えたんですか? どこぞのご令嬢を振ったとかの噂が聞こえなくなりましたが」
従姉妹が振られたレナルドがしれっと嫌な話題を振ってくる。
「君の従姉妹って、化粧お化けに香水塗れだったんだけど? さすがにアレはちょっとどうかと思うよ」
「アレ扱いとか酷いですよ」
「いや、香水がきついのは本当にキツいぞ?」
アルマンがダジャレではなくて、本気で嫌そうに顔をしかめた。兄の婚約者探しに同席させられた幼い頃に嫌な目に遭ったことがあるのだ。
「まあ、彼女は3歳も年上でしたし、なかなか婚約者が決まらなくて焦ってましたからね。気合が入っても仕方がないかな」
「相応しいお相手がいつかは現れると思うぞ」
アルマンが無難に話をまとめる。そういえば、彼は昨年婚約したばかりだったな、とジェスターは思い出した。
「アルマンは年下の従姉妹と婚約したんでしょ。どうやって求婚したの?」
「はっ? え、き、き、きゅ、球根?」
「いえ、そっちじゃないと思います。求愛の言葉でしょう?」
「きゅきゅきゅ、あ、あ、あいって⁉︎」
「だから、婚約の申込みの言葉じゃないですか?」
言語能力が不能になった友人にレナルドが通訳だ。表情筋が仕事することがあまりないアルマンが珍しく真っ赤になってウロウロと視線を彷徨わせている。
「ねえ、アルマン。大丈夫? 君の方が今日の訓練、休んだ方がいいんじゃない?」
「だ、だレノ、せ、せいだと・・・」
「動揺しすぎだと思いますよ。アルマン、君の婚約はお母上同士が決めたって聞きましたけど、実は自由恋愛だったんですか?」
「れれれれ、れんあ・・・」
「あ、ダメだ。レナルド、止め刺してるよ」
ジェスターが頭を抱え込んでうずくまってしまった友人を指差した。無表情が常で朴念仁の少年には刺激が強い話題だったようだ。再起不能のアルマンを二人は放ったらかして会話を続ける。
「レナルドは祖父君が決めたんだっけ?」
「ええ、ベルナール家の先代夫人と友人だったので。チェス仲間で気が合ってたんですよ。だからと言って、孫同士も気が合うとは限らないのに、いい迷惑ですよ」
レナルドは不本意そうに口を曲げた。レナルドの婚約は6歳で祖父が決めたものだから当然本人の意思は関係ない。どうやら、相手も不本意らしく、仲良くしている姿は見たことがなかった。
「私は三男で独立しなきゃならないですから、持参金の多い相手なら誰でも構いませんが」
「君って現実的だね」
「そう言う君はどういう風の吹き回しで興味を示したんですか? 他人の婚約事情に口出しなんて珍しいじゃないですか」
「ちょっとね。僕は独身主義で構わないんだけど」
「ダメですよ、ルクレール家に分家はないんですから。映えある名門ルクレール侯爵家を潰すつもりですか?」
「うーん、レナルドがルクレール家に養子に来ない? それで後継いでくれると僕は好きにできるんだけど」
「ヤですよ。なんだか、魔術の研究とかで無理難題押し付けてきそうでしょ。ジェスターは好きな事にのめり込んだら、後先考えないじゃないですか」
「そうでもないと思うけど?」
「自己評価は正確にした方がいいと思います」
そうこうしている間にジルベールが訓練を終えてジェスターの番だ。まだ、混乱中のアルマンを友人に任せてジェスターはジルベールと入れ違いに訓練場へ入る。
「ああ、聞き忘れたな。まあ、彼らじゃ参考にはならなかったから、いいか」
ふっと独り言を漏らしたジェスターは若執事からの課題・婚約者候補への誕生日プレゼント選びを一旦後回しにすることにした。
一部の友人たちとの絡みです。興味のある方は一部もご覧ください。




