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第一回使用人会議、開催致します

 深夜のルクレール邸のある一室で密かな会合が開かれていた。参加者は小さな手燭台で手元のみ照らし、席についている各々の顔は見えない。

 全員が席に着いたところで、議長席からある人物が声を上げた。

「それでは、これよりルクレール邸使用人会議・第一回『若様の独身主義返上を望む会』を開催したいと思います」

 深夜なので控えめな拍手が起こる。

「えー、これまでは各自独自に対処してまいりましたが、今回のお嬢様を逃すと若様には後がないと思われます。是非とも、研究バカを加速させそうな若様の暴走を諌めていただけるようお嬢様を教育しつつ、お嬢様に若様の興味を惹きたいと・・・」

「議長、よろしいですか?」

 一人の参加者から挙手だ。

「なんでしょうか?」

「若様のご意志を無視するような真似はお止めになった方がよろしいかと。独身上等、研究バカの何が悪いと思いますが?」

「あー、お前、この前二股かけられてフラれたばっかりだからって、それはないんじゃねーの?」

「そうだよー、若様、お前と違ってモテるんだから。肉食のお嬢様方に狩られちゃうよ。今のうちにいいお相手見繕っておかないとヤバいじゃん」

「やかましいわ! 人の傷口に塩ふって抉るなや!」

「ええー、自分が不幸だからって他人を巻きこむのはちょっと・・・」

「お前にもいつかは春が来るさ」

「てめえらも同じ穴のムジナだろうが!」

「・・・そこの、護衛騎士集団。私語は控えてください。それから、この会の趣旨に反するならば、ばあや様からお仕置きがございますが、覚悟の程は?」

「い、いえ。申し訳ありません」

「静粛にさせていただきます」

「・・・前言撤回致します」

 冷ややかな議長からの申し立てに集団は大人しくなった。ごほんと咳払いして議長は話を続ける。

「えー、冷やかしは厳重注意がございますのでご了承ください。本題に戻りますが、若様とお嬢様の様子をそれぞれのお付きの者から報告してください」

「はい、若様のご様子ですが、いつも通りにいかなくて戸惑っておられるようです。若様の塩対応が通じないというか、草食系なのかあっさりとしているお嬢様なので。

 まあ、若様が嫌っていないだけ、これまでよりはマシと言いますか・・・」

「お嬢様付きです。お嬢様の様子は遠慮がちですね。どちらかというと、旦那様に懐いていて若様はついで扱いのようです。お嬢様の方では親しくなろうとされてますが、若様が・・・。

 この前なんて、お嬢様が折角家紋の刺繍入りのハンカチを贈ろうとなさったのに断りやがりましたよ」

「うそお、勿体ない」

「お嬢様、プロ級の腕前だよね。あの年で凄いのに」

「家紋の刺繍入り・・・、羨ましい、彼女欲しい〜」

「止めんか、鬱陶しい」

「ウザいんですけど?」

 独り身の野郎どもから割と本気な呪詛の声が漏れた。彼らは左右の参加者から遠慮なく邪険にされる。

「私語は慎んでください。それでその後の進展しそうな気配は?」

「若様はまあ、気になっておられるようだが。何せ、お嬢様の容姿が若のお気に入りだったクマクマと同じ色合いだからのう」

「クマクマって何? 庭師のじーさん」

「若のお小さい頃に毎日抱っこしていたクマのぬいぐるみでな。自分より大きいクマを若は引き摺りながらもいつも持ち歩いておられてなあ」

「ええ、可愛らしかったですねえ、あの頃の若様は」

「クマクマがボロボロになっても手放さなんだ。修復不可になったら大泣きしよって」

「ええ、覚えておりますわ。『クマクマを生き返らせて』と旦那様に懇願してましたねえ」

「うわ、年寄りの昔語りが始まったよ」

「長いんだよなあ」

「そこの集団、お仕置き確定しますが、よろしいか?」

「いえ、すんません!」

「石になってますからお見逃しを!」

「・・・俺は今回無関係です」

 議長が眼鏡を外してレンズを拭きながらため息をつく。

「はあ、皆さん、危機意識に欠けていますよ。若様が独身主義を貫いたら、研究に打ち込むあまり寝食を疎かにした早死にの予感しかしませんよ。諌められる奥方は是非とも必要です。ご家族ができれば自分の身を大事にするようになりますから」

「さすがに経験者の言葉は重みがありますなあ」

「ほほほ、貴方も昔は無茶ばかりしてましたからねえ」

「お願いします。止めてください。私の過去はバラさないでください」

「ええー、知りたいですよ」

「そうですよ、万能有能な若執事の黒歴史とか、拝聴の価値ありますって」

「お前ら、命知らずだな」

「君たち、ナディア様とバスチアン様に再教育をお願いしておきますね」

 侯爵家の二代勢力・乳母と老執事の名をだされて護衛騎士たちが青ざめた。

「ひでぇ、この会匿名でしょ。実名出します?」

「そうだ、そうだ。抗議するぞ」

「君らは別。扱かれてこい!」

「俺は無関係なのに〜」

 議長が騒ぎの中心になったので、議事録係だった侍女頭がぱんぱんと手を打って注意を引きつけた。

「静粛に! この会議所にはいつでも誰でも記録・閲覧できるように会議録を置いておきますから、皆さん、有効と思われる情報を記入して情報共有しておくように。それでは、第一回目は以上で解散致します」

「はーい」

「了解です」

「お疲れ様です」

「君らは残ってください」

「ええ、なんで?」

「だから、俺は無関係だって・・・」

 ゾロゾロと撤収する使用人の中で若様専属執事に護衛騎士たちだけが残された。

侯爵邸は何気に仲良しです。

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