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婚約破棄と解消と保留、そしてする予定はありませんけど?  作者: みのみさ
第三部 婚約しましたが、何か?
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婚約5年目 プロローグ

5年目の二カ月前から始まります。厳密にはサブタイトルは『5年目の少し前』ですね。

ジェスターは17歳、エリゼーヌは16歳になります。

「久しぶりだな。皆、元気だったか」

「ええ、こうして四人が揃うのはいつ以来でしょうか」

 ジルベールとレナルドが感慨深げに頷き合っていた。アルマンも同調してしんみりしているが、ジェスターは大げさなと軽く肩をすくめる。


 魔力制御の訓練で四人が揃ったのはずいぶんと久しぶりで、今日が最後の訓練日だ。


 貴族ならば就学必須の高等学院入学まであと二カ月ほどだった。

 入学準備は着々と進んでいた。魔力制御もできるのが当然になっており、訓練の意味がなくなっていたが、入学前に最後に顔を合わせる機会として招集されたのだ。

 昨年の半ばから、アルマンが叔母のブロンデル伯爵夫人のために障壁を張る魔力の充填措置の関係で訓練に来られなくなった。今年の春先にはジェスターが父の仕事にくっついて遠方へ出向き、数カ月は留守にしていた。王都の薬草不足の影響だ。

 その問題解決の目処がついたと思ったら、もう第一王子クロヴィスの結婚式が迫っていた。

 世継ぎの婚姻で前々から決まっており、準備には十分な時間をかけていたのに、突発的な薬草不足の対応で余裕のあったはずの準備期間がギリギリになってしまった。王宮では慌ただしく右往左往したりしたものの、他国からの来賓を招いた式も王都で市民へのお披露目パレードも順調で全てが無事に終わった。

 その後は、王都では王族の幸せにあやかろうと世紀のウェディングブームだ。貴族も平民も結婚ラッシュが相次いだ。冬季になってようやく落ちついたと思ったら、闘病中だったブロンデル伯爵夫人が亡くなり、葬儀が行われることになった。

 高明な薬師として名高いブロンデル家の訃報だ。

 王都では身分に関わらず、様々な分野の有力者たちがブロンデル家に弔問に訪れた。アルマンはもちろん友人のジルベールらも、だ。


 一連の諸々が落ちつき、平穏な日常生活が戻った頃であった。


 ジルベールが紅茶を一口飲んでから口を開いた。

「アルマンは何かと大変だったと思うが、入学準備は大丈夫なのか?」

「ああ、なんとかな」

「ブロンデル嬢も落ちつかれましたか? もし、差し支えなければ、学院入学までに一度お互いの婚約者の顔合わせをしておきませんか。

 学院では同級生や下級生になって接点ができますから、今のうちから顔見知りになっておいたほうがよいでしょう」

「ええー、やだよ。面倒くさい」

 レナルドの提案を一言で切って捨てたのはジェスターだ。まあまあとジルベールが宥めてくる。


「ジェスターの婚約者は子爵令嬢だし、地方住まいだろう。機会を設けないと会えないぞ」

「どうせ、学院に入学すれば会う機会はあるよ。顔合わせのためだけにわざわざ王都まで呼ぶつもり?

 領主のファブリス様はブロンデル家の葬儀で王都にきたばかりだったよ」

 ジェスターが婚約者は祖父の同伴がなければ領外へは出かけないのだと説明してきた。

「ああ、それではしかたないか」

「・・・そうですね、シャルリエ領は遠いですから。令嬢一人ではよこせないでしょうし」

 ジルベールが納得してレナルドも頷いた。ジェスターはほっとした。


 彼らが次期侯爵夫人となる婚約者の品定めをするつもりだと気づいていたのだ。悪気はないのだろうが、王族と侯爵家の令息が相手とか、大人しい婚約者には荷が重いだろう。それにジェスターも大事な婚約者を値踏みする視線には晒したくない。友人たちのお節介は大きなお世話だった。

 ジェスターが顔をあげると、訝しげなアルマンと目が合った。

 ブロンデル家と重要な取引相手で親しくしているファブリスは確かに葬儀に出席後は領地へ戻っていた。しかし、孫のエリゼーヌはブロンデル家末娘のヴィオレットの親友だ。ヴィオレットを慰めるために王都に残っている。

 ヴィオレットの婚約者であるアルマンはそれを知っていたから、ジェスターの説明が腑に落ちなかった。


「ジェスター。確か、エリゼーヌ嬢はまだ」

「アルマン、ジョアンナ様は喪中になるけど、卒業後にはすぐに嫁ぐ予定かな?」

「ああ、そうだな。叔母上のために式だけは先に挙げさせてもらったから。卒業後は婚家に入らないと外聞がよくないだろう」

 アルマンは言葉を遮られたものの、律儀に答えた。

 ブロンデル家の長女ベアトリスと次女ジョアンナはロイヤルウェディングにあやかって式を挙げた。ベアトリスはもともとの予定だったが、ジョアンナは母親のたっての望みだった。

 魔力衰退症の末期でもう長くない夫人に娘の晴れ姿を見たいと願われたのだ。

 ジョアンナはまだ学生で卒業後の婚姻予定だったが、王都で式だけ挙げた。花嫁として嫁ぎ先の領地でのお披露目はしていない。本来ならば、一年は身内の喪にふくすべきだが、すでに挙式は済ませているため、早めに体裁を整える必要があった。


「そういう事情ならば、しかたないでしょう。ブロンデル家はまだまだ大変そうですね」

 レナルドが残念そうに肩をすくめた。

 葬儀後で落ちついたと思ったブロンデル家が次女の嫁入り準備で慌ただしいとなると、彼の提案した顔合わせは難しいだろう。

 ジェスターはレナルドが諦めてくれて安堵した。アルマンには後で口止めしておくことにする。

 婚約者のエリゼーヌは王都に滞在中はルクレール家に宿泊していたが、今回は離れの改装が済んで住み心地の確認で実家に泊まっている。ただでさえ、一緒に過ごす時間が減っているのに、煩わしいことに逢瀬の時間をとられたくはない。

 ジェスターは父のお気に入りの令嬢との婚姻ではなく、自身が望んだ婚姻だと友人たちに告げる気はなかった。

ジェスターたちが高等学院に入る少し前、準備中のお話です。

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